九
ちょっと短いですが……
ちゅんちゅん、と窓の外から小鳥たちの囀りが聞こえてきました。朝日が差し込んできます。
ああ、もう朝ですか。あまりよく眠れませんでした。
鼻にツンと来る薬草の匂いが臭くて。軟膏ってどうしてこんなに臭うのでしょうか? 柑橘系のエキスとか混ぜたいですよね。
ピクミーさんはまだ可愛い寝息をたてています。
そんな彼女の腕を見ると、まだ擦りむいた部分が赤く滲んで痛そう……。
仕方ないですね。
《我願うは光の使途》
一瞬で黒かった肌が真っ白になり、髪の色もシルバーからエメラルドグリーンへと変化しました。頭を左右に振り、長い耳をふるっと動かし、精霊力が闇から光へと変わったのを確認します。
何だか雨に濡れた犬っぽいですよね。エルフ禁止令が出てまだ三日なのに、何だか懐かしい気分です。
さて、気づかれないうちに治してあげましょう。
《蒼き光の精霊よ、癒しを与え給え、わが前に居る敬遠なる子羊に慈悲を与え給え》
淡い光がボクの身体から発光したかと思うと、みるみるとピクミーさんの怪我が治っていきました。
傷痕を見るも全く残っておらず、綺麗なすべすべの肌になっています。
よしよし、完璧ですね。自分の魔法に惚れ惚れしちゃいます。
《我纏うは闇の衣》
再びダークエルフへとチェンジします。
そしてベッドを抜け出して床に置きっぱなしの革鎧を着ていると……ふと視線を感じ……。
「へー。プラムって珍しい事が出来るんだね」
「……っ!!」
ベッドの上で興味深そうにボクを見つめるピクミーさん。
や、やばい見つかった。
「えっと……見ました?」
「うん、エルフになったりダークエルフになったり出来るって凄いねプラムって。それって魔法? 幻影? あー、でも回復魔法使ってたし幻影じゃないよね。すっごく興味ある! 詳しく教えてー」
なにやらごちゃごちゃうるさいピクミーさんを完全無視しながら、一つの恐ろしい将来が垣間見えました。
『プラムさん、お仕置きです』
烈火のごとく怒るシルス様の拳がボクの脳天に落ちました。下手すると頭蓋骨陥没……いえ脳みそが飛び出て、瞬時に回復されまた脳天カチ割り、そんな拷問が目に浮かぶようです。
背筋がぞっとします。
……よし、消そう。
「ちょっ?! 何そこで呪文唱えてるのっ?!」
「ピクミーさん、ボクの幸せな未来の為に礎となって下さい」
「目がマジだって!」
「もちろんマジです」
このグラスランナーさえ居なければ、ボクは安泰なんです。指をピクミーさんの方へ向け……。
って、ダメですよ! さすがに殺すのはまずいです。
死体を隠して……と言っても、今日はギルドマスターのところへいかなければなりません。もし彼女が来なければ疑問を持たれます。
手がかりを残さず消すのであれば、今日ギルドマスターのところへ行った後、その足で魔物討伐をしに行って彼女もろともまとめて殺れば……。魔物に殺されたとして……。
って、ダメですってば!
ボクが向けていた手を下へ降ろすと、ほっとした表情になるピクミーさん。
だがこれは言っておかなければなりません。
「ピクミーさん」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「あなたは何も見なかった。それでいいですか?」
「え、と……エルフになったりダークエルフになったりとか? それよりプラムって何だか聖女様に似ているよね、というかそっくり? あれ? エルフ? ダー……」
「ピクミーさん」
「ひゃ、ひゃいっっ!?」
「あなたは何も見なかった。そうですよね?」
「み、見ませんでした!」
「よろしいです」
そして彼女が一呼吸おいた瞬間、言い放ちました。追撃はタイミングが肝心なのです。
「あ、言い忘れていましたが、もし万が一誰かに洩らしたりしたら……あなたは明日の朝日を拝めなくなりますので、ご注意ください」
壊れたおもちゃのように、激しく上下に頭を振るピクミーさん。
これだけ脅かせば大丈夫でしょう。多分。
でもグラスランナーは恐怖に薄いので、明日には忘れてそうですよね。ならば今夜トラウマになるくらいの恐怖を与えてあげなければなりません。
「それではピクミーさん、着替えて朝食を頂いたあとギルドにいきましょう」
「はい! イエスマムッ!」