第二十六話 Interlrude2
遂にこの日がやってきた。冬の定期演奏会。スカイハイの有終の美を飾るラストライブ当日。
俺たちスカイハイはトリを務める事になった。時間の許す限りアンコールに応えても構わないという、部長の粋なはからいによるものだ。
ラストだからといって何か変わった事が有るわけでもなく、控え室はいつも通りの雰囲気だった。サークル全体で考えれば、バンドがひとつ解散して部員がひとり減るだけの事なのだから。
それに、未來ちゃんには敵も多かった。周囲じゃ誰とでも寝る泥棒猫として、嫌っている者も相当数いる事は、未來ちゃん自身も自覚していただろう。ま、嫌っていたのは殆どが女なのだけど。
そういう周りの環境もあって、このバンドに特別な想いを抱いているのは、ひとつしかバンドを持たない未來ちゃんと、リードギターを仰せつかった俺くらいだろう。
未來ちゃんに出逢って、俺の学生生活は一気に色を帯びた。
春のような恋の芽生え。初めて未來ちゃんと遭遇した時のあの衝撃は、恐らく何年経っても忘れる事は出来ないだろう。
夏のような身を焦がす程の熱情。秋のような哀愁。彼女の奔放な性事情に翻弄される毎日。
そして冬のような、身を切られる程の辛さと切なさ。
本当に色々あった。目を瞑ると蘇る未來ちゃんとの思い出。その殆どが部室か、ライブハウスが舞台だ。
つまり未來ちゃんの側にいる時、そこにはいつも音楽があった。俺にとって未來ちゃんイコール音楽であり、恋の相手であり、それが全てだ。
俺と未來ちゃんがどのような答えを出そうとも、今日までと明日からとではきっとまた違った日々が始まるだろう。
「純、あの子来てるぞ」
先のカエラちゃんの一件で、少し関係が修復されたヒロ。未來ちゃんとの確執を知る者のひとりだ。落とし穴を掘ってワクワクしている子どものような表情で、俺を呼ぶ。
ヒロのいる、ステージ袖に降りる階段からは会場の様子が良く分かる。2人でそこから階下を見下ろす。
ホールのやや後方、ステージに向かって右手に彼女はいた。距離はあるが、ギターと対面の位置にあたる。今日はひとりで来ているようだ。
「純、あの子にしとけよ。めちゃくちゃカワイイじゃん」
俺は曖昧な相づちを打つ。確かに出逢う順番が逆だったなら、カエラちゃんに一目惚れしていたかもしれない。見た目の系統は同じなのだし。
「ホント、純クンにはもったいないわね」
「み、未來ちゃん」
いつの間に後ろに? っていうかその格好——
どう、スゴいでしょ、と得意気に胸を張る未來ちゃんの衣装には度肝を抜かされた。
ピンクのシャンタン地に黒バラのレース刺繍が重ねられた、コンビネーションドレス。ゆるふわの髪は、トップにデコレーションティアラを戴く。一本だけさした鳥の羽根が特に目を引いた。
そして黒バラと色を合わせたガントレットグローブ。どこかの社交パーティーにそのまま出られそうだ。
なんという気合いの入れようか。本当に未來ちゃんは自分の見せ方を熟知している。俺は暫し時間を忘れた。
「あら純クン、そんなに見つめてナニ考えてるのかしら」
「あ、ああいやごめん……凄く似合ってるよ」
「ウフフ、ありがとう。なんたってワタシと純クンの新しい門出なんだもの。精一杯偶像の役をこなさないとね」
自分に言い聞かせるような口ぶりで目を細める未來ちゃんが、なんだか儚げに見えた。俺自身の哀愁が、彼女に投影されたのだろうか。
会場ではスカイハイの登場前のSEが流れ始めた。メンバーの5人が階段前に集まった。静かなる闘志を燃やす目つきに変わった未來ちゃんが意気込みをみせる。
「いよいよね。みんな、これまでありがとう。最後にパーッと盛り上がりましょう」
力強く頷き、輪になって肩を組む。こうして未來ちゃんと触れ合えるのも、これが最後なのか。ひとつひとつの行為を噛みしめる。
「スカイハイのラストライブ。精一杯、楽しむわよ!」




