歪みを識る者達 5
そして、次の木曜日。
「あの、勇太さん!」
基礎生物の授業が終わり、我先にと講義室を出て行く学生達に紛れそうなフードに、怜子は思いきって声を掛けた。
「何?」
怜子の呼び止めに屈託なく笑い、怜子が座っている場所までやってきた勇太に、鞄から取り出したランチボックスを差し出す。
「これ。少しだけ。腹の足しにはなると思うから」
ランチボックスの中身は、今朝自分のお弁当と一緒に作った、胡瓜と卵焼きとかにかまぼこを入れて巻いた巻き寿司。黄色と緑と赤が鮮やかな、怜子が得意とする料理の一つ。勿論、幽霊と歪みのことを最初に解決してくれた勇太への、御礼のつもり。
「美味そう」
無造作にランチボックスを開けた勇太は、中身を見て感嘆の声を上げ、そして一つ食べてまた感嘆の声を上げた。
「美味い」
勇太が拒否したら怜子が全部食べようと思っていた巻き寿司は、あっという間に勇太の口の中に全て消える。
「これ、兄貴の研究室に持ってったらあいつら絶対喜ぶぜ。あ、三森は肉とか魚とか食わないからあいつだけカッパ巻きな」
口を動かしながら爽やかに笑う勇太を、怜子は自分の空腹も忘れ、嬉しく見守っていた。