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第十六話 童貞処女連盟

「わっ私っ、純平くんのコトが、好きです!」


 あらん限りの勇気を振り絞ったに違いないカエラちゃんの告白。それに対して俺ときたら、「う……うん……」だって。自分で自分を殴ってやりたい。

 しかし、正直これは困った。告白されたからには応えなくちゃならない。でも、自分の態度が決まらない。


 カエラちゃんのコトが好きならOKすればいい。簡単なことだ。そこで俺は自問自答する。

 確かにカエラちゃんに対する俺の気持ちは、ライクよりもラブに近いかもしれない。でもだからといって今すぐラブに昇華するというわけでもない。それはもちろん、俺の中に未來ちゃんが住み着いているからだ。


 未來ちゃん。しなやかで色めかしいあの肢体。シャボンの香り漂うゆるふわウェーブの栗色の髪。そして何より、秘め事を全て見透かす水晶のように綺麗な瞳。俺を見つめながら、女神のソプラノボイスで俺の名を呼ぶ。その度に俺の脈拍は上がってしまう。

 そんな、殆どパーフェクトの未來ちゃんを超える存在など、果たしてこの世にいるのだろうか。


 対してカエラちゃんはというと。第一印象で良いなと思ったのは素直な気持ちだ。

 顔の系統は未來ちゃんに似ている。まあ俺好みの顔って事だ。特徴的なのは高くてやや大きめの鼻。二重まぶたの目と相まって、言葉通り目鼻立ちの整った顔だ。そこに組み込まれたちょっぴり自信なさげな薄いくちびるが、逆に愛でるべきチャームポイントといえる。


 2人とも充分過ぎる程可愛い。俺みたいな童貞成人(ヤラハタ)にはおよそ不釣り合いと言ってもいいだろう、自分で言うのも情けないけれど。


 更にカエラちゃんに関して言えば、彼女の大っきなおっぱいは、俺にとって強力なアピールポイントとなる。ピンクの毛糸のセーターから覗く双房の谷間はもはや芸術品と称してもよさそうで、男子たるもの思わずそこに顔を埋めたい衝動にかられてしまうのは致し方ないことだ。

 男とは、例え相手が還暦を迎えたマダムであろうと、スカートが強風で煽られればそこに目が行ってしまう、哀しい生き物なのだから。

 というわけでカエラちゃんの巨乳は視覚的にも大きなアドバンテージになり得るはずなのだが、そんなものは取るに足らない程の差が2人には存在する。


 それは神秘性。秘密を抱いてこそ、女はオンナであり続ける。そんな言葉が未來ちゃんを未來ちゃんたらしめているのだ。


 ——すっかり話が逸れてしまった。そうだ、カエラちゃんの告白に対する返答だ。だがなんだかんだ言っても、俺の中で答えは初めから決まっていた。

 カエラちゃん、君の気持ちに応えられなくてごめん。

 だが、たったこれだけの事がなかなか言い出せない。事もあろうに、迷っているのだ。心は未來ちゃんに捧げるというような事を言いながら、目の前のカワイこちゃんの告白に乗っかって、付き合おうかなどと考えているのだ 。そんな(よこしま)な俺だから、こんなふざけた返事になる。


「ありがとう。でも……ちょっと考えさせてもらえるかな」


 やなヤツ、やなヤツ、自己嫌悪。こんな期待を持たせるようなコト言って、どうせ断るなら今はっきりとゴメンと言った方が良いに決まってる。それなのに俺ときたら、脳内では「据え膳喰わぬは男のなんたら」などと邪心を唱えているのだ。


 だけどカエラちゃんも只者じゃなかった。この後の俺の内心を見透かしたような言葉には、ただただ驚かざるを得なかった。


「……知ってるよ。いるんでしょ、好きな人」

「ええっ?」

 高鳴っていた鼓動が、一際大きく脈打った。

「……あのボーカルの子、だよね?」

「ど、どうして」

「オンナの勘、かな」


 オンナの勘。空恐ろしい上に全く不可解な能力だ。だがそれよりもっと不可解なのは、俺が未來ちゃんのコトを好きだと知っていながら、どうして俺に告白してきたのか。玉砕覚悟? 当たって砕けろ的な?

 困惑しきりの俺に、優しく目を細めるカエラちゃんはこう締め括った。


「いいよ、待ってる……気持ちの整理がついたら聞かせてね、純平くんのキモチ」


◇◆


 気が付けばもう年の瀬。俺はサークルの仲間たちと示し合わせて、学校にほど近い神社の境内にいた。

 大晦日。もう除夜の鐘が打ち鳴らされ始めてから、随分経つ。


 今年ももう終わりか。学祭辺りからはあっという間だったな。はあ〜、来年こそは童貞卒業したいなあ。


「なに思いっきりため息ついてるの、幸せが逃げちゃうよ?」


 アイこと町田愛莉だ。彼女は髪を切った。クリスマスライブの時は肩の下まであったのが、ボブカットになっていた。

 女がバッサリ髪を切るのには何か理由があるものだと思った俺は、彼女に聞いた。そしたら何の事は無い、マフラーを巻くのが楽だから、なんて理由だった。本当は違うのかもしれないけど、そこは敢えて突っ込む事はしなかった。


 俺がため息を吐いたのは、意気地のない自分に対してだ。あれから一週間、カエラちゃんとは話をしていない。バイトのシフトの引き継ぎで一度会ったのだが、おはようございますと挨拶するのが精一杯だった。なんとなく意識してしまって、目を合わす事も出来ずにいたのだ。そのせいで、カエラちゃんも何も言わずに帰ってしまった。いつもなら店内に暫く残って立ち読みしたり、話をしたりしていたのに。


 バカな男だ、俺は。そんなだからいつ迄も童貞で、気に入った女の子を妄想彼女にしては夜な夜なハッスルしているのだ。ダメでバカで変態。これが松浦純平の真の姿。うわー、自分でいうと凄く情けない。


 そんなネガティブオーラを発しまくっている俺に、アイが話しかけてくる。


「未來ちゃん、来てないみたいだね。アキラ先輩も……」


 そう、今年も残す所あと5分かそこらなのに、2人の姿が見えないのだ。だからと言って、俺もアイも悲嘆に暮れているわけではなかった。いないのはその2人だけではなかったから。寧ろ部員の過半数が来ていないこの状況の方が、余計な邪推をしなくて済んだのだ……まあ気休めにしかすぎないんだけど。


 年の瀬にするには少々寂しい話をしている俺たちの所に、ヒロと麻衣が合流する。

「思ったより集まらなかったね。まあ実家に帰ってる人もいるだろうし、今日は仕方ない、か」

 麻衣の言葉に相づちを打つ。


 俺含めた4人の中で最もリア充な彼女。ちっこいクセに、なんだか余裕のオーラを発しているように思える。

 その彼女に積極的に話しかけているヒロ。麻衣に彼氏が出来た、つまりヒロは失恋したというのに、相変わらずこの2人は仲が良い。全く不思議だ。俺なんてカエラちゃんに告られただけで、ギクシャクしてまともに話も出来なくなってるのに。ほらああやって後ろから、麻衣のポニーテールを掴んじゃったりなんかして。俺には無理だ。


 未來ちゃんとカエラちゃん、か。俺は一体どっちを選べばいいんだろう。自分の気持ちに素直に、本当に愛してる未來ちゃんを追い続けるか。返事をすれば交際が約束されるカエラちゃんか。

 やっぱり本心では未來ちゃんがいい。けれどもう、大分辛い。【ヤリマン】の烙印を押された彼女を疑いながら、それでも信じて追いかけるというのは、相当消耗するのだ。


 ならカエラちゃんを選ぶのか? と聞かれればそうもいかない。彼女とはバイト仲間であるという繋がりだけ。それなのに、こんな情けない俺を好きだと言ってくれた。そんなカエラちゃんに中途半端な気持ちで返事をするのは、あの時の真剣な眼差しに対して失礼だと思う。だからイイなと思ってはいても、まだ本気で好きになったわけじゃない以上、簡単に付き合おうなどとは言いたくない。


 思考の袋小路に迷い込んでしまった気分。あ〜あ、煩悩まみれの年越しになっちゃったなあ。

 その時、顔が強張っていたであろう俺に気付いて、一回りガタイのイイヒロが肩を組んできた。


「どうした、純。笑う門には福来たるっていうじゃん。笑って新年を迎えようぜ」


 ……ありがたい。失恋の痛手を負っているのはヒロの方なのに。コイツが仲間で良かった。なあヒロ、お互い来年こそは童貞卒業しようぜ。

 そう思うと、自然と顔が綻んだ。


「カウントダウン、始まるよ」


 もう1人の童貞処女連盟の仲間、アイの言葉を合図に、4人で円陣を組んで手を繋ぐ。

 来年。来年こそは大人になってやる。ヒロ、アイと共に。


 ……5、4、3、2、1。


「新年明けまして、おめでとう‼」

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