幸せな結婚
夜中に急に友人の直樹が訪ねてきた。私は何があったのか知らないが、とりあえず直樹を部屋に招き入れ話を聞いた。
直樹は気持ちよさそうに話し出した。
まぁ聞いてくれ。あれはちょうど今日みたいな暑くて夕立の降ってきた日だった。
もうその時は暑くて、暑くて仕方なくて。俺は最近閉鎖されたばかりの近くのプールに一人でいったんだ。
まだ水が張っていて、それほど汚くは無かったもんだから裸になってプールに飛び込んだよ。
もう気持ちよさと開放感で、しばらくは水の中に潜りっぱなしだった。
流石に一分位潜っていたら息苦しくなって、水の中から顔を出したんだが、そこには見知らぬ女の人が立っていたんだ。
まぁ俺も言えた立場じゃないんだが、一応声を掛けたんだ。
『どうしたんですか?勝手に入っちゃいけませんよ』ってね。
まぁ、しかし凄く綺麗な人で透き通るような白い肌と黒くて腰くらいまである髪が凄く印象的で、まぁちょっとラッキーと思った。
そしたらその女の人は微笑み返して俺の方をジッと見てるんだよ。
そう言えば裸で泳いでる事を思い出して、慌ててプールから出てタオルを腰に巻いてまた女の人の方を見たんだ。
そしたら不思議な事に、そこにいたはずの女の人がもうそこにはいなくなっててね。
ちょっと変だなって思ったんだけど、また気にせずに、今度は海パンを履いて泳いでた。
まぁ、その日はもう女の人は現れなかったんだが、また会いたくなって次の日にもプールに行ったんだ。
そしたらさ、いたんだよ、また。誰って?その女の人に決まってるだろ!
もうね、俺は運命だと思ったね!
だってそうだろ?こんな所に裸で泳いでる奴がいたら、もう俺なら二度と来ないぜ?
しかも相手はもう、俺のストライクゾーンもいいところだから、こんなチャンスは二度と無いと思って話しかけたんだよ。
『昨日はどうも見苦しい所をお見せしちゃいまして。泳ぎに来られたんですか?だったら一緒に泳ぎましょうよ!」』
とまぁこんな具合でさ。その後彼女と妙に気が合って、彼女と一緒にプールでいろいろあったわけだよ。
何?いろいろって何だって?そりゃお前・・・・・・いろいろだよ、い・ろ・い・ろ!
お前も良い年なんだからわかるだろ!
まぁそんな事はどうでもいいんだ、とにかく俺はもう彼女にゾッコンな訳で、毎日のようにプールで会ってたんだ。
で、たまにはプールの外で会わないかって、そう言ってみてもなかなか首を縦に振らないんだ。
それにいつもおかしな事に急にふっと、俺がどこかを向いてる時にいなくなっちまうんだよな。
まぁそれでも俺は毎日プールに通って一カ月位たった時だったかな?思い切って彼女に結婚を申し込んだんだ。
もう彼女しかいないってそう思ってね。
『もう君しかいないんだ、僕と結婚して欲しい、結婚してくれるなら君の望みを何でも叶える!』って。
彼女俺に向かってこう言うんだ。
『私のいる所に来たら結婚してあげる』ってね。それを聞いて俺は即答したよ。
『君のいる所ならどこにでも行くよ』って
そしたら彼女、微笑んでこっちに近寄ってくるんだ。それでもう嬉しくなって舞いあがっちまって……
その時にどうやら嬉しさのあまり俺は気を失ったみたいなんだ。
それから何があったのか……正直俺もあんまり覚えてないんだが、気が付いたら彼女の膝枕で寝てたみたいなんだ。
妙に体が軽くってね、なんだか嬉しくなって俺はもう彼女との幸せな未来を考えていたね。
直樹の話はそこで終わった、そう言えば……
今日の夕方のニュースで、閉鎖されたプールで死体が見つかったって言ってたな……
その時、私の携帯電話が鳴った。
電話を取って友人の声が聞こえる。
『おい、隆!今日の夕方のニュース見たか?プールで水死体が上がったってやつ!あれ直樹らしいぞ!明日はお通夜らしい!お前も行くだろ……』
そこから先、電話からの友人の声は私には聞こえなかった。
直樹は私に最後にこう言った。
「所で隆、お前も俺のいる所に来ないか?」