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ご同類

我が領にあるグラス丘陵はその名の通り草原の広がる丘だ。

年中青々とした草が生えていて、真冬の今時期ですらやや温暖な気候をしている。


いつ来ても過ごしやすく、そんな場所なら街どころか国でも建てられそうなものだが、簡易な狩り小屋がいくつか存在するだけで他に建物は存在しない。


温暖な気候にも関係しているのだが、丘の内部に高熱を発するドラゴンが棲んでいて、大きな振動が鳴ると呼び寄せてしまい対処が出来ない捨て地だ。


大きな振動。

つまりは大規模な工事や整地が出来ない為に開発が不可能な地として有名だ。


完全に持て余してはいるのだが、その気候は野生動物にも過ごしやすい土地な為、狩場として利用されている。


大きな魔法も使えないし、簡易な小屋を建てるのがドラゴンの怒りを買わない限界なので大人数が入り込む事もない動物の楽園となっている。


その狩り小屋にようやく到着した俺とリアンは、日がある内に水や火を確保して早めに寝床へと入った。


明朝の日の出と共に狩りを始める為だ。


あまり人がやって来ない小屋ではあるが、念のためドアに鳴子を設置して夜警は立てないことにした。

本来なら考えられないことだが、声の奴が見張っていてくれるというので任せる事にしたのだ。


リアンへの説明は難儀するかと思いきや、鳴子があるので大丈夫だろうとすんなり受け入れてくれた。


『おやすみフラン、リアン君。

何かあったら大声を出すよ。』


勿論俺にだけ届いたその声への返事は、剣を外して枕元に置いて居たのでいつものように柄では無く、床をトントンと2度叩いた。



『わあー!!わあ!わあ!フラン!フラン!』


フランとリアン君が寝静まってから大体4時間が経ったくらいだろうか。

僕は異変を察知して、大声でフランを起こした。


ガバッと身体を起こしたフランはキョトンとしていて、一体何が起きたのか分からないみたいだ。


「…急に起き出して…驚きましたよ、若様。」


白々しい!その手に握っている物が何よりの証拠さ!


異変は、いや、事件と呼ばせてもらおうか。

事件は山小屋で起きた。


僕には生物の3大欲求、食欲と睡眠欲と排泄欲が無くなっている。

二人は明日も狩りで早いし、僕が夜警に向いている事を伝えて、ゆっくりしてもらうのがいいと思った。


小屋では焚き火を作れるスペースがあって、その排煙の為に屋根と壁の間に隙間が作られているので、そこから出入りが出来る。


それを利用して外の警戒をしたり、フランの寝顔を堪能したり。

そうしていると時間なんてあっという間に過ぎちゃうから退屈って訳じゃないんだなぁ。


辺りの獣も寝静まって、夜行性っぽい鳥の鳴き声が聞こえては来るけれど、まぁ静かな夜でさ、このまま何にも起きそうに無いってそう思ったんだよ。


だけど事件は起きてしまった。


僕は星の並びを見ながら勝手にオリジナル星座を作ったり、夜でも動いているあんまり可愛くない鼠を追いかけたりしていた。


30分に一度はフランの寝顔を見ないと身体に悪いから、本日5回目のフランタイムに入ろうと山小屋へ戻ると、驚くべき光景が広がっていた。


リアン君が、いや、犯人がフランの髪を撫でながらじっと見つめていたのだ。


羨ま…、いや、いくら仲が良くても、男同士で、そんな。


確かにフランは庇護欲を誘う雰囲気を持っている。

貴族然としたツンツンな喋り方と、ふんわりとした見た目のギャップなんて最高だ。

だからそうしたい気持ちは、歯軋りしたい程分かる。


だけどさぁ、髪とはいえさぁ、本人が寝ている時に触るのは違うんじゃない?


抗議の意味を込めてリアン君の周りをぐるぐる回ったりしてみたけれど、まぁ効果はなかった。

それだけなら許したさ。

フランが可愛らし過ぎるのが悪いと、そう思う事にしたさ。


でも!毛布を掴んだら違うじゃん!

めくってしまったら!それはもう!罪じゃん!


そう思って僕は急いでフランを起こした。

フランの身が危ないと思ってね。


「……んえ?」


声に驚いたフランは寝起きの働かない頭で現状をはあくしようとしている。


「…敵か?」


カスカスの声でぼんやりとした問いをするフランに、犯人はこう答えた。


「いえ?静かな夜でございますよ。」


そうかもしれない。

君がフランの毛布を剥ぎ取ろうとしなければね!

自分で見てご覧その手を!

欲望で握られた毛布の端を!

心に輝くナイフを自覚しているだろう!


「…毛布…。」


「はだけていたので直そうと。暑かったですか?」


「かたじけない…。」


そう言い残してフランは目をつぶってしまった。


「……おっどろいたぁ。」


リアン君の気の抜けた声は初めて聞いたかもしれない。


いや、驚いたのはこっちの方だけどね。

僕がフランを起こさなかったなら、僕はとんでもないものを見せつけられた可能性だってあったんだから。


「若、フラン様。貴方様はこのリアンが守ります。」


そう言いながらリアン君は毛布から飛び出しているフランの手を、たっぷり5分も両手で握っていた。


濡れた瞳で。


『お前が危ないんじゃい!』


フツルが熟睡してしまった以上、僕の声は誰にも届かない。


今回はかろうじて僕の頑張りで防ぐ事が出来た。

BLに耐性はないけど偏見もないから、応援してあげたい気持ちもあるさ。


だけどね、フランはお貴族様だからさ。


この先を考えたらあまりにも茨の道すぎるじゃない?

フランのお兄ちゃんとしては阻止したい。

お父さんがどっか行った反動で「そう」なったって陰口を叩かれるのを阻止したい。


でもね、リアン君、安心して欲しい。

フランは僕が守るから。


それにしても、狩りに来たのに狩られそうになるなんて。

どうやってこれまで無事に生きて来たんだろう。

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