子供の屋台
「あんた達!洗い場はここを使っていいから!ね!
ゴミは!こっちね!終わった後にまとめて置いてくれたら掃除人が運んでくれるから!
何か困った事があったらなんでもいいな!」
広場でデカいおばちゃんのデカい声が響く。
セトが決めた屋台の場所は中央広場の他の屋台がひしめく地域。
なぜライバルの多いであろうそこにしたのかをセトに聞くと、セトなりの論理でそこに決めたらしい。
「だって僕ら、何にも分からないですし…。
ちゃんと挨拶とかしてたら助けてくれる人も居ると思うんです。
それに…。」
ならば俺からは何を言う事はないな。
今もデカいおばちゃんと、小うるさそうなおっちゃんに連れられて広場の使い方を受講している。
人を頼れるのなら、そうした方がいい。
それもセトの能力のうちだ。
始めての屋台の設営に四苦八苦しているセト班だが、俺は監督しているだけで口出しも手出しもしない。
本当に困っていそうなら手伝おうとも思ったが、セトの覚悟が思ったより大きく、なるべく自分たちで完成させたいと考えているようで、こちらを意図的に見ないようにしているのが分かる。
これなら任せても大丈夫か。
「ご婦人。
私は聖騎士のフランセスクと申します。
あの子らの…。」
おばちゃんとおっちゃんに挨拶だけでもしておこうと声を掛けて名乗ろうとしたが、おばちゃんは途中で遮り、俺の背中や肩をバシンバシン叩きながら任せておきな、と言ってくれた。
痛い。
「聖騎士様の教え子か、通りでキチンとしていると思ったよ。
しっかし、長い事店をやっているが孤児が屋台を出すなんて姿は初めて見るな。」
おっちゃんはスープをぐるぐる混ぜながら子供達を眺めながらそう言った。
きちんと教育が聖騎士や教会で行われていたならば屋台ぐらい出させてみようかと考える奴も居ただろうに。
「ほら、港町だからさ、孤児も多いし。
アイツらみたいに保護されているばかりじゃ無くて、路地裏に住み着いた猫みたいな奴らも一杯いるから。
手が回らねんだろうよ。」
教会はそういう孤児に炊き出しなんかもしていたはずだ。
確かにそれなら手が足りないか。
俺みたいな暇が出来た奇特な聖騎士でもいないと初期教育の次段階、実践を積んでみる段階までもたどり着けなかったのかもしれない。
「ま!なんにせよ!
あの子達は私らに挨拶もしてくれたからね!
ちゃんと見ておくから、聖騎士様もあんまり心配するんじゃないよ!」
ありがたい。
そしてこれもセトの想定内だ。
「それに…多分港近くの方が商品の性質上客は多いでしょうけど、荒くれ者も多いですし…。
チビどもを守らなきゃならない僕はそんなリスクは取れないでしょ。」
世話焼きの大人を巻き込んで安全を優先し、多少の売り上げ減は受け入れるらしい。
強かなもんだ。
セトの屋台は放って置いても大丈夫そうだな。
事実その日、トラブルらしいトラブルも無く帰って来た。
売り上げは好調とは言えないが、コイツらが無事なのがセトの優秀さを示している。
子供だらけだから、危険も多い。
それを全員無傷で返したのは賞賛すべきだ。
次の日はレンの班だ。
レンはなんと港にビタ付、港外れに屋台の拠点を設営した。
セトが避けたリスクを受け入れる形だが、レンもレンなりに考えがあるらしいので、俺は口出し無用だ。
「船員はゴツくて怖く見えるが…真面目で仲間を大切にする奴らだと聞きました。
じゃないと長い船旅など出来ないと。
ならあの人たちと顔見知りになることで、被害のリスクを減らす事にします。
それに商品は船乗りや荷運び人に向いた物。
ならばその人達に近い所で売った方が絶対にいいですから。」
レンは拠点の屋台をチビを一人連れて離れ、首から下げた箱にレモネードを入れて売り歩いている。
まずは顔を覚えてもらってから。
その為に自分から売り込もうとしているらしい。
船員はそんな子供達を珍しそうに見ているが、邪険にはされていないようだ。
レンが上手く話せているのと、船員も優しいのだろう。
屋台の方を指さしたりもしているので、近い内に売り歩くだけでなく屋台にも来てくれるだろう。
俺は俺で船長と倉庫番連中にも話をしておく。
「あぁ、そうかい。
へぇ、船乗りの病にね。
まぁ、分かったよ。
ガキが集まって商売始めたからハラハラしてる奴も多くてな、親は何考えてんだって思ったもんだが、孤児か。
オイラにも分かる。
無理してやらなきゃならねぇ時もあるわぁな。」
船長達もこんな反応で、この屋台には好意的だった。
しかし腑に落ちない事もある。
屋台のおばちゃん、船長、挨拶して回ったどの大人も口を揃えてこう言った。
「小さいのに聖騎士だなんて。」
おばちゃんは凄いわね!と、船長は訝しんだ後紋章を見て、苦労してんだな、と。
おばちゃんはスープをくれたし、船長は飴玉をくれた。
…これはアレだな。
俺がアイツらと大して変わらない年齢なのに監督をしなきゃいけなくなって頑張っている子供と思われたな。
成人!していると言うのだ!
俺は!
しかしその事が余計に好印象だったようで、大人たちはセト班、レン班の子供達へ優しい。
今の所は安心だ。
順調と言っていい。
両方とも問題は抱えているのでその内表面化はするだろうがな。
その時にどう対処するのかも楽しみにしておこう。
翌日は勉強の日、そしてセト班、レン班、ふた周りに1回のセト、レン、俺での話し合いの日が来た。
「さて、どうだ。」
2人共が楽しんでいるらしい。
こうしたら良くなるのではとのアイデアも多々出てくる。
セトはレンがしているように、屋台で待つだけでなく他の店で食事中の客に、売り歩こうと決めた。
レンは逆に売り歩きを少し減らす事にしたらしい。
「どうして、レン。
僕らの店より売り上げがいいのは、文字通り足で稼いだからなのに、なんでやめちゃうのさ。」
セトが取り入れようとしたことを止める。
このやり方に問題があったのならば自分たちも後に困る事になるので、セトは聞いておかなくてはならない。
「単純な話だ。
俺ら2人は良いが、チビ共が重い箱を持って歩き回るのが負担になっている。
疲れが酷いんだ。
広場でやるのは良いと思う、食べる場所も決まっているしな。
だが、広い港でやるには俺らじゃ体力不足だ。
その内誰かが怪我をする。」
レンの商売の懸念の一つではあった。
箱を持って歩き回るのは確かに良いアイデアだが、重く辛い。
あまりにも子供達の体力が奪われる様なら俺からストップを掛けようと思っていたが、レンは先に気がついた。
「凄いな、レン。
見てて気がついたのか。
セト、広場でやるのはレンの言う通り港ほど大変じゃあないからな、試す価値はあると思う。
だがお前はお前でチビ達をよく見てくれ。
辛そうなら別の方法を考えた方が良いな。」
褒められたレンは嬉しそうにはにかみ、セトは真剣そうに頷いた。
「逆に俺たちは周りの人への気遣いが足りてなかった。
セト達の様に商売相手としてでは無く、同じ場所を使う仲間として挨拶をしなければならなかった。」
問題が起きにくい様に、両方の管理者や有力そうな大人には俺が挨拶に回っているが、セトはそれに輪をかけて自分で関わっている。
お陰で広場で働く子供達の雰囲気はとても良いし、大人達も良くしてくれている。
セトの方は売り子が小さい子だから気を遣ってくれているだけだった。
「セトも凄いな。
挨拶は大事だぞ。
何せ無料なのに効果は絶大。
レンも見習わなきゃな。
仲良くなって悪い事なんてないんだから。」
今度はセトが喜びレンが真剣な顔をしている。
良いねぇ、コイツらは競うのに対立する訳じゃなく、協力する姿勢を見せている。
感動だ。
「じゃあ、次回は俺はついて行かない。
2人でチビ達を無事に帰してくれよな。」
2人は少し不安そうな顔をしたが、すぐに引き締め頷いた。
勿論陰から見守る予定ではあるが、どうなるだろうか。




