勇者様と魔界の姫
この作品には、「w」や、顔文字を使うキャラクターが出て来ます。
苦手な方は、読むのをお控え下さい。
「はぁ・・・・・・」
どんよりとした空、少し生ぬるい空気、光の殆ど届かない大地。
ただ淡々と過ぎてゆく平和な世界だったのに・・・。
カサリと音を立てた手元の紙を見ると無意識にため息が出てしまう。
『号外!!』と書かれたそれには大きな見出しでこう書かれていた。
『ついに人間界の住民が異世界から勇者を召還する事に成功!?』
「勇者が旅に出たって・・・あぁ、私は今のままの平和な世界が好きなのに、人間達は何を考えているのかしら?魔界と人間界、仲良く半分ずつ使えば良いんじゃないの?」
「お嬢様、どうされました?物憂げなご様子でしたが・・・お身体の調子が優れないのでは?私とした事が気がつかずに申し訳ございません・・・魔王様からすぐに来るよう言付かっておりますが本日はご無理をなさらないように致しましょう。さ、部屋へお戻り下さい」
「心配しなくても大丈夫よ、ルードヴィヒ。貴方は私に過保護すぎるわ。」
「いいえお嬢様。お嬢様の身に何かあったらと思うと私は・・・」
「はいはいはいはい。わかった、わかったから。それよりお父様がお呼びなの?なら早く行かないと。」
“人間界”の遙か彼方、鬱蒼と茂る森の奥深くに、私の住む世界がある。
魔王が統べるこの世界。
そんな場所で、私は・・・・・・
人類最強最悪の敵、大魔王の愛娘、してます。
私の執事の1人であるルードヴィヒは、“魔”の中でも魔力の強い者が持って生まれるという黒髪を肩で結んでいる。女の私より綺麗な髪だと思う。なんであんなにさらさらなの?・・・そんな綺麗な髪にこれまた綺麗な紫の瞳、鼻筋も通っていて目元もきりっとしている・・・つまりはとんでもない美丈夫である。
おまけに昔はお父様付き・・・
つまり“魔王様”の従者だったのに私が生まれた瞬間に「お嬢様に一生仕えさせて下さい。」と嘆願した変わり者だ。
魔界でも5本の指に入るであろう甘いマスク・知力・腕っ節の揃った完璧超人が魔王の娘とはいえ平凡な私の執事をしているのか・・・。
「ああ、本日予定されていたお嬢様の誕生祭用衣装の試着の件なのですが、魔王城近くの市場に突如勇者一行が現れたとのことで延期となりました。お嬢様の新しいドレス姿を見るのを楽しみにしていた魔王様はそれはもう落胆しておられましたよ。勿論私もです。お嬢様が着こなしたらそれはもう素晴らしいでしょうにそのお姿がすぐに見られないなんて・・・!」
「ちょっと!い、今もの凄い事をさらっといわなかった?!」
「何を仰います!お嬢様の誕生祭用衣装の試着ほど素晴らし「そこじゃない!!」」
何なんだこの執事は!勇者が!魔王城前に!突如現れたっていうのにこの余裕!
「お父様は何処にいらっしゃるの?!無事なの??・・・っていうか勇者一行ってついこの前魔王討伐に向かったんじゃなかったの!?勇者様レベル1!?」
「さて・・・私はお嬢様と関係の無いものにはいっさい興味がございませんので・・・」
「・・・私、ちょっと見てくる!」
「お嬢様っ!?お待ち下さいっっ」
―その頃の勇者一行―
「いきなり魔王城付近に到着とかwwwマジぱねぇんスけどwww死亡フラグwww俺等オワタ\(^o^)/」
「あーあ、僕達、此処で死ぬんだね・・・」
「ふ、2人とも・・・ごめんな。まさか適当にやってみたテレポーテーションでここまで移動できるとは思わなくてさ・・・」
「勇者様www空気嫁しwww」
「もう終わりだ、こんな世界滅びればいいんだ。みんな一緒に逝けば怖くないよねえねえねえ早く逝こうよあははははははは」
「2人とも落ち着けって!来られたって事は帰れるって事だろう?それにまだ周りの奴らにはばれてないみたいだし・・・!」
「マwジwばれてないの?何で?」
「勇者さんが咄嗟にバリアはってたの見たよ、僕。」
「そうそう!だから今俺達周りから見たら何もない事になってるから!このままこっそり帰ろう!」
「勇者様グッジョブ!!!」
「帰っても帰らなくてもこの世界は敵だらけだよ、どうせ何処かで殺されてしまうならもういっその事魔王に挑んで綺麗に散ってみない?それが良いんじゃないかなねえねえ?」
「いやいや、どうしてそこまで後ろ向きなの!?」
「生まれつきこうだからしょうがないっスよ。ともかく帰りましょう!!」
「・・・何あの集団」
「勇者一行ですね」
「・・・」
目の前で繰り広げられる光景に目が点である。
何故か剣士はチャラいし、魔法使いはものすごく後ろ向きだし、
何より召還されて幾ばくも無いのにここまで瞬間移動できる勇者様。
てんでばらばらのパーティの共通点といったら無駄に美形揃いという所ぐらいである。
剣士は喋らなければ栗色の髪瞳と、何とも言えない色気をふりまくたれ目のイケメン。
魔法使いも喋らなければ紅色の髪と瞳のインテリ系イケメン。
勇者様は・・・異世界から召還されたからか、人間界には滅多にいないとされている黒髪黒目の超絶イケメン。
・・・何、このパーティは実力で組まれたの!?それとも外見で組まれたの!?何なの??
緊急事態なはずなのに思わず心の中でツッコミを入れていると・・・。
勇者とぴたりと目があった・・・ような。
彼らは姿消しの術を使っているはずなので
(腐っても魔王の娘な私や、ルードヴィヒレベルの魔の者には効きません。)
こちらを無遠慮に見ているみたいだけど・・・
(どうしてそんなにガン見してくるの・・・!?)
どうしよう、勇者様が凄いこっち見てる。
私とルードヴィヒは街中でも身元がばれるとやっかいなので
“身なりの良い貴族のお嬢さんとその従者”
という設定で来ているのだけども・・・。そんな私たちのどこに興味を持ったのか、
勇者様の目線が離れな・・・?
あれ・・・?
視線どころかずんずん近付いて来てる気がするのだけど・・・。
「ちょ、勇者様隠れてる自覚あるの?凄く近付いて来てるんだけど・・・」
「大丈夫ですよ、お嬢様。奴が何か危害を加えようとしたら息の根を止めます。」
「ルードヴィヒ怖い!そうじゃなくて、あの人こっそり帰ろうとしてた所だよね!?平和的に!」
剣士が何事かを叫んで勇者様を止めようとしているみたいだけど時既に遅く
必死に勇者様になぞ気がついてませんよオーラを出しつつ目線を外していた私の目の前に・・・
姿消しの魔法を解除して堂々と勇者様が現れました。
・・・間近で見ても美形は美形ですね。
ルードヴィヒやお父様方で免疫が付いていたと思っていたのですが、
勇者様は何というかもう・・・全世界の人が認めるであろう美形さんです。
勇者様の周りがキラキラと輝いて見えます。
さすが神様に祝福されし存在・・・!!
・・・と、まあ現実逃避に勇者様を褒めちぎっている場合ではありませんね。
わかってますよ。でもどうしろって言うんですか。
何で魔界の娘Aに堂々と姿さらしちゃってるんですか!?
「こんにちは」
何 か 普 通 に 挨 拶 し て 来 た !
「えっと・・・こん、にちは・・・?」
爽やかに挨拶してくれた勇者様ですが、その眼が先程まで仲間と一緒にいた時とは違います。
獲物を捕らえんとするような・・・。な、何故かねっとりと見られているような・・・。
もしかして勇者様のチート的な能力で、私が魔王の娘だとばれた・・・!?
「あの・・・な、何かご用でも?」
あまりにあんまりな急展開にしどろもどろです。
1年ほど寝かせていた作品だったのですが、今回思い切って投稿してみました。ご感想頂けると幸いです。
続きは未定です。