交換条件
「はぁん、暗殺者ねぇ。
いや、出来るだろうよ、裏の仕事してる奴ほど表に痕跡が少ねぇから簡単にな。」
ガンバーへ本題となるララゼの経歴ロンダリングを依頼すると、やはり可能だという。
どこかの金でどうとでもなる悪徳な教会か、寂れ切って放置されている忘れられた教会出身のシスターだということに、書類上変えてしまうらしい。
「良かったな、ララゼ。
これで神父を継げるぞ。
孤児院もお前が運営出来るし、維持する為に当たりかどうか分からない聖職者を迎える必要も無くなる。」
これで目的は達成した。
ガンバーに変なところを見られて気まずいし、とっとと帰ろう。
「おいおい。
マフィアに頼み事をして、お礼だけで済むと思ってんのか?
おら、早く提示しろよ、利をよ。」
おっと。
しらばっくれようと思っていたが、無理か。
とは言えこちらに出せるものなど無いんだが。
経口補水液の利権を渡してしまっても良いんだが…。
あれは麻酔の様な常習性はないし、安全な、ある意味ただの飲み物だからマフィア的に旨みが少ないだろう。
それに成功するにしても失敗するにしても、アイツらに最後まで任せたい気持ちもある。
借りにするのもなぁ。
マフィアに借りのある聖騎士とかなんの冗談だ。
「私が返します、お金でも、仕事ででも。」
「ララゼ。
何のために俺がここに来たと思ってんだ。
お前はもうそんな事する必要は無い。
これからは愛に生きろ、子供達とな。
それに…マフィアとしてのガンバーは、俺と取引をしているんだ。
そんな事、こいつが許すはずが無い。」
目線をガンバーに送るが、ニヤニヤ何も言わずにこちらを見ているだけだ。
俺に興味を持って協力的だが、基本的には信頼できる相手ではない。
こちらが致命的なミスをするか、納得のいく利益が出るまで何も話はしないだろうな。
さぁ、推理の時間だ。
こいつは俺の何に興味を持った?
金策?いや、あれは邪魔されたから違う。
興味を持たれたのはその後からだ。
…俺が着いて行った後か、屋台の破壊を止めた時か…。
あぁ、なるほど。
こいつの部下は全員ゴツかったな。
力自慢じゃなくたって、ハンマーがあれば屋台は壊せる。
だけど、体格のデカいヤツらしかいなかった。
このマフィアのシノギは、倉庫の貸し出しが主だ。
それは調べた。
違法な荷物をしまっておいても目を瞑るが、他より賃料が高い。
そして、倉庫のフリをしたイベントスペースも持っていて、裏カジノなんかもあるらしい。
ガンバーは金を持っている。
じゃあ個人のシノギもあるって事だ。
倉庫、ゴツい舎弟、そして恐れずに破壊を止め、更には平気でマフィアに着いてくる俺に興味を持った。
「なんだお前、喧嘩マニアか。」
…やっとガンバーの顔色が変わった。
まぁ、すこしおどろかせられたってだけだが。
「殺し合いの見せ物でも開催してんのか?
そりゃあ聖騎士なんでいう駒は欲しいよな。
ネームバリューはそれだけで大きい。」
「よく分かったな。
まぁ、殺し合えとは言わねぇよ。
俺ぁただ、世界一強いやつを見てみたいだけだからな。
成長して帰ってきてくれりゃあそれでも良い。
世の中にゃそんな奇特者が山ほどいるんだよ。
そんな奴らはやっぱこう思うよな?
世界最強の軍団、聖騎士って本当に強いのかって、さ。
一回で良い。
一回出てくれりゃあ飲んでやる。
どうする?
安いもんだろ?アンタは強いんだろうから。」
馬鹿言え、俺は弱いっつーの。
着いて行ったのだってそれなりの根拠があったからだ。
「出られる訳ないだろう?
聖騎士だし…貴族でもある。
しがらみが多過ぎる。」
「あ、そう?
別に顔を隠して出ても良いんだぜ?
俺の目下の興味は、聖騎士が強いからどうかだけだ。
俺だけ、今回の戦士が聖騎士だって知ってりゃあとりあえずは満足だからな。」
…ふむ。
それならば。
しかしながらなぁ、俺は弱いんだって。
素人には負けないが、地下に潜ってまで戦う戦闘狂のアホ共に勝てる訳が無い。
今はな。
身の程は弁えている。
本番に賭けられる段階でも無い。
俺は強く無いぞガンバー。
そう言おうとしたが、話を遮る様にララゼが入ってきた。
「絶対勝てますよ、フラン様!
すっごい強かったですもん!惚れ惚れしちゃうくらい!」
…お前…。
お前が負けたのはアンリだろうが。
いや、そうだよな、知る由もないか。
「おお!マジか!プロが言うなら間違いねぇな!
そうだよな、ねぇちゃんが大人しくしてんだからそう言う事だよな!
ラッキーだぜ全く、聖騎士の戦いを見られるなんてよぉ!」
テンションを上げるな!
マズい、コイツ…本当に聖騎士が戦うのを見たいだけになっている。
今更金がどうとかで動いてくれるとは限らない。
…はぁ、別のマフィアに話持ってったら、ガンバーに邪魔されるだろうしなぁ。
「おい、話は分かったが…条件を付けさせてもらうぞ。
顔は隠す、というか、隠さざる得ないんだ。
そしてセコンドにはガンバー、お前が着け。
じゃないと説明しなきゃいけない事が多すぎて面倒だ。
特等席で観戦出来るんだから良いだろう?
そして戦うのは聖騎士じゃない。
剣神だ、間違うな。」
「剣神…?偉い強気じゃない、フランセスク。
まぁ、肩書きはなんでもいいぜ、強けりゃあな。
実際聖騎士やってんだから、お前がどう思おうがどうでも良いよ。
だが、剣神を自称するんだったらガッカリさせんなよ。」
ガッカリ?
させるか、そんな事。
これで戦いに関する不安は無くなった。
後は…アンリに泣きつくだけだ!




