三、
漸く辿り着いた小さな店。と言うよりも、小さなスーパーマーケット。ここの住民達の拠り所ともなるこの店には、買い物だけではなく様々な情報を貰いに来る奥様達がいた。
ジニョンは店の中を見渡しながら、駄菓子の売っているところに向かった。
「やはり日本だな。色々なお菓子が売っているな」
目移りする程の駄菓子の数に、微笑むジニョンだった。すると、
「どれにしようかな」
ジニョンの横で、一人の女の子が同じ様にお菓子を選んでいた。
てのひらには、銀色の効果が二枚光っている。日本のお金で百円玉が二枚だ。それを見て再び握り締める女の子だったが、いきなりジニョンの方を見ると、不思議そうな顔でじっと黙っていた。
ジニョンは、その場でどうしたら良いのかが解らなかった。そして、とにかく笑顔で対応しようとした。その時、
「もう、早う決めんと帰るよ。どれがいいとね」
と、一人の女性が女の子に向かって言った。どうも、その女の子の母親らしい。すると、
「う…… うん。このチョコでいい」
そう言って、一枚の板チョコを取ると、
「それやね。解ったから、レジに並ぶよ」
そう言った母親は、女の子の手を取ってレジの方に向かって言った。ジニョンは、その場でその状況を黙って見ていたのだが、その時、女の子がジニョンの方に振り返った。そして、
「またね」
と言って、微笑みながら手を振っていた。
その笑顔は、前にも経験したような、何処となく懐かしい感じがしていた。女の子の優しい微笑み。初めて会った感じがしない。不思議な感覚だったのだ。
そして、ジニョンも手を振っていた。
その後ジニョンは、片言の日本語で欲しい物を買う事が出来た。
「どうにか言っている事が解ってもらえたよ。一時はどうなる事かと……」
そう呟きながら店を出るジニョンだった。そして、さっき会った女の子の事を思い出していると、
「早よ、乗らんね。叔母さんたちが待っちょうやろ。帰るばい」
という声が聞こえてきた。何か聞き覚えのある声だと思い、ジニョンはその声の方を見た。すると、さっきの女の子が、母親に言われて車に乗り込んでいた。それも、ジニョンの方をじっと見ながらだった。
「ほらッ、美咲ッ。早よう乗らんねっち言いよろうがね」
母親の怒った様な声に、渋々後部座席に乗り込む女の子。だが、ジニョンが気付いた事を知ると、表情を変えた。そして、さっきの様に笑顔を見せて手を振っていた。それを見たジニョンは、
「あの子…… 美咲って…… 言うんだ」
そう呟いて、手を振っていた。
その後、美咲を乗せた車はジニョンの帰る方向と同じ方角に向くと、坂尾登って行くのだった。
「へえ、あの子もこの山の上に住んでいるんだ。シンドン叔父さんの家の近くなのかな」
ジニョンは、美咲の乗った車を目で追いながらそう言うと、坂道を登り始めていた。