おねだり
『えー、地下コロシアム?
嫌だよ。
別に人に見せる為に剣を修めたわけじゃ無いもん。
技術を広めたいとかの目的もないし、戦いなんて人の目に付けば付く程弱点がバレて通用しなくなっていくんだから。
僕が目立つってことは、フランが危険に晒されるってのと同じなんだよ。
あんな、ララゼなんていうフランを傷つけようとした奴のためになんか戦わないよ。』
うむ、困った。
凄く嫌そうだ。
良いよ、弟の頼みなら仕方ない。
任せて!って言ってくれると思っていた。
確かにアンリの言うことは一理あるし懸念も分かるが、はじめてお願いを断られたことが意外すぎて、次の矢を考えていなかった。
こうなれば最後の手段だ。
出来れば使いたくない、自分のプライドを捨てるに等しい行為。
媚びるか。
「アンリの戦っている姿を見たいんだ。
その他は…実は些事だ。
昨夜、神父とララゼを倒す為に振るった剣もやはり素晴らしく格好良かった。
やはりアンリは戦っている姿が似合う。」
『はいはい。』
おぉ、強情だな。
こう言えば高確率で戦う方向にシフトさせられると思ったが…。
アレか。
アレを口に出す時が来たか。
「兄ちゃん、お願い。」
『仕方ないなぁ。
今回だけだからね。』
サンキュー!
これで孤児院の問題の8割は片付いたと言って良い。
もしも負けたとしても、依頼を受けた時点でララゼの過去をロンダリングする件に関しては遂行される約束だ。
そうしてララゼを善良なシスターにし、神父を突き出す前に正式に孤児院の所属にしておけば、他のところからわざわざ人がやってくる事はないだろう。
金銭は自分たちで稼げることを覚えた、俺からみても賢い二人の後継者も育っている。
安心だ。
それに何より。
アンリが負けるなんて事はない。
そんな姿は想像出来ない。
となれば、だ。
地下格闘技と聞いて、負けても構わないという事実があるにも関わらず、プライドを捨ててまでアンリに頼み込むのは理由がある。
…言い難いが、実は…借金があるのだ。
屋台に使う初期投資やらなんやらの物で、別に遊びで使ってはいない。
それに後悔する訳ではないのだが、借金は借金。
聖騎士としての給金もまだ1月分しか貰っていないのに、商売の初期投資を全て自費で賄ったので、そこそこ借りてしまっている。
それを返す当てが出来たこの機会に返してしまいたい。
当てとはなにか?
まぁ、その、ギャンブルだ。
地下格闘など、言うなれば賭博だ。
アンリが戦うのなら勝ちは確実。
3分変身の時間制限に頭を悩ませたが、戦闘開始直前に変身する為に、マントで俺の身を隠して入場。
ゴングと共に変身したならば3分をフルに使える。
それだけあれば、アンリには長すぎる。
余裕だ。
聖騎士だと知っているのはガンバーのみ。
対戦相手は別のマフィアの持ちファイター。
ランキング的には5位前後の競合で、そんな奴にルーキーが当たる様に見える試合で、ルーキーに賭け金が集まるなんて事はないだろう。
と、いう訳で俺は更に借りた。
もつ聖騎士の初任給を越えるほどに。
俺自体はただ身体を貸すだけだが、ある意味絶対に負けられない戦いに身を投じる事になる。
勝手に飛び込んだと言えなくも無いが、屋台の売り上げを積み重ねていればいつかは返せるはずの借金を急いで返さなくてはいけなくなったので、本当にこうするしか無かった。
正直初期投資の金額は大した事はないので、聖騎士としての給金と屋台の売上で3ヶ月後には返すことの出来る算段ではあった。
いくらなんでもそれぐらいの計算はしていた。
何故、早く返す必要があるか。
それが昨夜発覚した事実を認識したからだ。
時は神父をダンダリアへと引き渡す際へと巻き戻る。
◆
「アンタ、大手柄じゃないか。
出世しても私が先輩だからね、忘れるんじゃ無いよ。」
ララゼを連れて教会を出る直前に、ダンダリアにそんな事を言われたのだ。
出世。
それは良い、嬉しい事だが、もう一つ頭に浮かんだのは、別の事だった。
あれ、これで聖騎士としての任務は解決したのか、と。
神父の様子から、これ以上隠す事はないだろう。
毒物の生成法と販売法を聞き取れば、それで解決なのだ。
そもそもこれは戦争に毒を持ち込んだ、サカ王国という小国の処罰をするか否かの下調べなのだから。
「なぁ、ダンダリア。
この後ってどれぐらい滞在する時間があるんだ?」
そんな俺の質問に、少し考えたダンダリアは少し考えた後、あんまり長くはならないんじゃないの、と答えてくれた。
『僕もこういう任務のある仕事をした事があるけど、フランの場合は1年以上滞っていた仕事を、2ヶ月経たずにツルッと片付けちゃったからねぇ。
本当に来週とか再来週には別の面倒な任務に飛ばされる可能性が高いと思うよ。
有能だって判断されるだろうからね。
だからダンダリアちゃんも出世って言い方したんじゃない?』
早くて7日、長くて14日。
アンリの経験からくる推測だと、俺がここにいられる時間は短い。
教会に関しては構わない。
ララゼの過去をガンバーにいじって貰って責任者にしたならば、セトとレンという稼ぎがあるので問題は起き難い。
二人が出て行く年齢になっても、職員扱いに出来る。
去り際は寂しいだろうが、もう二度と会えやいという訳じゃないのだから、悲しむ事ではない。
…やっべぇな!
長期スパンで考えていたから、借金を返す当てがなにもない!
俺の頭を支配したのはそんな焦りだった。
正直ララゼの将来や、ガンバーとのやり取りなんで出来レースの様な物で、各々俺に協力する理由があるのだからどういうやり取りを経由するかは分からずとも、結果は悪くなりようがない。
ララゼは元々孤児の行く末を案じて手を染めていた。
ガンバーは聖騎士が敵対する罪の濡れ衣を払拭出来る。
そして俺の前任の聖騎士がマフィアと領主を疑っているのが伝わっているのは間違いない。
てなければ、ガンバーがあんなに親切にも子供達の屋台を壊して警告などしてくれてない。
そして話の輪には関わって来ないが、領主という性質上、マフィアと全く関わりがない事は無いだろう。
ならばマフィアの上からの命令も降りているはず。
この件を長引かせない様に俺に協力せよ、と。
すんなり行ってしまうに違いない。
ならば俺はもう一捻りする様に動くしかない。
ガンバーは面子を気にして、利益を取ろうとしてくる。
しかしそれはポーズだけのはず。
俺が機嫌を損ねたり、理屈を持ち出せば、あっさりと折れてくれるだろう。
面子がありますよ、と伝える為にそうしなければならないだけなのだから。
俺はそれを逆手に取り、掻き回して時間を稼ぐか、利用して金を稼がなければ、借金を返す暇も金もない。
今からすぐにララゼと共にガンバーのアジトへと向かわなくては。
正式にマフィアの本部で交渉をしたならば、その暇を作る事さえ難しくなってしまうからだ。
なんでこんな事に…。
俺はこれから、一言だけ文句を言うが、全面的に協力しようとしてくれている味方に、その一言を捕まえて絡んで行く事になる。
多分、利がないから金を払えとでも言われるだろう。
だがそれはポーズで、拒否したら終わりの、形式的なやり取り。
ごめんなガンバー。
予定調和で言い出した事を、間に受ける馬鹿が取引に向かうよ。
なんかギャンブルの胴元とかやってくれていると良いが。




