第2話:この乾いた砂漠の地で
そして僕は地面に辿り着いた。
頭から行った。
頭蓋骨が砕ける音がした。
それは一瞬で次には聞こえなくなった。
鼓膜が破れたからだ。
全身の皮膚が垂れ下がり、僕の目や鼻を塞いだ。眼球が少し飛でて、皮膚の直ぐしたに丸々とした眼球が覗いていた。
耳からは血が噴き出し、血でべちゃべちゃに濡れた頭は潰れた西瓜のようだ。
僕は僕の隣りで僕の姿をまじまじと観察した。
…行かなきゃ。
彼はこの世界にいらなかっただけのこと、僕もこの世界にいらなかっただけのこと…、そして彼女も…。
見上げた空から人影が飛んでいるのが見える。
彼女は振り乱した髪と頭を地面に叩き付けた。
「夏なのに西瓜は無理かな…」
僕は歩きだした。
新しい世界へ…。
頬に冷たいものを感じる。
夢?寝てたのか…、頬に感じたのはよだれだった。
それにしても酷い夢だ。
よだれを拭いながら顔を上げると、もう何が何だか分からなかった。
よだれの付いた机、固い椅子、サブバック、ノートに教科書、いつもと同じ制服、何が違う?
世界が違う。
今いる場所が違う。
僕は見渡す限り砂の世界で居眠りをしていたようだ。
「ここは…?」
僕はこの世界に必要なのだろうか?
「どこ…?」
こんな世界に…。
椅子に座り世界を見渡す。
砂、砂、砂だらけの世界、僕はこんな世界を望んだのだろうか?
僕が死んだのは夢?じゃなかったのか…?
ってことは、ここは死後の世界?
一体僕はどうしたら良いのだろう?
地平線まで砂漠が続き、地平線で砂漠と空に別れ、その先も砂漠なのだろうか?
机に顔を乗せ、地平線を眺める。
熱のせいでかなり揺らいで見える。
とにかく移動しよう。
このままでは干からびてしまう。
机と椅子に別れを告げて歩き出した。
余り考えたくないのだが、最低限の最悪について考えながら歩いた。
ここが死後の世界では無いことは何となく分かる。心臓は動いているし、三途の川も無い、なにより自分はまだ生きている感覚に溢れている。
だとしたらここはどこなのか?それが問題だ。 ここがせめて地球であることを祈りたいが、きっと違うのだろうな。
空の色も空気も風も砂の感触も全て同じだけど、違うんだろうな。
立ち止まり砂を指に通す。さらりと擦り抜けて乾いた粒が砂に混じって消えた。
歩かなきゃ、そうじゃないと干からびて死んでしまう。
このままだと何も知らずに何も出来ずに死んでしまう…、向こうの世界に居たときのように。
太陽が容赦なく照り付ける暑さの中、直射日光による熱と疲労による体力の消耗で、かなり参っていた。
砂漠にしては暑さもそれほど感じないのが不思議で、空気は乾いているものの、風が吹けば涼しいし、本当にここは砂漠なのかと疑問が頭を過ぎる。
一息ついて、本当にこっちの方角であっていたのだろうか?と真剣に考える。
振り返ると机と椅子の姿は無く、随分と遠くに来たのが分かる。
躊躇いを持って歩いても前に進めないぞ、と自分に喝を入れるが、歩いても歩いても先の景色が変わらない環境に、不安と戸惑いは付きまとい、だんだんと疲労も溜まっていく。