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フランは気味悪がっている(仮  作者: まつり
聖騎士

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生き餌


セトとレンは新たにレモネードを配ると言うことを始めた。

それも無償でだ。


セトは他の店で買った食事をしている者に声を掛けて商品の半分以下の量のレモネードを配る。

買おうとする客にも、その旨を話して他の屋台の食事を促しているので、屋台のおばちゃん達からも好評だ。


書けるようになった文字でその旨を貼り出してもいるので、不満は起きていない。


レンは船乗りや荷運び人が集まる所へ出向き、無償で配った。

主に酒場と大衆食堂だ。

レモネードを薄める前の瓶ひとつで大体30人は飲める。

それを10本程置いて回ったのだ。


それが口コミで広まり屋台にも人が増え始めた。

まずは名前を売る。

それが2人と俺が考えた戦略だった。


単純に考えれば利益は減るが、教会に自生しているレモンを使っているので元手は砂糖代ぐらい。

無闇に売るのに比べたら宣伝効果は抜群なのに大して痛手もない。


普段の屋台では、セトの班に大きな問題は起きてはいないが、思った通り商品の模倣が出た。

なんたって作るのは簡単、子供が勝手に宣伝してくれたし、効果は謳われた通りらしい。


しかも売るのは小さいガキ共。

文句を言われても大人の腕力で黙らせられると分かっているからか、当たり前の様な顔で売り始めた。


しかしこうなるのは分かっていた。

俺もそうだし、勿論セトもレンもだ。


レンの班も大きな問題は無い。

レンは態度を商人らしく明るくし、船員達や荷運び人に積極的に話しかける様になり、受け入れられ始めている。


こちらは模倣はないが、アガリを狙う輩が出たと言う。

その日は逃げ切れたが、いつかそう出来ない日が来るかもしれないと考えてもいた。


レンももちろんそうなる日が来ると予想していた。


俺と2人はそれぞれの問題を見越して販売先を増やそうとして、動き始めていたのだった。


脱水ってのは思っているよりヤバい症状で、それを解消出来、味もよし、船乗りの病にも効くとなれば定期的に買う先はある。


セトとレンはそれに気がつき、病院と荷運び倉庫、船乗りのギルドや酒場なんかへと直接卸す契約を目指している。

その話もかなり大詰めまで辿り着いており、そうなれば屋台の売り上げなんて全体の15%程になる。


なので模倣されても痛くも痒くもない。

むしろ自分たちの商品を広める屋台を無償に近い形で行ってくれるボランティアの様なものだ。


それでも屋台を辞めないのは、単純にチビのトレーニングになるからだ。


2人が販路を広げようと配る先の酒場なんかでは、これを飲むと悪酔いしにくいと話題になっているらしい。

気のせいか、単純に酒で脱水症状が出るのを防いでくれているか、教会孤児が売る物にご利益を感じているのかは分からないが、喜んでくれている。


船乗りは今配っている試供品を試している商船が帰ってきたら、病院も患者の様子を見てからになるが、荷運び倉庫と酒場は少量でも屋台で売るよりは遥かに大きな量を定期的に買ってくれるらしい。


流石に商談には俺も同席したが、特に口出し出来ることも無かった。

教会孤児だけではなく、港の裏路地でいつ死ぬか分からない野良の孤児にも手伝わせられる程に大きくなれば、彼らの稼ぎ先になるかもしれないと、応援してくれる人の方が多い印象だ。


生産も樽にレモンと砂糖と塩、それから俺が持ち込んで改良したレシピで必要となった少量のフルーツをぶちこんでおけばレモネードの種は出来る。

流石に自生しているレモンでは足りないので買い足す必要はあるが、他のフルーツは野生で事足りるし、これから売り先があるなら問題は無い。

砂糖と塩代は俺の持ち出しになるが、次の生産は売れた分から出せるし、今回の分は屋台の売り上げも合わせるとそこまで大きな金額でも無かった。


順調。


しかし陰ながら見守る俺には、コイツらを見張る何者かが現れたのが分かった。


教会は聖騎士に保護されているので手出しされる心配は無いが、レシピと卸先を持っている子供は狙われやすい。


利に聡いならば、これが商機で、御し易い子供がやっていると理解しているはずだ。


その候補は二つ。

領主が加担している場合。


ダンダリアはそこを疑っている。

待機中と言いながらも毎日毎日町をウロウロしているのはなんらかの異変を探しているのもあるのだろう。

仕事の概要を話してくれはしたが、待機などと煙に巻いて俺を巻き込んで居ないのは、子供だと見て信頼されていないんだろうな。


もう一つは港町には必ずある組織。

マフィアだ。

違法な物を入れたり出したり運んだり。

何をするにしても通る港はそれを仕切る奴らが必ずいる。


こっちが主導している可能性もある。

なんにせよ子供が稼ぐのを掻っ攫おうとしている奴が居るのは確かだ。



今日はまた、3人で話し合う日だ。

ここ数日あったこと、商談の結果を話し合う。


「なぁ、セト、レン。

子供だと思わずに、お前らを信用して話すから、聞いてどうするか考えてくれ。」


俺は2人にこの商売が、悪人の目に届いているだろうことを伝えた。


相手がヤクザか領主か。

それは分からないがその内に接触があると。


「危険な目に遭わせるつもりはなかったのだが…悪い。

お前らが優秀だったのもあるし、初めての…弟子の様な物を持って俺も張り切りすぎた。」


優秀さにかまけて、売れる方法を共に考えるのは楽しかった。

コイツらが出すアイデアを形になる様に話し合うのも楽しかったのだ。


思えば俺にも仲間という存在を持った記憶が無い。

年下相手に楽しくなってやり過ぎて悪目立ちするだなんて馬鹿が過ぎる。


「今は売りにいくのは辞めよう。

契約してくれた所への搬入は俺がやるから、教会内での生産だけを頼みたい。

その時に悪人が俺に食いつく可能性もある。


俺は…その、大きくはないから、幼く見えるらしいからな。


上手くいって楽しくなって来たところだろうに、申し訳ない。」


やりがいを感じて来た仕事を取り上げられて、困惑する顔をするのは分かる。

だがこれは、大人でも危ないので子供らに続けさせる訳には行かない。


「そう…なんですか。

それって、もしかして聖騎士様達がここに常駐しているのと関係はあるのでしょうか。」


…分からない。

ダンダリアが怪しんでいる領主が本当に関わっているかの確証もなければ、見張る人物が何者かも分からない。

可能性の高いところを疑ってはいるが。


「可能性はある。


調査の内容は言えないが、金を稼ぎたくて犯罪を犯している奴がいるらしい。

だから簡単に作れて効果の大きく、子供が勝手に販路を作ったレモネードの売り上げを横から奪ってもおかしく無い。」


それを聞いた2人は質問を続ける。

どういう時が危ないのか。

人に狙われる程売れる物なのか。


「危険はずっと付き纏う。

お前らを見張ってる奴も見つけたしな。

教会には俺とダンダリアという聖騎士が居るから来ることはないだろうが、それ以外は危ない。

それも分かりやすく狙ってくるとは限らないし、その可能性の方が高いと俺は思う。」


「分かりやすく狙う訳じゃ無い…。

どういうことでしょう。

ちょっと想像が付きません。」


暴力で奪う。

それは分かりやすいが奪える儲けは短期的。

それならばまだ良い。

殺されなければ俺が回復してやれるし、そんなことをする奴らは警邏と聖騎士で潰してやる。


だが、親切を装って入り込まれた方が厄介だ。

俺らはいつまでもここに居るとは限らないし、その後牙を剥かれたら守りようが無いのだ。


レシピ自体は商人ギルドに登録してあるから、利益も教会に入る様にしてある。

コイツらを手中に収めて、収益のいく先を悪人に変えられたら手出しできなくなる。


「それにな、お前らが売ってるレモネードのレシピ。

あれは厳密にいうと実は薬だ。

身体に水分が入りやすい様に作られていてな、俺が兄から教わった物なんだ。

効果は保証するし、医師が試しているところだろう?

これから実証されるさ。


そうすれば何処でも売れる。

商人ギルドからの上がりも増えるだろうな。」


「…待ってくれ、フラン様。

なんで俺らにそんな…薬だなんて貴重なレシピを教えたんだ。

アンタが売れば、大金持ちになれたかもしれないのに。」


レンが言うのは最もだ…なんでだろうな。

我が家は貧しい貴族で、そこで主導して売れば間違いなく足しになる商売になったろうとも思う。


だがレシピを知ったのは家を出る直前だったし、商売と結びつけたのはコイツらと出会ってからだ。

それまでは訓練の際に疲労回復に良いもんだ、くらいにしか思ってなかった。


多分、ダンダリアの言っていた、俺らが居なくなった後の事を考えた時に、何か残してやりたいと思ったんだろうな、俺は。


「俺にも分からん。

…分からんが、気に入ったんだろうな、お前ら二人を。

最初は簡易なレモネードだけ売らせて商売のノウハウを覚えてくれたら、社会に出たお前らが困らないと考えただけだったんだが…。

秘蔵のレシピを投入してしまった。


後悔は無いぞ。

役立てられたら嬉しいと、その時はそう思ったんだ。」


そうとしか言えない。

教えた事をひたむきに学ぶコイツらが野垂れ死ぬのは我慢ならなかっただけだ。


「それが悪人を引き寄せるとは。

ままならんもんだな、人生ってやつは。」


良い物を良い奴が売れば、そいつが幸せになる。

そんな単純で綺麗な世界ならば。

そうで無いのは悲しい事だが、仕方がない。


そういうものだ。


「……話はわかりました。

僕ら、そんな貴重なレシピを預かっていただなんて。

ありがとうございます、フラン様。


…なぁ、レン。

僕らがフラン様に出会わなければ、どういう人生を歩んでいくことになっただろうかって、この前話したよね。」


「あぁ、俺は傭兵で死戦に投入され、お前は荷運びで使い潰され、酷い怪我をして野垂れ死ぬしかなかった。」


「だよね。

今でもそう思うけど、これからは少し未来が明るくなったとも思う。」


なんの話だ?

そうか、孤児は後ろ盾がないからそうなるのか。

我が領地でもそんなこともあったのだろう。


孤児から聞くと重みが違うな。


「…そうだな、セト。

ならば張りどころはここか。

納得できるぞ俺は。


フラン様。

俺らは商売を続けます。」


「何言ってんだ。

だから、もしかしたら聖騎士が担当する様なヤバい奴が絡んでいる可能性もあるって言ってんだ。

歳の割に賢いとはいえ、ガキが金持ってうろついてたら簡単に全て奪いにくる様な輩だぞ!

ふざけんな、俺はお前らを長生きさせたくて色々教えたのに、目先の利益で死ぬかもしれない所に首を突っ込むんじゃねぇ!」


怒鳴ってしまった自分に驚いた。

対して怒鳴られたセトも、レンも落ち着いてこちらを真っ直ぐ見ている。

あぁ…良い目だ。


男の目。


「だからです、フラン様。

聖騎士様達がここにいらして一年近くになる。

なのにまだ居るということは、解決が難しいのでしょう。


ならば僕らが餌となりそいつらを誘き寄せます。」


…クソ。

言って聞くならこんな事、口に出したりしない奴らなのは一緒にいて理解している。


「俺たちの未来はフラン様に貰ったと思っている。

ならそれをアンタの為に使うのは変じゃないでしょ。」


変だよ馬鹿野郎。


「僕らになんかあっても、チビ達はフラン様がなんとかしてくれるだろうし…。

そんな奴らがいたらチビ達の将来が心配です。

あいつらの兄貴として、直接対抗出来なくても囮ぐらいはやってやりたいですね。


それに、俺らは信じてますから。

ね、レン。」


「あぁ、信じてますよ。

いざという時、アンタが守ってくれるって。」


息を吐いて目を瞑る。

止めるべきだ。


絶対に。


だが見てしまった。

コイツらの覚悟した目を。


止めても辞めずに囮になって、二人がヤバくなったら結局助けに行かざるを得ない事をコイツらも理解している。


俺なら辞めるか?

もし、この状況なら。


…辞めないだろうなぁ。

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