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8

 煙の向こう側からは、重量のある地鳴りが聞こえ出した。


 もう時間の余裕はない、フェイが僕の乗った馬の尻を叩いた。

 馬が狂ったように走り出す。


 鉄条網が螺旋状に伸びて付いてくる。

 鉄条網は一本だけでは戦場の端から端までは届かないので、途中でレバーを引いて予備の鉄条網の束にしないとダメだ。


 煙の向こう側にはもうすぐ恐ろしい騎士達が迫っているのだろう。

 心臓がバクバクして僕は死にそうだ。むしろ殺してくれって心境になる。


 中央付近に来た頃、後ろで異音がするのでレバーを引くと、ガツンと最初の樽が外れた僕はそれに合わせて、次のレバーを引く。


 …あれ?反応がない。もう一度! もう一度引いたら今度は上手く行った。

 良かった、失敗してたら姫様に殺されるところだった。


 安心した時僕の右の視界に、煙の向こうから恐ろしい騎士達の姿が見えた。


 ひーーーーー


 こっちに来たら殺されちゃう。

 急げ、急いで走ってください。

 僕は祈るように下を向いて馬で走り続けた。


 気がつくと僕は川の中にまで飛び込んでいた。

 なんとか馬を川から出してやると、戦場は混乱している。

 機械を外してやった馬をに乗って、川沿いに裏を通って中央に戻ってみたら様子がおかしい。


 中央付近の左手から敵兵が雪崩れ込んでいる。

 何が起きたんだ?

 急いで壕の上に登って下を見ると、鉄条網が中央の左手辺りでポッカリ空いてる場所があり、そこから敵兵が傷口を広げようと殺到している。


……

 んん、ん? もしかしてレバーの切り替えタイミングで鉄条網が無い場所できちゃったのかな?


「僕かな」

「そうだよ」

 いきなりヒゲを掴まれて下に引き倒された。

「うううわっわっわあわ」

 目の前にスカーフから顔を出した、鬼の形相の姫様がいた。


「ひひひ姫様ご無事でなにより」

 僕は両手を合わせて祈っている。


「うるせえ、グダグダ言ってないでスコップ持って前に出ろ

 味方の援護にいけ」


 …姫様…僕は…技官であって…武官の…皆さんの…ような…強さは…ございませんよ……

 涙目で、テレパシーを送ってみた。


……


 姫様がにっこりと頷く。

「よしわかった、死んでこい」


 僕を前に蹴り出して、姫様も乱戦に加わる。



 乱戦に加わった僕には分からないことだったが、鉄条網の生きていた左右の戦線はしっかりと粘っていて、中央付近への支援射撃を続けて圧力を少しでも減らそうと奮戦していた。



「うわわわわ、姫様ー」

 僕は乱戦に加わったが、気がつくと目の前にはフルプレートアーマーで武装した大きな騎士が立っていて、傭兵達をなぎ倒していた。


 …まずい、僕死んじゃう。お鼻を垂らしながら、後ろに下がろうとしたら誰かが背中を蹴飛ばして僕は騎士の前に立っていた。


「ふはははは、貴様が相手かああ」


 あ、死んだ、僕死んだ。ドワーフなのに30過ぎて童貞のまま死んじゃうんだ。姫様は『30過ぎても童貞のままなら大魔導士になれるんだよ、ウフフッ』って嘘ばっかりじゃ無いかー。僕はろくな魔法も使えないよお、僕の青春を返せ。


 と、その時僕の頭を踏み台にして飛び越えた奴がいる。

「ぼくを踏み台にしたあ? 」


 姫様だ、姫様は僕を踏み台にして騎士の振り下ろす大剣を、自分の左手に持つレイピアで力をいなしつつ体をひねって避け、飛び越えたときの勢いで右手に持った黒のナイフを騎士のアーマーの上から喉に深々と突き刺し、そのまま掻き切った。


 姫様神々しい。


「おら、立て、泣きごと言っていつまでも寝てんじゃないよ、さっさと前に行け」

 やっぱり姫様は鬼です。



 僕たちは頑張りました。それはそれは頑張りました。でも敵の数の方が多い上に相手は、重装備と突破力に特化した騎士です、魔法も使います。


「僕たちにどうしろってんだよー」


 後ろへ下がる兵士を手伝ってポーションを飲ませると、飲んだ兵士はまた立ち上がって最前線へ向かう。

 ポーションを飲んだからって言っても怪我が治るわけじゃ無いし、肉体に残った痛みはそのままだ。

 確かにプラーナ魔力を補充しているので、プラーナ防御壁は復活して硬くなるが、それでも完璧じゃ無い。騎士の強力な攻撃をまともにもらうと一発で防御壁を突き抜け、その肉体を破壊される。



 僕のやっていた研究の、プラーナ防御壁の天敵の魔石武器に対抗する防具も配っているが、騎士が強すぎて無いよりかはマシって程度だ。

 せめて後少し兵器の質が良ければ……



 このままではジリ貧で、いつかどこかで決定的に崩壊する。

 特に左翼側が危ない、中央部の傷口が左翼に広がってきていて圧力がかかり続けてる。


 ただここまできても崩壊してない理由は、陣地の背面が川で逃げ場が無いせいで、普段は勝手な傭兵達も逃げ出せず、生きるために皆死に物狂いで踏ん張っている。

 背に水の陣地か、姫様はよくこんな事考えたな。鬼じゃないか。


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