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寝起きの2人

明らかにぬるい昼の空気を感じ目を覚ました。

あんなに強固に縛り付けられた腕のホールドも解けて、やっと動き出せる。


とりあえずは部屋の片付けだ。

散らばった服を、多分これだろうという洗濯かごへと放り込んだが、散らばってない服がない事に気がつき、1日分の服だけを取り出しておく。

コーディネートはこの際無視だ。

比較的シワの少ない物、という基準だけしか設けない。


酒瓶、出店の器、あとはなんだからよく分からない物もゴミ籠へ入れ、モップをかける。


個人用の洗面台を磨いて、鏡も正しく映るようにした。


どうせまだ起きないだろうと、買い出しにも行く事にする。

必要な物は、鼻が馬鹿になっているだけの可能性もあるので、部屋用のお香やどこにも見当たらなかった髪用の油。


昼食とワインも買って行ってやるか。

肉まみれの夕飯だったので、葉っぱが食べたい。

ダンダリアには…肉でいいか。


出がけにゴミを集めたかごと、洗濯物のかごを持ち出す。


あのズボラさとは思えないほどには服が汚くなかったので、近くにに引き受けてくれる所があるのだろう。


そう思って外へ出ると、ここは教会の裏手に建てられた家屋だった。


聖騎士は教会所属となっている。

建前として、中立な組織である教会所属にするのが当時醜聞が良かったと聞いた。


完全に別の組織だが、都合がいいと。


聖騎士の中には、自分の指針を人の法ではなく神の法に依存している者らもいるらしい。

人が人の為に作ったものよりも、神のお告げの方が信じるに値するのだろうか。


あまり信心深くない俺には分からないが、アンリの件もあったので、不思議な事を頭ごなしに否定する事はしないでおこう。


籠を持ったまま教会の辺りを伺っていると、てこてこと子供が小走りでやってきた。


「聖騎士様?」


そうだ、と答えたいが、今の俺は3分の2聖騎士と言った所だ。

許可証の数だけは多めに揃っているが、あれが通る組織の方が心配だ。


「仮、だがな。」


無難にそう答えると、籠を一つ抱えてくれた。

話を聞くと、ダンダリアの、というか聖騎士の宿舎のランドリーとゴミを回収するのも教会孤児の仕事らしい。


ランパードがそうした様に、食糧や水も教会から貰えるとの事だった。


その代わり聖騎士の仕事には孤児の保護や、教育もある。


座学は教会で教えているのでそちらではなく、戦い方法を教えているらしい。


俺もそのうち稽古をつける側にまわるのだろうか。

自分に自信がある訳でもないのに。

そう思うが、将来この子らが身を守るのに必要な術を手抜きして教える訳にはいかない。


もっと自身の鍛錬深めなくては。


「君たちにはこれから、俺が指導する事もあると思う。

その時はよろしく頼む。」


少年は少し驚き、ぎこちなく頷いた。


これはあれか。

小さいお前が?とでも思われたのだろうか。

子供に憤るほど狭量ではないぞ、俺は。


「嬉しいです、あまり、あの、僕らに時間をとってくれる方はあまりいませんから。

聖騎士様に教えていただけるという話だけは聞いた事があるのです。

だけど、皆さんお忙しそうで中々。」


ごめん。

俺は狭量であった。


教えてもらえる事自体に驚いていたのだ。

そうか、ランパードも聖騎士は基本的に人手不足だと言っていたからな。

喫緊の仕事を対応するので精一杯で、子供らは後回しになっているのだろう。


「また、今度な。

かご、ありがとう。


あー、後でパンだけ貰いに行くから、2人分用意してもらっても良いかな。

その時に、これから何を教わりたいか聞くから、出来れば考えておいて欲しい。


仕事で忙しいのに、悪いな。」


この子の様に皆働いている。

教育を受けにくい立場なのは子供達も一緒だ。


仮団員の俺がやろう。

やる気がある子がいるならば、剣の振り方の基本は伝えよう。

もし座学も滞っているならば、それも見てやろう。

何故放っておいているのか。

この子らは将来の聖騎士かもしれないのに。


なんか腹立ってきた。


昨夜に寄った屋台の近くで肉を焼いたやつと、ピタで野菜を巻いものを買い、ついでに大量に入っている砂糖豆を買う。


買い物をしながら辺りを確認すると、教会所属なのかは分からないが、ここには孤児が沢山居そうだ。


ストランド領には、実は孤児は少ない。

貧しいのに何故と思うかもしれないが、母が上手くやっているのもあるし、冬の寒さが厳しいので、屋根が無ければ生き残れないのもある。


ここは温暖なのだろうか。


肉の屋台のオヤジに問うてみると、それもあるが、港町というのも関係しているらしい。


船乗りが多く、どっか行ったまま生きているのか死んでいるのか分からないまま居なくなる親も多いのだそうだ。


夫婦揃っていなくなれば捨てられたと思うしかないのだが、船乗りの父親だけ居なくなってすぐに孤児になるのが分からない。


「こぶ付きの女が1人で稼ぐ仕事なんて、限られてらぁな。

病気になるか、無茶苦茶されて、まぁ、そんなもたねぇ。」


オヤジは眉間に皺を寄せながら、肉をオマケしてくれた。


帰りに歩きながら、そういえば自分の領地は平和なもんだと単純に思った。

母は俺たちより民を優先して働いていたのかもしれないと、ここに来てようやく理解した。


少し小高くなった丘に建てられた、恐らくここの領主館は、俺の家より綺麗で大きかった。


教会へ戻りパンとスープを受け取り、先ほどの子供に声を掛けると、困った顔で黙っている。


ゆっくり話を聞くと、「分からない事が分からない」らしい。


じゃあ俺が考えてやらないといけない。

すぐに方針は出来ないから、とりあえず子供達の仕事の開始時間だけを聞いて別れた。


部屋へ戻ると、ダンダリアはまだ寝ていた。

子供達があんなに働いているのに、と思って蹴り起こそうかと思ったが、なんとなく優しく起こしたらどうなるのだろうと試してみると、普通に機嫌良く起きてくれた。


「…部屋が綺麗になってる…。

ご飯も用意されてる。


あ!髪油も!

あんた酷い男だね、あんた無しじゃ生きていけなくする気かい?」


「普段は自分でやってくれ。

まずは…食うか。


あ、煙は気になるタイプか?

食事時に点ける物じゃないが、煙が回るのに時間がかかるからな、虫除けと香り付のお香を焚いておきたい。


いいか?」


「全然気にしないよ。


…マメな男だね、成人したら貰ってやる。」


だから…。

成人している、そう言おうと思って辞めた。


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