四、
あの子…… いくつだろう
ジニョンは気になっていた。
日本に来て、初めて自分と同じ年頃の子供と接したからである。
少し痩せていて、だけど元気そうでいて、人懐っこそうな女の子。
また、逢えるだろうか?
帰る方向は同じ様だった事もあり、そんな事まで考えていたのである。
そうこうしている内に、シンドンの家に辿り着いたジニョンだった。
「帰りは、思ったより近く感じたな」
そう一言漏らすジニョン。それもその筈、考え事をしながらの道中だった事で、周りの景色なども一切見ないまま、ただひたすらに歩いていたのだ。
「ただいまッ!」
玄関の土間に入りながらそう叫ぶジニョンに、
「お帰りッ! 何処に行っていたの? お昼の時間だから、さあ早く入って食事をしなさい」
そう言いながら迎えてくれたのは、シンドンの嫁であるハラだった。そしてその向こうから、
「ジニョンッ! 久しぶりッ!」
と叫びながら走ってきたのは、その息子のミルだった。ミルは、ジニョンよりも一つ年上だったので、逢う度にいつも一緒に遊んだ仲だった。
「ミルッ! 学校は終わったの?」
ミルの姿を見て、今まで暇を持て余していたジニョンは、一気にテンションが上がっていた。
「今日は出校日やったきね。午前中で終わったんよ。それよか、早ようご飯食べて外に遊びに行こうや」
手招きをしながらジニョンを呼び寄せるミルだった。ジニョンが来るのを心待ちにしていたのが、よく解るほどの興奮気味だった。
それに応える様に、靴を蹴り飛ばしながら土間からあがると、急いで食卓の方に向かうジニョン。そんなジニョンに、
「ほらほらぁ、早よう遊びに行きたい気持ちは解るばってんが、脱いだ靴はちゃんと揃えなつまらんぞ」
そう言って、玄関の方で靴を揃えるシンドンの姿があった。それを見て、しまったという顔で頭を下げるジニョンに、シンドンは、
「ミルも返って来たし、昼から下の海にでも連れて行っちゃろうかの」
と言うと、目を丸くして喜びの表情を見せたジニョンとミルが、顔を見合わせていた。そして、
「やったねッ! 早よ食おうや」
とミルが言った。それに賛同するかのようにジニョンも、
「そうだね。水着も買ってきたから、早く食べて一緒に泳ごうね」
と言って目の前の茶碗を握ると、ご飯を流し込む様に口の中に入れるのだった。そして、ミルも同じ状況だったのである。すると、いきなりむせ始めるジニョンは、
「ゴホッ、ゴホッ。叔母ちゃん…… お水……」
と苦しそうな顔で言った。それを見たハラは、吹き出しながら、
「言わんこっちゃない。慌てて食べるきそげんなるとばい」
と、水の入ったコップを差し出すのだった。そして、その状況にみんなはドッと笑っていた。