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仕事の話

昼食を食べたあと、掃除した際に発掘した缶入りのお茶を飲んでいると、やっと貴族だったなと思い出した。


っていうか、俺だってそこまでマメでは無いはずだ。

貴族として従者やメイドがいる家庭で育ったんだから、自分の事は自分でやる習慣なんてない。


金も無いのにそんなもの雇うな。

そう言われるかもしれないが、未婚の女性が出来る安全な仕事などそう多くない。

雇用の創生も領主の勤めなのだ。


「それで、部屋が荒れ果てる程忙しい、貴重な聖騎士が何故こんな島の港町に駐在している。」


そう、昨日孤児と話してわかったのだが、ここは離島だ。

ゼイリからそう遠くはないのだが、港から船で2時間ほどの海域にある孤島。


問題はあるとはいえ、わざわざ聖騎士が常に居なければならない所だとは思えない。


「食後すぐに仕事の話かい。

気が利かないね。


ま、そうだね、そろそろ私らのやる事を教えておこうか。」


勿体ぶった話し方の通り、我がストランド家が所属するサカ王国にも関連する割と大きな話だった。


ここセナル島は、簡単にいうと武器庫だ。

鉄鉱石の鉱脈があり、硝石、硫黄も豊富。


武器をここで製造する訳では無いが、武器に必要な素材が採取出来る。

島の規模に見合わない港もあり、輸出も容易。


そして島という特性を活かしてもいる。

つまりは、新兵器の研究もされているのだ。

もし事故が起きても有害な物質が大地を汚染しても、島を放棄したなら被害は少ないと考えた先の王がここに研究所を建てた。


「へぇ、ではなんだ、兵器の情報を探るのが俺らの仕事か?」


「いんや、私たちは干渉しないよ、そんな物には。

ただ、この島で不正が行われている疑惑がある。


アンタは子供だから知らないかもしれないけどね、今の時代、戦争にもルールがある。」


それは知っている。

人員だけを投入し、血で血を洗う戦国時代の終わり、各国で決めたルール。


この場合疑われるのは毒物の禁止条項だろうか。


「何の毒だ。」


「あら賢い。

それが分からないのさ。

ただね、サカ王国の輸出先の小国が、こないだブーディン帝国の領地を削った。

ジャイアントキリングもいいところじゃないか。


もちろんまだ疑いで、天才的な魔法使いとか、剣の達人とかが現れただけの可能性もある。


だけどね、その場合一騎討ちを挑むだろう?普通ならさ。」



一騎討ち。

部隊の長同士で対決をし、負けた方は部隊ごと戦闘に参加しないとするルール。


これも無意味に兵士の、国民の命を使う事を慮ったルールの一つだ。


稀に小国に天才が現れて、一騎討ちを繰り返して勝利に導く英雄譚も存在する。

1人の肩に背負わせる重荷ではないが、騎士や兵士の様な戦う人間には名誉な事なのだ。


そのルールが制定された後、その名誉ある戦いにはいくつか不文律が出来た。

弱い側が一騎討ちを挑んだ場合、断ってはならない、だ。

戦士は誇りを重んじる。

長はその誇りを守らねば、軽んじられる。


そしてある意味それは、全ての国が、領主が一騎討ちを拒否出来ないという縛りを受けることとなった。


弱国は受けなくても良いということは、断れば自身で我が国は貴国より下なので見逃して下さいと言うようなものだ。


そんな弱腰の長に誰がついて行くというのか。


その前提を知っていると、先のブーディンという強国対サカの輸出先、スコトストラという小国の戦いは疑問が残る。


スコトストラに天才が現れたなら勝てる可能性はあるが、それは一騎討ちの話で、大勢での戦争になれば話は別だ。


「魔法使いの可能性は?」


「もちろんあるよ。

大天才の魔法使いが集団戦に強くって、それを理解した上での戦いだった可能性もある。」


魔法の種類は様々で、人によって結構違う。

俺は治癒魔法が得意だが、他はちょっと痛いくらいの弾を飛ばすぐらいしか出来ない。


ダンダリアは恐らく拘束が得意なのだろう。


俺たちは対1人に有効な魔法だが、大勢にいっぺんに掛けられる魔法もあるだろう。

仲間をまとめて強くしたり、逆に敵を弱くしたりだ。

そうなれば一騎討ちよりも団体戦の方が可能性はある。


「それを調べるのが俺たちの仕事って訳だ。」


「そゆこと。

魔法なら良い。

スコトストラに天才が現れて良かったね、ハッピー!ってだけ。


人に紛れて勝因がわからないらしいんだよ。

そんなことある?

英雄は叙されるだろう、大体さ。

それもない。


だから私たち聖騎士団は毒を疑って、兵器部の盛んなこの街を調べることにしたのさ。」


もし毒の散布が戦争で使われたなら。


その時はその国へ聖騎士が侵攻を始める。

人の無法を裁くのは警備兵の仕事なら、国の無法を裁くのは、聖騎士だから。


「そうか。」


「ん、とは言ってもね、しばらくは待機なんだよねぇ。

というか調査段階というか。

隊長たちが情報を得て帰って来るまでは異変を見張るくらいしかやれる事がないのさ。」


それは好都合だ。


「昼は街を歩き異変を探すという感じか?」


「そ。悪者は夜にうろつくけど、悪事は昼に企てられるのさ。

港町だしね、夜には出港出来ないし。」


ならばあの子らの願いを叶える時間もある。

朝に彼らの勉強や鍛錬を見てやれる。


「了解したぞ。

そこの机の紙とペンを借りるぞ。

ちょっとまとめておきたい事があるからな。」


「文官仕事までしてくれるのかい?

助かるね。

じゃあ私は飲みに行ってくるかな…。

晩飯は買ってきてやるよ。

何でも良いかい?」


何でもいい。

こっちは選んで食える家じゃ無かったんだからな。

いや、ダメだ。

十中八九、肉になる。


いい加減港町特有の海鮮が食べてみたい。


「魚が良いな、あればだが。」


「オッケー!」


元気よく飛び出したダンダリアは、夜、ほろ酔いで帰ってきた。

お土産、と渡された包みは、あまり見たことのない包装がされており、期待感を煽る。


ワクワクしながら開くと、干したイカや魚がパンパンに詰まっていた。

…海鮮とはいったが、これはツマミでは?


そう思っていると、ドン!と机に酒が飛び出てきて、コップに注がれた。


「まさかアンタが酒にハマるとはねぇ。

嬉しいよ、飲兵衛が増えてくれてさ。」


何の話だ。

味は悪く無かったし、せっかくの土産、飲むし食べるけども。


「まさか子供に酒の肴を所望されるなんてね。

おませさんなんだから。」


…次からは自分で買いに行くとするか。

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