五、
初めての海水浴。
ジニョン達は、夕方まで海で遊んでいた。その日は、体中の日焼けで寝苦しい夜を迎えるジニョンだったのである。そして、それも初めての経験だったのである。
「それはきつかっただろうな。僕も経験したことあるけど、風呂に入った時の痛かった事…… たまんねぇからな」
ジニョンの話を聞いて顔を顰めるソヌだった。光州出身のソヌは、比較的海に近い所に住んでいた事で、よく海水浴に行っていた。
ソヌは、小さい時に海で怪我をした傷を見せようとした。
「ここ…… この傷さぁ、岩場で怪我をしたんだけど……」
そう話し掛けるソヌだったが、目の前のジニョンは上の空でそれを聞いていた。それを見たソヌは、
「なんだよ。人が話をしている時に…… えっ、もしかして、その美咲って娘の事を考えていたりして……」
少し茶化す様な言い振りでそう言ったソヌだった。
その時だった。
いきなり、無言で立ち上がったジニョン。それを見てソヌは、
「うっ、気を悪くしたの」
と呟くと、
「違うよ」
と、薄らと笑みを浮かべてソヌを見るジニョンだった。そして、ベッドの横の机の引き出しに手を掛けていた。そしてゆっくりと中から取り出した物は、
「これを取りに行こうとしたんだ」
そう言いながら、顔の横に持ってきてソヌに見せた物は、
「なんだ…… それ」
眼を細めて、ジニョンの手に持っている物を見るソヌ。
「これは、その美咲から貰った花のブローチさ。紙粘土を使って一生懸命に作ったんだろうな」
少し顔を赤らめるジニョンの言葉に、ソヌは眼を大きく見開いて見ていた。そして、大きな声を上げていた。
「へえ、そんな宝物があったのかよ。その花には、何か貼っているな」
そう言いながら、ジニョンの方に手を差し伸べるソヌに、ジニョンは持っていた花のブローチを渡していた。
「これは美咲の手作りの品だよ。中央には、二人の写真が貼ってある。これを貰った時に、僕たちは約束したんだ」
そう言ったジニョンに、手にしたブローチを眺めながらソヌは尋ねた。
「どんな約束だい?」
すると、
「大人になったら…… もう一度会いに行くって。必ず迎えに来るからってね」
そう言ったジニョンの顔は、何かを決意する表情にも思えた。
その頃…… 日本に居た美咲はと言うと……。