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短編集

何度も殺してしまう

作者: 春谷公彦

「はあ……」

 僕はため息をついた。机に肘をついて、その上に頭を乗っけて考える。 

 日本ではだいたい年間で三万人が自殺しているらしい。

 おそらく、人間には自殺防止のプログラムが組み込まれている。それは「痛み」や「苦しみ」といった類いのものだろう。

 たとえ死にたくなっても、痛いからやめよう、苦しいからやめよう、そう思いとどまるようにプログラムされているのだ。そうでなくては種が滅んでしまう。

 例えば、目の前に全く苦しまないで死ねる安楽死の薬があったらちょっと悩んじゃう、そう笑って言った友人がいた。彼はその時、ちょっと悩み事で滅入っていた。その悩み事が解決したらそんなことは言わなくなったけど。良かった。

 彼が死ななかったのは、一過性の悩みだったことと、苦しまないで死ねる薬が目の前になかったからだ。死ぬのは苦しい、そのプログラムがうまく働いた結果だ。

 そうやって自殺防止のプログラムが組み込まれているのにもかかわらず自殺者が後を絶たないのはどうしてだろうか。

 きっと、社会が自分の作業容量をオーバーしているからなんだろう。要求されたタスクが自分の処理能力を大きく超えてしまったためにハングアップしてしまうのだ。

 コンピュータ上で無駄にウィンドウを開きすぎたり、重いソフトを起動させすぎたり、専門的になれば、下手なプログラミングをしてしまったり。そうすると、ハングアップしてしまう。いわゆるフリーズだ。

 そんな感じの要求を社会というユーザーが入力してしまって、耐え切れなくなってハングアップ、つまり、自殺。

 社会は人の集まりだ。つまり、社会の入力は人の入力だ。要するに、自殺と言えど、人が人を殺しているのだ。

 だから、僕は何度も殺してしまう。

 何度も何度も自殺してしまう。何度も何度も殺してしまう。

 こいつが自殺してしまうたびに、僕が殺したのと同じだ、そう思ってしまう。

 そして、考えてしまう。どうしてこいつは自殺してしまったんだろう?

「ちょっと見せてみろ」

 僕がそう考えて(現実逃避して)いると、後ろから声をかけられた。

 彼は僕の肩口からのしかかるように前に乗り出して、一点を見つめた。

「ほら、ここ。無限ループになってら」

「あ」

 僕は間抜けな声を出した。

「ったく。そんなんで大丈夫か? 単位落としても知らねえぞ」

「あはは……。やっぱり、プログラミングは苦手だよ」

 僕は何度も殺してしまう。

 簡単な要求しかしていないのに、僕のせいで、何度もこいつはハングアップ(自殺)してしまうんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして! ツイッターから入場しました。 なるほど。自殺について、そんな考え方もできるのですね。 それでいて、単なる論述型の作品ではなく、ちゃんとしたショートショートとして仕上がってい…
[一言] 今のところ、自殺をする生物は人間だけということになっています。その理由は作中にあるような社会的な理由も含めて色々でしょうが、私は端的に頭脳の発達が自殺を招いていると思っています。 あらゆる生…
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