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フランは気味悪がっている(仮  作者: まつり
聖騎士

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紐取り

翌朝、セトとの約束通りに水汲みの時間より少し早く外へ出る。

ダンダリア?そんな名前の寝具もあったな、そういえば。


とにかく顔合わせだ。


「おはよう。

すまない、朝早くから。

それじゃあ、先ずは挨拶をしよう。


俺はフランセスク・ストランド。

聖騎士に仮入団している立場で、みんなが住んでいる教会の、裏手にある宿舎についこの間やってきた。

仲良くして欲しい。」


無難な挨拶だが、貴族として育った俺の声は、堂々と、届きやすく威厳を出せる様に教育されている。

それを怖がる子もいれば、驚く子もいる。

この人に着いていけば、生き残れるかもしれないと、そう思う子もいるかもしれない。


注目を集めるのが目的なのだ。

相手の感情に波を立たせられればこの場は成功である。


それからセト含め8人の子に話をした。


神父と相談して、料理人を雇う事が出来るようになった。


それで出来た余暇で、教わりたい事があるのなら俺が教える。

文字の読み書きから計算、歴史や政治、剣術。

それらを学び始めくらいの強度であれば不足なく教えれると、そう伝えた。


しかし、彼らは困っているだけだ。


俺に教わるのが嫌、という訳では無さそうだ。

表情からは何が困惑の源なのかが窺い知れない。


「みんな、すまないが、わからない事があれば口に出して教えて欲しい。

解決に近づけるかもしれないし、一緒に考えられるかもしれん。

だが、伝わらなければ手伝えないんだ。」


子供達は更に考える。

少なくとも俺の誠意は伝わってくれたのが、子供達から伝わって来る。


大きな前進だ。

お互いがお互いのことを考えられたなら、仲良くなるのはすぐだ。


今日はこれだけで満足、そう思っていると、セトが口を開いた。


「すいません聖騎士様。

多分、僕らは知らない、知らなきゃいけない事が何なのかすら分かりません。


これから生きていくのに、必要なものも、それに役に立つ技術も、知識も、考え方も、全部が分からない。」



そうか。

そうなのか。

親から普通に与えられる何かで、徐々に理解していく過程がないのか。


申し訳ない事をした。

この子らにとって外の世界で生きていくというのは、俺がドラゴンを倒して首をもってこいと言われるのと同じだ。


空想の世界と変わらないのだ。


「そうだな。

じゃあ、今日は遊ぶか。

紐取りをしよう、紐取り。

分かるか?」


前もって用意しておいた45センチほどの紐を3本ずつ配る。

これをズボンの履き口に挟むよう伝えると、子供達はその通りにした。


左右に一本ずつ、後ろに一本で3本だ。


「自分の紐の色は覚えておけよ。

自分の紐は3点で、他人の紐は1点だからな。」


紐を取られれば、取り返すのに3本必要だ。

だが守ってばかりでは勝てない。


「あれ、聖騎士様、僕とリダの紐の色が同じです。

見た目では分からなくなりそうなんですが。」


そう、今回は5色しか用意していない。

気がついた男の子とリダという女の子は赤。

子供らはペアの色が居るのだ。


「色が合えば、誰のものでも3点だ。

俺だけ色が違うのはハンデだ。

俺の黒色を取れたら、それだけで3点やろう。


いいか?自分の紐、自分と同じ色、黒色が3点。

他が1点だ。


制限時間は15分、もしくは点が15点を超えた者が出たら終わりだ。


分かったな。じゃあ始めるか。

あ、建物の中は無しな、それとあそこの木を越えてもダメ。


始めるか!」


子供達に緊張が走る。

…が分かってないな。

これは遊びであり戦いだ。


「ちなみに、一番点の多いやつと、俺は仕事を変わってやる。」


子供達の目が強くなる。


「更に!この砂糖豆もやろう。

勝者は椅子にでも座って敗者の仕事ぶりでもゆっくりと見ていたらいい。

お菓子を食べながらな。


ま、俺が勝つだろうから関係ないか。

悪いな。」


更に強くなる目。

お菓子が賭けられたからか、それとも休みが欲しいのか。

俺の煽りに腹が立ったのかもしれない。


しかし全員マジだ。

こしょこしょと小さな声で相談もしている。


「では、始めよう。

10数えたらスタートする。


次からは前回の勝者が10カウントを行うとしようか。


では、10!」


数え始め、数が減るごとに子供達の性格に差が出ている。

先程俺が言った挑発に反発して、俺から紐を取ってやろうと考えている者、彼らは俺の後ろに移動している。


本当に俺が勝つと考え、自分が負けない様に俺から離れていく者。


ふむふむ。

意外なのは全員から俺が注目されている事か。

漁夫の利を狙う奴が1人くらいいると思ったが。


「5!4!」


7人は把握した。

1人が何処にいるか見つからない。

隠れる場所はあるが、茂みくらいで注視したならすぐに見える。


しかしそこにも見当たらない。


「ゼロ!スタートだ!」


居ないのならそれを頭の片隅に置いて無視でいい。

何故なら勝者は1人、最後まで隠れられても9点だ。

逃げ切ったからと言ってそれだけで勝てるものではない。


後ろから走り寄る子供をステップで交わし、すれ違い様に紐を抜き取る。


これで俺は10点。

3点の紐が俺だけ存在しないので、5本取らなくては終わらない。

今の一連の動きで、子供達の意識も変わる。


俺に向かっても勝てないと考えた子が、同じ色の子へと向かって行ったのを目の端で捉える。

格上だと感じた相手から即撤退は利口だが、背を向ければ守る方法がない事を知るのも経験だ。


逃げた2人の紐を2本ずつ抜き取りこれで14点。


こうなると話が変わる。


これから1人も俺の餌食にならないことを願っても難しいのなら、俺から紐を取る事を考えなくてはならない。


目配せをした子供達は協力し、俺を囲む様に動く。

しかし子供だからか囲みが整っていないので、抜け放題だ。


一番浅く立っていた子を狙い駆け出すと、後ろから追いかけて来る気配がする。

意外といい連携だな。

仕事を共にする内に協調や役割分担を何となく身につけてきたのだろうか。


追う子は木の方へと逃げて行く。

木は越えられないとルールを作ったので、手前で左右に曲がるはず。

どちらに動いても反応できる様に準備をしていたが、子供はそのまま木を駆け抜けてしまった。


「おい!」


たまらず声を掛けると、子供は木の先で立ち止まり、両手を上げ笑顔で振り返った。


「降参しました。」


…やるな。


そいつを追いかけたせいで、俺は木まであと数10センチ。

後ろからは6人が迫っている。

自らを犠牲にした子に誘導されて俺は袋の鼠だ。


一斉に襲い掛かってくるか。

しかし俺が先に一本でも取れば15本になって勝ってしまうぞ、どうしてくるのか。


真正面に立つ子が少し低く体勢を構えた。

…こいつが来るか?

いや、あまり得策ではない。

牽制するなら左右に振るべき…。


あぁ、なるほど。

戦術を立てた事には驚くが、まだ子供だ。


お前らはやり過ぎだ。

仕掛けますよ、だからあっちを見ないでください。

そんな雰囲気があまりにも強い。


囲みは6人、失格が1人。

残りの1人は始めに見失っていたが、こいつらがあまりにも視線を外し続けるお陰で何処にいるかが分かった。


俺もそちらに警戒を向けながら、しかし気がついてないフリを続ける。


タイミングを取っているのだろうと感じていたので、あえて前の子の牽制をあえて受けて少し前に出る。


すると、始めから姿の消えていた最後の1人が木の上から飛び降りて来た、が、予想済みの俺は、振り返りそちらへ向かって走り出している。


俺より速い子は居ない。

飛び降りて来る途中の子は着地まで動く事は出来ない。


「ほい、惜しかったな。」


着地前に、ひらひらと浮いて無防備な紐を取れば俺の勝ち。


これで15点だ。


木の上に人が居る可能性を考え付かなければ反応出来ていなかった可能性が高い。

確かに木を越えるなとは言ったが、登ってはいけないとは言っていないな。


上手い事考えるもんだ。


ポカンとする子供。

しかしその中に面白い顔を見つけた。


何故と悔しがるその顔。

その顔に俺は嬉しくなった。


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