【短編】火焔王と呼ばれるドラゴンは属性耐性値だけマックスなポンコツ勇者をお婿さんにしたい!
勇者として異世界に転生した。
「おお! 死んでしまうとは情けない……チッ」
三回目の全滅。
とうとう王様に舌打ちされた。
確かにタイミングは悪かった。
王妃様と良い雰囲気になっている時に現れたのだから、王様だってイラついてしまうのも当然だっただろう。
それから頑張った。
王様がゴミを見るような目で見てくるようになってしまったので、絶対に全滅だけは避けようと必死になった。
モンスターを倒し、レベルを上げ、お金を稼いで、装備を整え、戦い方も学んだ。
そのおかげで、全滅の危機は何回かありながらも乗り越えて、ようやく勇者として認められ始めた。
「ふははっ! この程度で妾を倒そうとしたのか!」
そんな折にとあるドラゴンが人を攫っていくなんて話を耳にした。
男ばかりを選んでどこかに連れて行き、しばらく経って素っ裸で帰されるという奇妙な話だった。
ドラゴンと戦いたい奴なんていない。
そこで勇者たちはヒメルの煉獄と呼ばれる火山に向かい、ドラゴンと対峙することになったのだった。
『やっぱドラゴンと戦うにはレベル不足だったな』
『てか、レベル上げても辛くない? ラスボスクラスじゃん』
瀬良ロイ(セラロイ)、HP0。状態瀕死。
大鷹佑月、HP0。状態瀕死。
『うむ……なかなか厳しいよな』
『いやー、まあ正直わかってた感じはありますけどね』
東山光輝、HP0。状態瀕死。
三浦沙織、HP0。状態瀕死。
「残るは一人ね」
「くそっ……なんでこんなことに……」
秦守、HP124。状態普通。
今、勇者パーティーは全滅の危機に瀕していた。
『がんばれー』
『お前だけが希望だ!』
『いや……無理だろ』
『倒すなんて期待してないからせめて逃げてくんない?』
「お前らウルセェ! HP0になって棺桶状態なんだから静かにしてろよ!」
この世界に召喚された勇者たちには不思議な法則が働く。
まず、勇者は死なない。
倒されてしまうのだけど、倒されると不思議な棺桶の中に閉じ込められてしまうのだ。
基本的には何もできないのだけど、一つだけ例外がある。
おしゃべりはできる。
棺桶になってしまうともう何もできないが、逆に手を出されることもない。
だからやられたくせに好き勝手に何でも言える。
「あんなの……どうしろってんだよ……」
マモルの前にはドラゴンがいる。
真っ赤なドラゴンは山を思わせるほどに大きく、マモルの全身を押し潰してしまいそうなほどの魔力を放っている。
体を動かすこともなく、鼻息一つでマモルなんてチリのように吹き飛ばされてしまうだろう。
現にブレス一発でマモル以外はやられてしまった。
「妾のブレスに耐え抜いたことは褒めてやろう。しかしお主一人でどうにかなると思うてか!」
「いや……ちょっ……無理だろ!」
ドラゴンが前足を上げる。
アリが人間に踏み潰されそうになったらこんな気持ちなのかもしれないとマモルは感じた。
『四回目……なんて言われるかな』
『結構頑張ったし、労ってくれるんじゃない?』
ロイたちは、仲間がやられそうになっているのにのんきに会話する。
「うわああああっ!?」
上からドラゴンの足が降ってくる。
緩慢な動きに見えるのはドラゴンが巨大だから。
実際にはものすごい速度で足が迫ってくる。
マモルは避けることもできずに、ただ迫ってくる足裏を見ているしかできなかった。
「もう少し……強かったらな……」
何もできないが歯痒さがマモルの心を襲う。
マモルは、弱かった。
勇者として転生したのは五人いたが、その中でもマモルの能力は低くて、いつもみんなの足を引っ張っていた。
みんな良いやつなので、マモルが邪険にされることはなかった。
ただ今の状況のようにマモルに期待するようなこともないのだ。
「死んでも復活するけど……痛いもんは痛いんだよな……」
ドラゴンの足が降ってきて、マモルを押し潰した。
足が落とされたところは大きく陥没し、ロイたちは棺桶の中からその様子を見ていて自分たちでも助からないだろうなと思っていた。
『ねぇ、なんかおかしくない?』
『確かに。全滅したはずなのに、王様のところに飛ばないな』
マモルがやられた。
最後の一人がやられると棺桶は王様の前に飛んでいって、ロイたちは復活する。
どこぞのRPGみたいなものだ。
しかし今はまだ棺桶は巨大なドラゴンを見上げている。
「いた……くない?」
潰されて、足と地面に挟まれたマモルの視界は真っ暗だった。
マモル自身も王様に舌打ちされる覚悟をしていたのだけど、足が避けられて赤いドラゴンの姿が見えて驚く。
ほんの一瞬の痛みもないほどにあっという間に死んだのかと思った。
なのに、実際には全く痛くもなく、死んでもいない。
「なんで!?」
マモルが体を起こした。
手を握ったり開いたり、軽く腕を振ったりするも死んではいない。
後ろを振り返るとマモルの形に地面はへこんでいる。
こんな攻撃を喰らったらマモルどころか、ロイたち四人も耐えられないだろう。
「なんだお前!? なんで生きている!」
そしてドラゴンもマモルが生きていることに驚いているようだった。
「この……ならば燃え尽きるといい!」
「うおおおおっ!?」
ドラゴンが頭を下げて口を開く。
喉の奥に赤い光が見えた瞬間、真っ赤に燃えるブレスがマモルに襲いかかる。
陥没した地面のど真ん中に逃げ場はない。
マモルはまともにブレスを喰らい、真っ赤な炎に包まれる。
『焼死って結構辛いんだよな』
『圧倒的な火力のおかげで一瞬だったけど、もう二回目は勘弁だよね』
『マモルのやつも一瞬だといいんだが……長引いてるな』
つい先ほど焼死したばかりの生々しい意見が飛び交う。
ブレスの炎が棺桶まで届いているが、不思議な棺桶は熱も通さず四人とも悠々としている。
『流石に……少しヤバくないか?』
ドラゴンがブレスを放ち始めて何十秒にもなる。
いまだに王様のところに転送されるような気配がない。
つまりマモルはまだ生きているということになる。
熱によって地面が赤くなり、溶けて溶岩にでもなってしまいそうになっている。
ずっと焼かれているのだとしたら相当危険だとコウキは少し焦りを覚えていた。
『いや、でも、死なないなんておかしくない?』
『うん、こんなのに耐えられるはずないよ』
ユズキとサオリもなんだかおかしいと感じていた。
『ブレスが止んだぞ! マモル……大丈夫か!』
「…………なんだと!」
へこんだ地面がブレスによって真っ赤になっている。
もう少しブレスを放ち続けていたら地面が溶けて溶岩のようになっていたかもしれない。
そんな中からマモルは姿を現した。
灼熱の炎にさらされたにも関わらず、マモルは棺桶に入っていない。
堂々と地面に立ち、鋭い目つきでドラゴンのことを睨みつけている。
ただし、全裸で。
(危ねぇ……! てかなんで無事なんだ?)
熱いなとはマモルも思う。
しかしダメージはなく、痛みなんかもほとんどない。
『アイツ……あんなにデカい男だったのか』
『スゲェ』
『ちょっ……えっ!? うちら目も塞げないんだけど!』
『うぅ……ド、ドラゴンの方に集中しましょう!』
全裸は全裸。
パンツの一枚もない。
どうやらドラゴンのブレスに耐えきれずに装備は消失してしまったようである。
仁王立ちのマモルにはモノを隠すものもなかった。
『勇者……いや、ドラゴンクラスだな』
『ああ、あんなの見たことがない』
『お前らうるさい! こっちは意識しないようにしてんだから』
「やめろよ……昔からコンプレックスなんだよ!」
顔を真っ赤にしたマモルは手で股間を隠す。
しかし手のひら一枚では隠しきれない。
コウキがドラゴンクラスと評価するのも当然の大きさなのであった。
「くっ……この! 妾の前に卑猥なものをぶら下げるでないわ!」
「お前のせい……うわっ!?」
ドラゴンはぐるりと体を反転させると尻尾を振り下ろす。
「あ、あんな大きなものを……」
「なぜなのか……きかなぁぁぁぁい!」
「なんだとぉ!?」
マモルはさらに陥没した地面に刺さっていたが、死んでいなかった。
「ちょっと怖い……なんで俺は死なないんだ……?」
「ええい! そのまま刺さっておれ!」
ドラゴンの攻撃が一切効かないことにマモル自身も困惑していた。
地面から出てくるマモルの股間と心が揺れる。
『そうか……! そういうことだったのか!』
『何か分かったのか!』
『ああ……マモルにドラゴンの攻撃が通用しないのは、マモルが属性防御に全振りだからだ!』
『どういうことよ?』
ドラゴンの攻撃が効かないという謎の状況に、ロイは一つの結論を見た。
『マモルは弱い……だけどそれは能力が属性に対する防御によってるからだ』
一応この世界の勇者たるマモルたちにはステータスを見ることができる能力がある。
HPも力とか能力の値もマモルは突出して低い。
その代わりにマモルの能力の中で五人の中でずば抜けているものがあった。
それは属性耐性値というものだった。
いわゆる物理以外の攻撃、炎や水といった魔法の攻撃に対してダメージを軽減してくれる能力だ。
マモルはこれがとんでもなく高い。
どれほどかというと、属性攻撃はマモルにほぼ通じないレベルなのであった。
『だが……属性耐性値は……』
コウキは悩ましそうに唸った。
『分かってる。他の能力あっての耐性値だったからな』
属性耐性値が高ければ魔法が効かないのではないか。
そう思うのだけど、実際そうでもない。
魔法の攻撃は属性値だけでなく、物理的な攻撃も孕んでいる。
炎では爆発したり、水なら物理的な質量を持つ。
マモルは属性耐性値以外の能力が恐ろしく低いために、魔法による本来ならあまり気にするまでもない物理的な側面のダメージでやられてしまうのだ。
『ドラゴンと戦うに当たって、ドラゴンの情報を調べただろ?』
『ああ、そうだな』
『かつていた完全防御の勇者の話を聞いただろ?』
『そういえばそんなのありましたね』
策を立てられるような相手ではないにしても、なんの下調べもなくドラゴンに挑みはしない。
一応ロイたちもドラゴンについて調べていた。
その中で、過去にもロイたちのような勇者がいたことを知った。
完全防御と呼ばれる非常に高い防御力を持った勇者がいた。
物理防御が高く、物理攻撃はほぼ通じない能力を持っていて、さらには装備品によって魔法に対する防御も高めて攻撃が通じないとまで言われていたのである。
そんな完全防御勇者もドラゴンに挑んだことがある。
『だけど完全防御を持ってしてもドラゴンの攻撃は防げずに敗北した』
ドラゴンを倒したという記録もあるが、それらは軍隊を用いたとか攻撃力が高い勇者とかそんな話だった。
つまり防御に割り振ってもドラゴンは倒せないと考えていた。
だがマモルは無事だ。
『完全防御勇者が敗れ、マモルが無事……このことの差はなんだと思う?』
『さあ……なんだろうな?』
『属性耐性値だよ。色々なものはあるけど、装備を身につけても最大で半分までしかカットできなかっただろ?』
『確かにな』
属性耐性値はかなり特殊な能力値である。
上げようと思って上げられるものではなく、装備なんかによる効果で上げられるのにも上限があった。
『だけどアイツは上限を超えてほぼ百パーカットできるからな』
ただマモルは上限を突破して属性耐性値が高い。
『この世界はゲームっぽくて特殊な攻撃もあった。物理っぽいのに魔法だったり、その逆もある。もし……もしの話だけど……』
『もし?』
『ドラゴンが特殊なモンスターで、攻撃が全て属性に変換されてるとしたら?』
『属性に変換?』
『これなら完全防御勇者が負けたのも説明がつく』
属性による攻撃は物理や魔法とはまた違ってダメージが入る。
ドラゴンという普通にはあり得ないようなモンスターの攻撃が全て属性によるものだとしたら、今の状況も説明できるのだ。
いかに完全防御だとしても属性攻撃は防げない。
仮に上限いっぱいだとしても、ドラゴンの攻撃の半分が通ってしまうことになる。
「ちょっ……なんでもいいから助けて!」
ロイが考察を繰り広げている間も戦いは続いている。
ブレスを浴びて、前足で潰され、尻尾で殴り飛ばされてとマモルはひどい目に遭っていた。
なぜなのかダメージはないけれど、反撃する能力もない裸の男がドラゴンに弄ばれる様は見るに耐えない。
『無理だよ。私たちもう瀕死だからね』
『とりあえず……股間隠してくれませんか? ダメなら早く瀕死になってください……』
「仲間の世知辛い意見……!」
いかに助けを求めようともロイたちはもう棺桶の中。
マモルの痴態を眺めることしかできない。
「……もうやめないか!」
こうなったらドラゴンと直接交渉するしかない。
マモルは待ってくれと手を前に突き出す。
「くっ……」
ドラゴンの方も攻撃が通じないことは分かっているのか、振り下ろしかけた前足を止める。
「戦いを終わりにしよう。あんたの攻撃は俺に効かないことは分かっただろ?」
もはや股間丸出しなことも忘れて堂々とする。
ここで弱気な態度を見せれば舐められるかもしれないという、精一杯の虚勢である。
「そうだな……ここは……えっ?」
「このような屈辱初めてだ! 良かろう! この攻撃を受け切ったら妾の負けとしてやる!」
引き分けにしよう。
マモルはそんな提案をしようと思っていたのに、ドラゴンは大きく飛び上がった。
『スッゲー……あんなのマジで倒せないよね』
『挑んだのは失敗だったな』
まるで太陽のような巨大な火球をドラゴンは作り出す。
周りの温度が急速に上がり始めて、マモルも熱さを感じる。
「ちょっと! 違うって! 勝ち負けとかじゃなくて、引き分けで……」
無事に街まで帰ればロイたちを復活させることはできる。
王様の前で全滅復活しないだけでもありがたいのだから、このまま帰らせてくれればいい。
「くらえぇぇい!」
「し、死ぬ!」
ドラゴンが生み出した火球が降ってくる。
まるで世界の終わりでも見ている気分になりながら、マモルはただただ火球を受けるしかなかった。
大爆発。
遠く離れた町からでもドラゴンが放った火球の爆発による火柱は目撃され、勇者とドラゴンの激しい戦いはのちの語り草にもなる。
「ダメージ……1」
「………………なんということだ」
火山が吹き飛んだ。
しかしマモルは相変わらず裸のままそこにいた。
ちょっとしたダメージは入った。
けれどもそれぐらいならマモルも倒れはしない。
ドラゴンは驚愕したような顔をしている。
「ここまでくると……強くなったような感じもあるな」
ドラゴンの攻撃が一切通じない。
ただただ痛くないというだけなのだけど、マモルは自分が強くなったようにも感じられていた。
「おっ?」
『ええっ!?』
『ドラゴンが人に!?』
無言のまま地上に降りてきたドラゴンの体が、シュルシュルと縮んでいく。
瞬く間に縮んでいったドラゴンはなんと、人の姿になってしまった。
燃えるような真っ赤な髪をした妙齢の美人。
赤い瞳がジッとマモルのことを見つめる。
マモルだけでなくロイたちも、ドラゴンが人になったことに驚く。
「妾の負けだ」
「……そう」
マモルとしては勝ったつもりもない。
しかしなぜか攻撃に耐え切ったらドラゴンの方が負けを認めてくれた。
「大人しく負けを認めて……妾はお主の妻となろう」
「へっ?」
『ええええっ!』
『おおっと……これは…………思わぬ急展開だね』
想像もしていなかった言葉がドラゴンの口から飛び出した。
「妾も適齢期というやつに入ってな。つがいを見つけろと親がうるさいのだ。ただドラゴンのオスというのはどいつもこいつもプライドばかり高くていかん。家庭を顧みないし、ホイホイと他のメスにも手を出す始末……そこで妾は人間のオスならばどうかと思ったのだ!」
聞いてもいないのに、ドラゴンは事情を話し出す。
「だが人間のオスは貧弱。妾が触れれば燃え尽きてしまうような者しかおらんかった。その点でお主は妾の攻撃にも耐え切った! それに……その……アレも……大きい」
ドラゴンは顔を赤くして視線を下げる。
そこにはドラゴンクラスと評された立派なものがある。
「どうだ?」
「どうだと言われましても……」
マモルは困惑してしまう。
あまりに展開が早すぎる。
ドラゴンと戦っていたと思ったら、今度は妻になると言い出したのだから理解も追いつかない。
「ドラゴンは決めた相手を諦めぬ。妾は決めたのだ。お主の妻になるとな!」
興奮しているのか、ドラゴンらしく縦に伸びた瞳孔の目をして、マモルの肩をドラゴンが掴む。
痛くはない。
ただとんでもない力をしていて、とてもじゃないがマモルには振り払えそうもなかった。
『いいんじゃない? 美人だよ』
『ああ、羨ましい限りだな』
「お前ら……他人事だと思って……!」
仲間たちの声がマモルに聞こえる。
しかしもう長く続いた戦いに飽きてしまって、なんとなく投げやりだ。
「人間は結婚式というものを挙げるらしいな? いつにする? 子供は何人欲しい? ふふ、心配するな。全て妾が用意してやろう。お主……いや、旦那様はただそこにいて妾を可愛がってくれれば良いのだ」
ドラゴンに腕を掴まれる。
もはや尋常じゃない目をしているドラゴンにマモルもどうしていいのか分からない。
「愛の巣を作ろう。どこがいい? 邪魔をするなら国だって滅ぼし、他のドラゴンだってどけてやる」
少しずつドラゴンの顔がマモルの顔に近づく。
見るほどに綺麗な顔をしている。
何も知らなきゃマモルも大歓迎な容姿をしているが、相手はドラゴンだ。
山一つを消しとばしてしまうような力を持っていることは知っている。
どうする?
そんな考えがマモルの頭の中を駆け巡る。
断ってもいいものか、あるいは断れるのか。
「ふふ、私は良妻になるぞ。なんでもしてやる。望むことは全て……」
「……待ってくれ!」
そのまま口づけでもするのではないかというほどにドラゴンが迫ってきて、マモルは思わず止めてしまった。
「…………嫌なのか?」
ドラゴンの瞳にショックが浮かぶ。
そして、目に涙が溜まっていく。
「えっ……それは……」
泣くのは違うだろうとマモルは焦る。
『あーあー、ドラゴン泣かせた』
『このままドラゴンが怒り狂うと、近くの国が消し飛ぶかもしれませんね』
そんなこと言うのはズルい。
「と、友達から……」
「えっ?」
「友達から……始めませんか?」
焦りに焦ったマモルは起死回生の妥協案を繰り出した。
「急に妻になるって言われても……俺は君のことを知らない! 互いによく知ってからでも遅くはないんじゃないか!」
こんな言い訳が通じるのか、知らない。
だけどドラゴンを妻にすることを避けながら、ひとまず状況を落ち着けるためにはこんな方法しかない。
「付き合う前の感じも楽しみたいし……少しずつ縮まる距離もまたいいんじゃないかな?」
『あー、そういうタイプなんだ』
『僕もちゃんと相手と知り合いたいかな』
『一目惚れってのにも憧れるけどな』
思わずうるせえと言いたくなるけどマモルはグッと堪える。
「妾のこと嫌ではないのか?」
「い、嫌じゃないさ! ただ……あまりにも知らないからな」
「ふむ……そうだな。旦那様の希望を聞くのも良妻の努め」
なんとか、ドラゴンを説得した。
「妾は誇り高きレッドドラゴンの、アルマ」
アルマはマモルから手を放すと、一歩後ろに下がる。
「よろしくのぅ、旦那様」
ニコリと笑うアルマの顔は確かに可愛かった。
「……俺はマモルだよ。名前で呼んでくれ」
友達から始めると言っていたのに、旦那様と呼ぶのは矛盾しているのではないか。
そう思ったマモルは素直に自分の名前を伝える。
「まずは友達から、というが何をしたら良いのかな?」
「……お互いを知っていこう。結婚はそれからでも遅くない」
「お互いを知る……か。ドラゴンのオスはそんなこともしない。やはり人間のオスは面白くていいな」
ドラゴンと戦って、なぜか惚れられて、そして友達になることになった。
この世界に来て一番冒険したかもしれないとマモルは思った。
人間とドラゴン。
結婚するのかしないのか。
不思議な関係の、不思議な物語がここに始まったのだった。




