傭兵の子/アンリエント、ストランドへ帰る
俺に気づかれたとはいえ、作戦は良かった様に思う。
ルールの隙を突いて、平面に限定せず上から狙ったのも良かった。
上手くいかなかったのは作戦の失敗というよりは、作戦を隠そうとし過ぎた事と、狙い過ぎたのが原因だ。
俺を少しナメて、初めに一当てしたのは良くなかった。
スタートから数秒で俺が14点に到達し、後が無くなったのがはっきり敗因なのだから。
「作戦を立てた子は誰だ。」
降りて来た子が作戦を立てたのかと思ったが、おずおずと手を挙げたのは取り立てて特徴のない男の子。
名前はレンというらしく、こちらもよくある名前だ。
こういう子供は大体が傭兵出身であるとアンリから教わった事がある。
画一的な指導をあえて行い、個性を消す。
戦術の乱れは命を失う事に直結するし、親や家族、仲間が死にやすい職業なので、他の所に紛れやすくする為だ。
身内だけならば違うのだろうが、お客さんの俺がいるからそういう紛れモードなのだろう。
「傭兵の子、か。
親父は参謀かなんかだったのか?」
出自を当てられて驚いてはいたが、その問いには首を振り、作戦を立てるのが当たり前だと答えた。
命も掛かって居ないのに。
この子らはやはり遊びを知らないのか。
それは悲しく思うが、得たものを生かしているのは嬉しい。
「ちょっと集まれ。
砂糖豆はみんなで摘もう。
すまなかった、正直言って子供だからと、なんというか、子供扱いし過ぎた。
楽しんでくれればと思ったのだが、みんなの覚悟を甘く見てた。
おい、ほら、食っていいぞ。」
あぁ、そうか。
遠慮とかじゃなく、他の子の事を気にしているのか。
「袋ごと持ってけ。
全員に行き渡るぐらいには入っているから。
お前らが全部食っても良い。
手に入れて配る自由を得たお前らは、人より選択肢が多くなったが、これはお前らにやった物として捉えて良い。
朝早くから頑張ったんだ、貰う権利がある。
それか…その砂糖豆は日持ちするからな、お前らが頑張った奴を見つけて、そのご褒美に使っても良い。
自分がやりたくない仕事を押し付ける為の報酬として使っても良い。
とりあえずこの8人にはなるべく公平に分けろ。
また後日どう使ったか聞くから、好きにして良いぞ。」
これは今日、参加してくれた事へのお礼代わりの物だ。
引け目を感じる必要はない。
わざわざ朝早く起きて、こうやって来た事への褒美だからだ。
だが、この賢さを持つ子らがどう使うのかも知りたくなった。
もしこれを有効に使える子がいるのなら、汎用的に物事を教えるのではなく、別の事も教えてみたい。
作戦を立てられる奴がいる。
それを実行出来る集団である。
下を思いやれる。
セトの様に交渉可能な方向性の賢さを持つ奴も居る。
あとは報酬の使い道に才能がある奴がいるならば…。
◆
僕は7日間港でフランの痕跡を探して探して探し回って、結局見つからなくって途方に暮れていた。
酒場で話を盗み聞いたり、聖騎士と思われる人を付け回してフランやダンダリアの話が出ないかを待ったりしていた。
だけど収穫はないまま、無意な時間に心は焦る。
フランが5歳ぐらいからだろうか、僕はずっとフランに寄り添って生きて来た。
こんなに離れたのなんて初めてで、僕にとっては呼吸が出来なくなるのと同じ事だ。
ウロウロし続けて、一つだけアイディアが浮かんだ。
とは言っても、酒場のお兄さんの愚痴を盗み聞いて、確かにと思っただけだけど。
「親にヨォ、手紙を出したらヨォ、こっちに来るっていうんだよなぁ。
遠いってのに、どうやって暮らしてるのかが心配なんだと。
俺を何歳だと思ってるんだかねぇ。」
そんな鬱陶しそうな、嬉しそうな複雑な顔で愚痴る彼を見て、ストランド家へ帰ろうと思い立った。
ここに居続けても、果たしてここが最寄りの港かはわからないし、見つかるかが分からない。
ならば賭けるのはここで情報を拾う事ではなく、筆マメなランパードが母上に報告の手紙を出している事の方が可能性が高いと思ったんだ。
フラン大好きなリアンちゃんなら、どこで何をやっているか話題に上げて、それを聴ける可能性もあるし。
得意じゃないけれど、フランが実家に手紙を送る可能性もある。
人を良く見ている優しいフランが、行方不明になって心配させておいたままにはしないだろうから、報告くらいはすると思う。
実家へと飛んで移動すると、まず初めに見えたのは訓練中の兵士達だった。
フランが居なくなっても領軍は変わらずトレーニングに励んでいて、それを指導するセスも精力的で少し安心した。
フランの朝練に刺激されていた人達も少なくなかったから、張り合いが無くなってしまうのでは無いかと心配だったが、それは杞憂だった。
セスもなんなら前より剣筋に鋭さを増していて、足捌きからは僕の影響を見て取れた。
あれからも僕の模倣を続けているっぽい。
正直、ガーナンド流の剣術は洗練されていない。
流派としては広く知られているらしいけども、魔法のない世界で磨かれた、技術のみで優劣を競わざるを得ない僕の剣技から見ると、魔力で身体能力を無理矢理上げて成立させている彼らの剣技は雑。
だからか、僕の模倣で得るものは大きいのではないかと思う。
ガーナンド流の達人で、指導が出来るまでになっているセスなら、効率的だという事が伝わるだろう。
屋敷のメイドさんもいつも通り。
主人が居なくなったフランの部屋も、毎日掃除されている様子で、潜り込んだその部屋の机はピカピカに磨かれていた。
フランが長年過ごしたこの部屋は、僕も長年過ごした部屋なんだよね、ずっと共に在ったから。
だからこの部屋に戻るとすごく落ち着く。
何故かこの世に顕現してしまったけれど、その前から見続けては居たからね。
屋敷をぐるりと回ってみて、はっきり元気が無いのは、同志リアンちゃんだ。
フランが居た時はあんなに忙しなく動いてお世話していたのに、今は物思いに耽ることが多くなっている。
まぁ仕方ない。
僕の次にフランを溺愛していたからね。
セスが元気なのは意外だったけど、新しい剣技が楽しかったのかな。
落ち込むよりは良いから、何よりだね。
さて。
ノスタルジーに浸るよりもやる事がある。
母上についてまわり、フランの話が出るのを待たなくては。
母上は基本的に執務室で書類仕事に追われている。
税収と、国からの補助金を何にどう充てるかは年初に決めてしまっているのだけれど、予定通りになんて動かないのが政治ってやつだ。
作物の出来が良くない事だってあるだろうし、水が枯れたりする事もあるだろう。
そんな大きな、災害の様な異変じゃなくっても、橋が壊れただとか、道が荒れたとかのインフラ工事が必要になる時もある。
盗賊被害や獣がうろついているので、領軍の派遣を決めたりもする。
何が起こってもいいように準備はしているけれど、準備を実行に移すには母上の決裁が要るからね、まぁ忙しいったらないよ。
ペンを走らせる母上を見守りながら、フランの情報が出るまで待つ。
運というか、母上の行動に任せただけの作戦だけれど、現状これでも一番確実性が高い。
カリカリと進む文字を盗み見しながら、繋がりのある文言が出ないかと待ってはいるけれど、そうだよなぁ。
母上はきっちり私用と仕事を分けるタイプだから、夕食の時間ぐらいまではフランの事は出て来ないかもしれない。
…母上とは話す事は出来ないけれど、胎内にいた時の事は覚えている。
こうやって生きて働いている母上を見ていると、あの時頑張って良かったな、と思うよ。
働き詰めで心配にはなるけどね。
フラン以外には干渉出来ない契約だから、意味はないだろうけど、願いを込めて魔法を使ってあげよう。
僕の魔法は疲労を弱めたり、力を増したり速さを増したり、人の力を増幅することに長けている。
本当に魔法をかける事が出来れば手助けになるのだろうけど、発動してみてもやはり届いている感じはしない。
これはフラン相手でも届かないのだけれど、変身している時には大丈夫みたいで、この間のフラン主体の変身でも力を貸せた。
嬉しくてやり過ぎちゃって、フランが全く制御出来ないほどの出力になって迷惑をかけてしまったけれど。
それでも母上に魔法を掛けるのは、手助けしているようで嬉しい。
もう、本当に気分の問題なんだけども。
「誰ですか?」
魔法を掛け続けて数十秒後に、無言で作業を続けていた母上が口を開いた。
侵入者?と思って警戒したけれど、誰も隠れている雰囲気は無く、ここには母上しかいない。
「アンリエント?」
心臓が止まるかと思った。
心臓はないけれど。
「フランはセナル島にいるはずじゃ。
でも、居ますね、アンリエント。
間違い様ありません。
母はあなたの魔力を知っていますから。」
あぁ、そうか。
僕が母上の胎内で頑張っていることを、母上は気が付いていたのか。
フランとは繋がっている実感はあった。
双子だったんだもの、そういうもんかなって。
だけど母上まで知っていてくれたなんて。
涙が出そうだ。
目もないけど。




