婚約破棄されたので王太子殿下を退場させました
「エカテリーチェ・アルヴェーン=ローゼンフェルト!僕はこの場でお前との婚約破棄を宣誓する!」
色とりどりに着飾った貴族や他国の貴賓が和やかに談笑している夜会の場で高らかに宣言するのは、この国の王太子であるユリウス・ルイ=フォン・エーレンベルク=レヴァイン皇太子。王妃殿下が遅くに授かった大事な一人息子で、御年17になられたばかり。
母譲りの眩くプラチナブロンドに意志の強いアクアマリンの瞳はとても美しく、その美貌は城下町の者にすら知れ渡っているほど。
そんな彼が眉をキリリと吊り上げ、片手に若い令嬢を抱いて婚約破棄を告げた目の前の公爵令嬢は、その宣言を受けても表情を崩すことなく、構えていた扇を軽やかに揺らすだけだった。
「お前が、こちらの私の隣にいるミリア・フェイン嬢を虐げてきた数々の悪事の証拠は揃っている!」
「お、王太子殿下、私は……!」
「いいやミリア嬢、貴女は何も心配しなくていい。」
何も言葉を発しないままの婚約者に詰める王太子に傍らにいたミリアが慌てる素振りを見せるが、王太子は優しく微笑んでそっと自分の傍へ寄せる。その微笑みはまるで天使が微笑むかのように美しく、見るものが見れば腰が砕けてしまうほど。
その2人の様子を黙って見ていた公爵令嬢エカテリーチェは、そこで一つ小さくため息をついてからようやく片手を動かした。
「……こちらへ。」
「お姉様……!」
少し離れたところから差し出された手に救いを見出したと言わんばかりにミリアが王太子から離れ、エカテリーチェへ駆け寄ってまるで王太子から隠れるようにその背に隠れる。
予想外のことに思わず固まっている王太子に、エカテリーチェはようやく彼に向けて口を開いた。
「……殿下。念の為に確認いたしますが、先ほどのお言葉を今この場で宣言することの意味はお分かりでして?」
「は?な、何を言っている!今お前は僕に婚約破棄されたんだぞ!」
「さようでございますわね。国王陛下はご存知で?」
「父は関係ないだろう!」
淡々と、まるで花が風で散らされるかのようにあまりにも当然のことといった平坦な声音が静かに響く。
夜会の出席者は予想外のことに誰も口が挟めず、固唾を飲んで三人の様子を見守っていたが、ここでエカテリーチェのいつもの声色にはっと意識を取り戻した衛兵の1人が慌てて夜会の場を後にし、報告へ走っていった。
残る衛兵がそれでもなお戸惑っていると、そこにエカテリーチェから声がかけられる。
「貴方。」
「は、はい!」
「殿下はどうにもご気分が優れないようですので、お部屋に連れて行ってさしあげて。」
「は、はっ!直ちに!」
その命令を受けて慌てて動き出す衛兵に、何をする、僕は王太子だぞ、と王太子殿下は抵抗をするがそれは聞き入れられることも無く。
ほんの僅かな内に本人は衛兵に囲まれて退室し、再び夜会の場に静寂が訪れた。
まだ緊張感の残る会場全体を見渡し、エカテリーチェが優雅に微笑みを向け、美しいカーテシーを披露すると固唾を飲んで見守っていた貴族貴賓たちは思わずその優雅さに目を奪われ、方々から感嘆の声や嘆息が聞こえてくる。
「皆さま、大変お騒がせ致しました。今宵は大切な国際親善の宴の夜。引き続き、ごゆっくりお楽しみください。」
そして音楽隊に手を上げると、手が止まってしまっていた指揮者も慌てて意識を取り戻し楽団へ指揮を再開する。
その後ろで1人、ミリアはうっとりとエカテリーチェに羨望の眼差しを向けていたのであった。
(さすが、お姉様…!)




