助けてガンバー!
俺は二人をその場に残したまま、ダンダリアを呼びに行く為に部屋を後にした。
逃げられるかもしれないが、聖騎士としての俺の仕事は犯人を見つけた時点で完了しているので問題はない。
主人の居なくなった神父の部屋を探せば証拠も出て来るだろう。
それはアンリが引き受けてくれて、今頃孤児院中を駆け回って探しているだろう。
せっかく再開したというのに、また離れるのは心苦しいが、時間との勝負な面もあるので仕方がない。
部屋へ戻ると、夜更けにも関わらず、意外にもダンダリアは起きていた。
「終わったのかい?」
「なんだ、気がついていたのか。」
「ん?んー、まぁね。あんな険しい顔してちゃあ、なんかあったと思う方が普通だよ。」
そうか、俺は顔に出ていたか。
情けないな。
セトとレンには気付かれていないだろうか。
いや、二人のことだ。
気がついているのかもしれない。
「まぁ、終わった。
着いてきてくれないか、ダンダリアにも手伝って欲しいんだ。」
「うん。
可愛い部下に頼られちゃあ、しようがないねぇ。」
俺がダンダリアを連れて神父の部屋へ戻ると、二人は大人しく待っていた。
逃げていても構わないと言ったが、居るに越した事は無いし、この期に及んで保身に走らなかった人間性に安心した。
それどころか神父の顔は時間を置いて落ち着いたのか、付き物が落ちたかの様な爽やかさも感じる。
「そこの女かい?」
なのでダンダリアがそう思ったのも自然な事だろう。
当然犯人を野放しにせず、神父に見張って貰っていたのだろうと考えたのだ。
そのぐらい神父へは疑いが向いていなかったことの証左でもある。
「違う、神父だ。」
俺がそう言うと、案の定ダンダリアは目を剥いて驚いていた。
じゃあその女はなんなのさとなるが、詳しく説明すると面倒事もセットで付いてくるので、省かせてもらう。
「ダンダリア、取り調べ、頼むな。
神父もあまりダンダリアを困らせるなよ。
じゃあ、俺はこの女性を連れて契約関係を整えてくるからな。
早めにこの孤児院の責任者の変更を済まさなければ、ハイエナに乗っ取られないとも限らないからな。」
実際の所、孤児院の後釜に座りたいなどという奇特な奴は居ないのだろうが、目端の利く者は、最近セトとレンが利益を上げているという事を知っているだろう。
あまりモタモタしていると、本当に変な輩がやってきそうな懸念がある。
「うし、ララゼついて来い、行くぞ。」
「はい、聖騎士様。」
あまりに従順なララゼの様子を見て、ダンダリアは怪訝な顔をしていた。
神父は何故か笑っていたが。
外は白み始めていて、港町であるセナル島の活動はもう始まっていた。
漁師などはもっと早く海に出ているだろうからか、屋台も半分くらいは開いている。
見慣れたおばちゃんは居なかったが、おっちゃんは居たので声を掛けておいた。
おっちゃんは若い女性に弱いので、良くしてくれるだろう。
屋台を離れ裏路地へと向かって歩く。
人気が減り、明確に役職なんて向かっていないことは分かるだろうに、ララゼは何も言わずに付いてくる。
「ララゼ、少しは疑問に思わないのか?
こっちは治安が良くない区画だ。
こんな所に役所を置く行政は居ないのだろう。」
ララゼは不思議そうな顔をして、聖騎士様に付いていくだけです、と言った。
もしかしたら…神父を盲信していた歴史があるララゼだ。
自主的に動くのは得意では無いのかもしれない。
しかし、これからは孤児院の経営も兼ねなければならないので、少しばかりの警戒心は持っていて欲しい所だ。
「あのな、俺が悪い奴で、この先の連れ込み宿へお前を引っ張り込んで行くかも知れないんだぞ?
少しは警戒しろ。」
苦言とまではいかないが、これからを思って釘を刺す。
女がトップに立つ組織の難しさは、実家で経験しているから心配なのだ。
「連れ込み宿ですか…、喜んで。」
ちょっと会話になっていないから、これ以上の言及は辞めておこう。
まだ動揺があるのだろうからな、さっきの今だし。
そのまま道を進み、夕方に来たばかりのガンバーのアジトの酒場の扉を引く。
中は火を落としており、営業をしている気配はないが、ドアが開いていたというのだから、そういうことだろう。
「ここは…そういう所でございますか?」
歩いてくる中で、始めてララゼが自主的に質問をして来た。
そういう所。
裏社会の窓口ですかとそういう意味だろう。
暗殺業務をしていたララゼは関わりがあったのか、雰囲気でそれを感じ取ったらしい。
「あぁ、そうだ。
怖いか?しかし…悪い様にはならない。」
「はい。部屋は…どちらでしょうかね。」
部屋。
隠し部屋も察知しているのだろうか。
しかしその手前の部屋のドアの隙間から、うっすらと光が漏れている。
奥へ行かずそこで待っていろというガンバーからの合図だろう。
「こっちだ。」
俺が促すと、ララゼは俺の腕を取り抱えて来た。
そうだろうな、怖いよな。
大丈夫だ、と声を掛け、腕を組んだまま部屋へと入る。
中には人はおらず、ベッドの横のサイドテーブルにランプが一つ光っているだけだった。
座る所も無いので、ベッドに腰掛け、ガンバーを待つ事にする。
どうせすぐに来るだろう。
「ララゼ、怖くないぞ。
俺がリードしてやるから。」
これから俺は、ガンバーとララゼの経歴を洗う交渉をする。
人を消すのが暗殺者の仕事かもしれないが、過去を消すのはマフィアの仕事だ。
「はい…でも、私…。」
何かを言い淀むララゼは、腕を握る力を強めた。
「受けの教育は、されておりませんの。」
…なんの話?
疑問を解消する間もなく、ベッドへ引き倒される。
どうやったのかは分からないが、上下も一瞬で返され、寝ている俺の上にララゼが跨る形となった。
何が起こっているんだ。
「あぁ、聖騎士様。」
…え?
殺される?
俺の方へとララゼが手を伸ばす。
もう暗殺の心配など無いと思い込んでいたが、失敗だったか。
相当不利な体勢にされてしまった。
「傷の無い身体ですね、聖騎士様。」
嘘だろ!
気がつくと上の服を脱がされていた。
どうやって…、気がついたら上裸だ。
まだ俺を疑っているのか。
敵ではない事を分かって貰わなくては。
「おい、ララゼ、警戒しなくても服の中に武器など隠していないぞ。」
「うふふ、分かっておりますよ、聖騎士、フラン様。
武器は下の服の中…。
私が取り出して、磨いて差し上げます。」
ララゼが俺のベルトに手を掛ける。
いや、そっちにも武器なんてないのだが…。
ベルトも一瞬で抜き取られ、俺のズボンにララゼの手が掛かった瞬間、ララゼは手を離して身体を起こした。
「チッ。」
舌打ち?
何だ?
ララゼの視線の先を見ると、そこにはいつの間にかガンバーがドアに寄りかかって立っていた。
「あのよぉ、フランセスク。
マフィアのアジトに来ておっ始めるとか、イカれてんのか?」
おっ始め…?
あ、これ、俺は今、襲われてるのか!
暗殺とかじゃなくって!
「ガンバー様、すぐに終わらせますので10分、いや、15分程お待ちいただけますか。」
いや、終わらせるって…。
ちょっと…動けない。
「腹抱えて笑ってないで助けろよガンバー!」
俺の必死の声に、ガンバーは更に笑い声を大きくした。
いや、頼むって…。
ララゼも!ステイ!
ステイ!
「あっはっは!イカれてんのはそっちの嬢ちゃんの方だったか!辞めてくれ!腹が千切れちまう!」
アンリを連れて来るべきだったなぁ!
もう!
頂きます?ララゼ、頂きますって言った?
いや、もう、ホント、助けてガンバー。
助けてガンバー!!




