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★決戦当日 早朝 ヒューパ決戦陣地
拝啓、故郷の親方様、私ベックはお陰様をもちましてヒューパで大出世をいたしました。
ありがたい事に技官の長官という地位を頂きまして、今我が国の女王、ティア様のお馬の後ろを随伴する栄誉を賜っているところであります。
あ、また真横に矢が降ってまいりました。
どうやら後ろから追いかけてくるセト教国連合軍の中に、風魔法を使って遠くまで矢を飛ばす使い手がいるようですね。
僕の目とパンツの中から汁が止まりません。
僕もある意味姫様の盾役ですが、前を行く姫様を守る親衛隊の皆さんが、盾を構えて姫様を守りながら馬を全力疾走させています。
化け物ですよね。
姫様と言えば、滅茶苦茶に嬉しそうに笑っていますが、僕たち死にそうなんですよ、この方の神経はいったいどうなっているのでしょうか?
あ、うちのミニ要塞の馬出しに付けた簡易扉の丸太がどかされています。僕達を中に入れてくれるよう頑張っていますね。
わーい。
馬術が上手な姫様達が中にはいっていきました、僕は少々馬術が苦手なので遅れましたが、もう少しなので頑張ります。
っと、あ、ちょとちょっと、僕まだなのに丸太で締めちゃダメ。
「ダメー」
ギリギリで中に入れました。
後ろでは丸太にぶつかった騎士が吹っ飛んでいます。
騎士はプレートアーマをつけていなかったので、プラーナ防御魔力だけが彼の防具でした。うちの傭兵団にフルボッコにされてしまっています。
もっと後ろを見ると、敵の兵隊さんの津波が広がっています。
ワーワー言いながらバラバラに走ってきてますね。
この戦争が終わったら長官の職を辞退して、親方の元でまた鍛冶屋をやりたいと思っています。
ところで僕は、親方の元に帰れるんでしょうか?
★決戦当日 早朝 ヒューパ司令壕
周りよりも1m程高く造成した土台に、土嚢を積んで銃眼だけを開けたかんたんな壕が、ヒューパ軍作戦司令部です。中には四人程が地図を見ながら作戦を練っていました。
ティア様がこちらに来たので僕も一緒にくっついてきました。
安全な場所ゲットです。
ティア姫様は、馬から降りると中にいる副官のフェイを呼びます。
「フェイいるか? 」
「はい、ここに」
「傭兵団共の女達はどうした」
「はい、従軍娼婦達はこの壕の後ろに待機させています。いざとなったら馬車にウキを付けているので、川に流せば脱出できるでしょう」
「うん、良くやった、それと大砲の準備はできているか? 」
「はい、大体の狙いはつけております」
「なら今見えてる半分、そうだな5千が通ったらブチ込め」
「了解」
敵が降りてくる丘を見ると、地形の関係から一箇所に人が集まって渋滞している場所あるではないですか。
そこに我が国自慢の大砲をブチ込むわけですな、僕たち開発部の誉れです。
「フェイ、ちょと椅子を貸せ」
「え? ティア様どちらに?」
「この屋根の上の見晴らしがいい場所で、敵が木っ端微塵になるのを見物する」
「えーーー、誰か姫様を止めて、何のためにこんな壕を作ったと思ってるんですか、辞めて下さい」
「うるさいっ」
姫様は、司令部の椅子を強引に奪って屋根の上に行きました。
僕はこっそり司令部の中に入ろうとしていましたが、後ろから姫様にヒゲを掴まれて引きずって連れていかれました。
「おい、髭モジャ、私の後ろに立って旗持ってろ」
…もう名前ですら呼んでくれません。
「はい…」
姫様に渡された旗は、よく分からないが召喚されてきた勇者様の文字が書かれているそうです。
『風林火山、七生報国、愛羅武勇』
「何て読むのだろう…」
思わず口に出してしまった。
「ふっ、戦の天才、武田信玄と楠木正成よ」
益々訳がわからないが姫様の描く文字は力強い、多分凄くかっこいい将軍様なのだろう。僕の予想では髭モジャだ(惜しい、それはどちらかと言えば足利尊氏だ)
前の堀まで敵の第一陣が到着する頃、うちの大砲が火を噴きました。
物凄い轟音と共に、正面の斜面で渋滞していた敵兵の頭の上に砲弾が炸裂すると、人間が木っ端微塵に吹き飛ばされています。
何発かは外れましたが、やはり大砲の威力は絶大で、敵がワラワラと散って散会していきます。
前線では敵猪武者の騎士達が、後続が切れたため勢いが見事に止まって、うちの鉄砲の餌食になっており、これはイケる、僕も生きて帰れると喜んでいました。
僕の前に座っている姫様の横顔をみると、スカーフの上からも分かるぐらいとても嬉しそうに笑っています。
最初の攻撃で、5千人近い敵を倒したと思われます。うちは無傷で大勝利です。
2万3千の内の5千人、敵は大損害ですね、僕ならもうお家帰ってご飯食べてお風呂つかってから寝ます。…神様お願いです、そうしてください。
僕が必死で神様にお願いをしているのに、姫様ときたら何か一人でブツブツと自分の失敗を責めている様子です。
「しまったな、ちょっとやり過ぎたか、1年もかけて奴らを引っ張り出して準備してきたのに、最後のツメで逃げられちまったら何もかもパーだ」
僕の事を大事にしてくれない姫様が何かで悩んでいるのが嬉しくて、つい『プッ』て吹いたら裏拳で殴られました。
姫様ひどい。
僕の気持ちはどうやら届かなかったようで、一度引いた敵軍は再編成をしていたらしく、お昼前ぐらいに再度出ようと動き出しました。