夏休み最終日のいいわけ
「明日で夏休みもおしまいかー。」
「だったらその宿題の山を何とかしなさい。」
「うえ〜。」
「やってないあんたが悪い。」
「もういいよやんなくても。てかなんで夏休みの宿題をやらなきゃいけないんだよ。」
「何言ってんのこの子は。宿題はやるもんなの。わかったらさっさとしなさい。」
「だってさあ、いつも出される宿題はやんなくてもいいのになんで夏休みの宿題はダメなの?」
「いつも出される宿題もやんないといけないんだよ!!」
「ふ〜ん。そうだったんだ〜。」
「ああ、お母さん頭が痛くなってきたよ。」
「タンスの角にでもぶつけた?」
「タンスにぶつけるのは小指でしょ。それに痛くなったのはあんたのせいよあんたの。」
「それに最終日に必死こいてやるなんてめんどくさいよ。どうせ出来なくても明日までにやってくることなんて言われておしまいだよ。」
「結局やんなきゃいけないんだから今やっちゃいなさい。」
「チッチッチ。甘いよトミコ。ビターチョコより甘いよ。」
「下の名前で呼ばないの。それにビターチョコよりはだいたいのモノ甘いから。」
「明日まで明日までってずっとしなければそのうち先生だってあきらめるさ。」
「そんなことやったら成績がたいへんなことになるよ。」
「別に小学校の時の成績なんて盲腸みたいなもんだよ。あってないようなもんさ。」
「のちのち痛くなって来るけどね。」
「うまいなあトミーは。今のコメント。3倍くらい薄めた牛乳よりうまいよ。」
「トミー言わない。それに牛乳を薄めたモノほど不味いものはないから。」
「それに盲腸にならない人だっているんだから。宿題は中学になってからするさ。」
「今やれない人が将来できるはずないでしょ。」
「それはどうかな。生まれたとき、言葉をしゃべれる人なんていたかい?生まれた瞬間に相対性理論を理解している人がいたというのかい?そうさ、すべての人間が生まれたときは無の状態なんだよ。それが今はどうだい。こんないいわけも考えることが出来るまでに成長したんだよ。嬉しいじゃないか。さあ、感動の涙を流してもいいんだよ。僕の胸でたあんとお泣き。」
「情けなくて涙が出てくるよ。」
「花粉かな?」
「あんただよあんた。」
「そうさ、そのことを考えれば人間に出来ないことなんて何もないのさ。人には無限の可能性が広がっているんだよ。ってか持っているのだよ。そう、バンダイ。君にだってあるんだよ。」
「トミーって呼ぶなって言ったけどバンダイはないでしょバンダイは。」
「だからその可能性を十分にこの宿題に発揮してくれ。さあ、今こそ鍵と言う名のシャーペンを握り、未来の扉をこじ開けるのだ!!」
「それをやるのはあんただあんた!!」
「怖がることはない。いつもそばで見守っててあげるよ。ゲームをしながら。」
「全然見守ってないから。ゲームばっか見てるから。」
「未来はきみの味方だ。恐れるな。たとえ僕がゲームに集中しきっていても。たとえ昨日までの天気がわからなくても、今まで頑張ってきた自分が見守ってくれてるんだ。さあ、ためらうことなんてないはずだ。勇気と言う名のシャーペンを手にとって未来を切り開け。」
「絵日記もやってなかったの!?うわっ!!見事に真っ白・・・。」
「そう、真っ白に燃え尽きたんだよ。」
「なんにもしてないのに燃え尽きてんじゃないよ。」
「ふっ、安心したまえ。ちゃんと夏休みの思い出ならマイメモリーに大事に大事に保存してあるさ。」
「だったら速く書きなさいって。生命の危機を感じるまで書きなさい。」
「しかしそれは出来ないのだよ山本トミコ。俺は過去を振り返らない男だから。」
「旧姓を言うな旧姓を。それに大事に保存してても見なきゃ意味ないでしょ見なきゃ。」
「そうだな。振り返るとき、それは俺が傷ついたとき。その傷を癒すために思い出と言う名の包帯で傷を優しく包みこむだろうね。」
「それじゃあ、たったいま傷だらけにしてあげてもいいんだよ?え!?」
「おっと良い子は寝る時間だ。」
「まだ8時じゃん!!いつも11時くらいまで起きてるでしょ?」
「それは悪い子だったからだよ。たった今から僕は良い子になりました。」
「良い子なら宿題してよ。」
「それじゃあお休みなさいませ。お母様。」
「いつからブルジョワになったんだか。チョットお父さん。お父さんからもなんか言ってやってよ。」
「まかせなさい!!」
「おう、これは期待できる。」
「ヘイ、マイサン!!」
「なんで英語で呼ぶ?」
「歯、みがけよ。」
「だめだこりゃ。」
次の日、しっかりと廊下に立たされたとさ。
そしていま、
彼は世界の舞台に立っている。
トミーの子供だからタカラって名前かもしれないね。
タイトーかも。