表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フランは気味悪がっている(仮  作者: まつり
聖騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/54

フランの悪癖

項垂れたまま動かない神父。

顔をそちらに向けたまま涙を流すララゼは、どういう心境なのだろう。

親と慕い、思想に共感して、自ら血に手を染めて来た。

もはや信仰の対象と言って良い対象が、折れてしまった。


『信念って意味では、僕は彼女の方がまだ好ましいな。

…ま、フランを傷つけようとした相手だから、マシ程度だけどね。』


いつの間にか変身は終わり、アンリの声は俺にしか聞こえなくなった。

逆に俺の声は相手に届くように。


「ララゼ、手を出せ。」


声を掛けた彼女もまた、呆然と動かない。


どくどくと未だ流れる手首からの血は、ララゼの下で水溜りの様になっているので、単純に血を流しすぎただけなのかもしれない。


切り落とされた手と指を拾い、歩み寄る。

敵意が残っているか少しだけ警戒したが、やはりそんな様子では無かった。


ただ神父を見ている様な、何処も見ていない様な目で、涙を流し続けている。


『治すんだね。』


当たり前だ。

このまま放っておいたら死んでしまうし、アンリも言っていたではないか。


道具は使う人物が責任を負うべきで、道具のせいではないと。

彼女は正しく神父の刃、道具だった。

その神父の心が折れた今、彼女に何も出来はしないだろう。


指先に魔力を集め、切り口へと雫を落とす。

すると淡く光りだし、血が止まる。

完全に治る前に、腕と手の切断目同士を合わせると、見た目には分からないくらい自然に、腕はくっついた。


同じ要領で指先に残る魔力をララゼの指の方にも落として、指も繋いだ。


「動くか?」


領兵の息子カラフや、リアンを治癒した際に聞いたのだが、俺の治癒は痛みも消してくれるらしい。

しかし、切断や深い裂傷なんかの大きな傷だと、治した後で痺れや痒みの様な症状も出るという。

数日治癒魔法を飲ませるとそれも良くなるらしいので、一度で完全には治らないのか、それとも別の要因があるのかは分からない。


ララゼの手指も完治した様に見えるが、中は分からない。

本人の申告でしか分からないのだ。


せめて動かせるまでに治っていれば、後は自然に任せて心配は無いが、もし動かない様であれば治癒を続けなければならない。


「ララゼ、手は、動くか?」


ゆっくりと、赤子に問いかける様に話しかけるが、ララゼの反応はない。

残念ながら、俺の治癒魔法は心の傷には効かない。


彼女を立たせていた、身体の芯にある物が無くなった。

それは、彼女自身の意思と時間で癒すしかない。


だが、そんな時間は無い。

今すぐ立って貰わなければならない。


「ララゼ、聞け。

神父はこの後処罰される。

それは間違いがない。


辛いだろうが罪は罰と抱き合わせだ。

受け入れろ。


神父の後釜が居ないと、このままこの孤児院はどうなるか分からない。

もちろん俺も保護したい気持ちはあるが、俺は聖騎士で別の任務に就くことになるかもしれない。


事情を知っている大人はお前しか存在しない。

お前が孤児を育てろ。」


無茶苦茶を言っている自覚はある。

戦っている姿を見る限り、こいつは暗殺の類の技術を習得している。

その技術を一度も使わずここまでやって来られたと考える事は出来ない。


誰かは殺している。

そういう組織に居るのか、神父がそれを役目として与えたかは分からない。


だがそんなの俺の知った事ではない。

俺はこの地の領主でも無ければ、個人の罪を裁く任にも就いては居ない。


俺は、アイツらを放り出したくないだけで、その手段があるのなら多少の黒には目を瞑るつもりでいるだけだ。


『二枚舌って言われちゃうよ?』


はっ。

馬鹿な。

俺は聖騎士として毒の頒布の犯人を追っていただけで、裏社会に属しているしがない暗殺者など知らん。


「ララゼ、お前、弟や妹…この孤児院の孤児を救たくてやって来たんだろう?

このままだと、全員放り出されて野垂れ死ぬぞ。

立ち上がるしか無いんだ。」


孤児の話をすると、ララゼはこちらへ目を向けた。

しかし、俺の言葉では彼女を立ち上がらせるのは難しい。

その目は暗いまま、見ているのが何かすら分からないままだ。


俺ではダメなのだ。

俺がララゼに向けて話す言葉は、ララゼに届かない事は分かっている。

ならばなぜ、こうも気持ちを入れて説得を続けるのか。


「……ララゼ。」


神父は人で、やり方を間違えた罪人だ。

だが、神父の声は、ララゼにとって神の声。

そして、なりふり構わず孤児を救おうとした心は、疑う余地もない。


俺の声は、神父には届く。

ララゼに向けた言葉でも、聞こえてくれる。


「…その聖騎士様を頼りなさい。

私は、その方の言う通り間違いを犯しました。


そして、その間違いを飲み込んだまま、貫き通す意思すら持てない愚か者です。


ララゼ、お前にも申し訳ないことをしました。

暗部の技術を習得させて、危険な取引にも行かせた。


聖騎士様、私は、もと教会暗部でございます。

その技術をララゼに教えただけ。

この子は何もしておりません。


どうか、どうか、どうか、よろしくお願いいたします。」


嘘だろう。

暗部の知識はあったのかもしれないが、神父の技は真っ当な聖騎士の剣術だった。

ララゼが何もしていないというのも、それも嘘。

躊躇なく人を攻撃出来るのだ。

いくら盲信的とはいえ、最初からは無理だろう。


だが、そんな事はどうでも良い。


俺はただ気に入ったセトとレンが成人になれるまで、ここが存続していたら良い。


「分かった。」


『わお!良いの?』


良いいかどうかなんぞ、知るか。


「お父様…。

私では、無理です。

お父様がいなければ、私は…。」


信仰と親を同時に失う、可哀想なララゼ。

俺としては初対面の女だが、彼女にも事情と歴史がある。


だか、知るか!


俺はララゼの顔を手のひらで挟み、無理やり目を合わせる。


そうだよな、驚くよなぁ。

感情はあるんだ、なら、奮い立たせるエンジンは、お前の中にもあるはずだ。


「もう一度言うぞ。

お前が、立ち上がらねば、お前の家族が、路頭に迷う。


分かったか?」


挟まれ、頬が潰れたままコクコクと頷くララゼ。


「3年で良いんだ。


3年経てば、セトとレンが成人になる。

アイツらならお前も神父も安心して院を任せられるだろう?

アイツらが嫌でも、3年もあればここに人をやるくらいは出来る。


神父の罪は神父が償うが、お前の罪はお前が労働で償え。」


懲役3年シスターの刑だ。

殺人やらなんやら、余罪はゴロゴロあるだろうが、神父による洗脳で、精神耗弱で責任能力無し!


「従うなら俺にしとけ。」


今はそれが一番お前の望む道と近い。


『かっくいい!

物語のちょいワル王子みたい!

お兄ちゃんも首っ丈〜。』


…怖。

さっきまで鮮烈な剣技で指や手を切り落としていた奴のテンションじゃないだろ。


「はい…、聖騎士様。

…貴方様のお名前をお聞かせ願いますか?」


「フランセスク。

フランセスク・ストランドだ。


お前の失った、心の隙間に、俺の名を入れておけ。」


「はい…!」


『…またそんな事言ってる!

たまに出るんだ…フランの謎の口説き文句。


リアンちゃんにもそんな事ばっかり言って、そりゃああんな風に偏愛されるでしょってなもんだよ。


…もしかして、ランカーベルのお嬢様がフランを謎に愛したのは…フランのせいなのか?』


アンリはフランの悪癖に気付き、頭を抱えた。

抱える頭は、無いが。



セリーヌは仕事を終え、日課である読書をしている。

日課とはいえ、趣味と実益を兼ねたもので、結婚当初からもう何冊読んだのか分からない。


始めは傭兵育ちの荒っぽい言葉を矯正するためだった筈である。

だが、いつの間にかお姫様やお嬢様の冒険譚とロマンスに心を躍らせていた。


ガタンが居なくなってからと言うもの、フランの貴族教育などは、完全にセリーヌの仕事となった。

小領地には下位貴族を囲う余裕も、高額な家庭教師を雇う余裕も無かったからだ。

唯一の騎士も、剣に傾倒した男、セス。

何の足しにもならない。


そんなセリーヌ自身の貴族教材はロマンス小説。


フランは気がつかない。

気がつくはずがない。


幼少から受けて来た教育の歪さを。


たまに出る、女性やはたまた男性に向けた、気障ったらしい口説き文句が、貴族の嗜みなどではない事を。


しかし頭のいい彼女は一つだけ気がついている事がある。


なんか、フランはモテるのねぇ〜と。

お母さんとしては、当然それに何の問題も感じていない。


いないのだ。

やっとプロローグが終わった気分

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ