2章エピローグ 信奉者たち
金貨51枚。
日本円にして5100万円。
賭け金の金貨10枚、それが6.8倍されて返って来た中から借金を抜いた額がフランの懐へと入った。
「生まれて初めて見たぞ、こんな金貨。」
『貴族でしょ、僕ら。』
貧乏貴族の悲しみだ。
フランにも騎士学校時代仕送りという名のお小遣いはあったが、月に銀貨1枚に銅貨50枚、日本円にして1万5000円という庶民的な額であった。
それこそランカーベルの様な大貴族の子が騎士学校に居た際には、1日にその10倍は消費していただろう。
訓練着やその他諸々は支給されていたので大きな問題は無かったが、貴族同士交流を図ろうとすると、そんなチンケなお小遣いではどうにもならない。
そんな程度の金額だったのだ。
それが今や、手元に大金が。
『どうする?もう一回出て倍にする?』
「いや、無理だな。
あの時はガンバーを騙し討ちしたみたいなものだから高い倍率だったが、金貨50枚も賭ければレートは下がるし、実力も見せてしまった。
次はもっと渋い倍率でなおかつ相手も強かろう。
アンリがいくら強いとはいえ絶対ではないから、これはガンバーからの孤児院リニューアルの祝儀だと思ってここで切り上げる。」
フランはもう大金を賭けて戦うなどという嫌な思いをしたく無かった。
胃が悲鳴を上げ、身体も上手く動かない戦いはゴメンだ。
角馬の時の様に恐怖で身体が強張るのは仕方がないし、それを克服したいとも思うが、今回のこれは違う。
今後に活きるとも思えないし、活きる場所で生きて行きたくはない。
フランはその金を金貨一枚、100万円分だけ手元に残し、残りの50枚を半分に分けて、片方を実家へと送った。
「という訳でな、泡銭が出来た。
ララゼ、セト、レン、金貨25枚あるが、これはお前らに預ける。
孤児院の運営の足しにするなり、投資するなり、もう一つ商売を始めるなり好きに使え。
俺はセトとレンが、例えば女を抱くのにこの金を使おうが咎めん。
そういう意味での好きに使え、だ。
使い方に失敗しても良いからな。
願わくばお前らの成長に繋がると嬉しいが、まぁ、それだけだ。」
『カッコいいねぇ。』
アンリはそう言うが、カッコいい事など実は一つもない。
フランの行った行為を悪意を持って説明するなら中々のクズとなる。
孤児院の子供を働かせ、そのアガりをギャンブルに注ぎ込んだ。
勝ったから良いものの、負けたらどうするつもりだったのか。
更には行く宛の無い女性を囲い、自分のテリトリーで無理矢理働かせようとしている。
甘い言葉で拐かし、決して割りも良くなく辛い仕事を斡旋したのだ。
経緯をマフィアであるガンバーが聞いたら、即ドラ1スカウト、マフィアのトッププロスペクトだ。
「俺達、この恩は忘れない。」
「うん、フラン様にいつか返しますから。」
レン、セトも感謝している。
2人は特にフランから新たな学びを得て、未来への道が切り拓かれたからだ。
更にしばらく安泰な稼ぎを教示もし、生活の安定と商売の基礎を教えられた。
結果を見れば。
2人と、その他孤児への教育は、フランから見れば暇つぶしだった。
訓練漬けを自ら課して来て、動いていないのが性に合わないフランが、気まぐれに教育も聖騎士の仕事だったな、と教え始めただけだ。
商売が上手くいかなかった可能性も普通にあるし、上手くいっているのは2人が異様に優秀だからに他ならない。
アガりもギャンブルに注ぎ込まれているし、こんなに畏れる程の貢献など、本当はしていない。
それに、普通の善良な大人は、聖騎士が捕まえるのに苦労している悪人を誘き寄せる餌になどしないのだ。
「フラン様、私は貴方様に預けられた孤児院を守って行きます。
何かありましたら、必ず側でお力になりますので。」
ララゼもそう言う。
だが、思い返せば、彼女は暗殺技術を教わっていて後ろ暗い仕事に手を染めて居たとはいえ、フランは本来、父親、教祖の要素を併せ持つ神父を捉えた敵である。
「ララゼ、お前なら任せられる。
3年、だったな、任せると言った期間は。
それが済めば自由にして構わない。
俺に会いに来てもいい。
そうだな、その時はなにか褒美を用意してやろう。
考えておけ。」
誰も気がついていないが、ずっとこんな感じで接しており、全てを失ったララゼをマインドコントロールでもするかの様に甘い餌を撒き続けている。
甘い言葉と命令で脳が蕩けたララゼ。
しかしそんな異常には誰も気が付かない。
孤児はフランを信頼し切っているし、ララゼは脳が壊れているし、アンリは元からフランを疑わない。
ダンダリアすら、だらしない生活をフランに世話され続け、なんとなく誠実な男だと思っている節があり、ちゃんと考えてるなんて偉いと思っている。
もちろんフランすら、そんな風には考えていない。
だが、この島に信奉者を産んだ事には間違いがないのだ。
「よし、俺はそろそろ行かねば。」
懸念通り、フランには辞令が降った。
大陸のランカーベルが治めている辺りに謎の魔物が出現したという。
その調査の責任者となった。
魔物を刺激しない様に先ずは1人で動く。
そう決まり、ダンダリアともここで別れる事になった。
「後の事は任せな。
神父も全てを話してくれているからね、そんなに苦労もないさ。」
ダンダリアは3席という班のリーダー的立場である。
その地位に座っているのは、祖父が聖騎士団長まで務めたランパードであるのも大きい。
コネとまではいかないが、それが信頼の糧になっている。
私生活は終わっているが、聖騎士としての職務は真面目で、こう見えて鍛錬は欠かしていない。
しかし、若い。
彼女はあまり知らないのだ。
1人で向かう任務など、相当珍しいと。
だからフランになにも伝えはしなかった。
フランも知らないのだ。
今回はこうやって教会に滞在し、そこを拠点に調査して居たが、それが普通ではないという事を。
今回は領主も疑いの目を向けられて居たのでこうしているが、本来ならその地域のまとめ役と共に調査するに越した事はない。
謎の魔物が出るので手を貸して欲しい。
そんな任務なら当然、ランカーベル伯と協力すべきだろう。
フランはランカーベル領へ行っても、教会に寝泊まりする気でいる。
しかし、彼の元婚約者がどういうつもりなのかは、行ってみないと分からない。
1人で来いという台詞は、大抵罠だと相場は決まっているが。




