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ダンダリア

『あ。』


翌朝、ランパード邸の庭を借りて日課の鍛錬を行なっていると、それまで饒舌に指導をしていたアンリが固まった。


「どうした。」


本来ならランパードが見ているかもしれないここで返答するべきでは無いのかもしれないが、おそらく彼は俺には何かが憑いていて、それとコミュニケーション可能な事は分かっているだろう。


神憑きと話した時点で隠す気もないし、問われれば素直に答えるつもりだ。


『いや、来客かな。

足音が小さいし、ブレない。


この人も強いよ。』


振り返り入口の方を見ると、門から屋敷の方へと歩く女性が見える。

振り返った俺に気づいた彼女もこちらを見ていたので目が合った。


「やぁ、おはよう。ランプスの友達かな?」


女性と分かったが、彼女は背が180センチほどと高く、さらに軍服を着こなしているので、人によっては男に見間違えてしまうかもしれない。

そんな見た目と相違ない快活な挨拶と、通る声がよく似合う。


「いや、ランパード殿に聖騎士試験の手引きを頼む為に昨日の参った。

フランセスク・ストランドという者だ。

よろしく頼む。」


そう挨拶をすると、俺に少し驚いた顔をした後に笑いかけて来た顔を見て、この女性が誰だか分かった。

分かったというのは語弊があるか。


見覚えがあった。


「ランパードの妻か。」


昨夜見た絵の女性にとても似ていたのですぐに分かった。


「だれが爺さんの嫁だ!私はまだ18歳だよ!」


分からなかった。

そうか、絵の女性に似ていたのだが、更にその娘さんらしい。


「いや、すまない。

昨夜見た絵の人物と印象が似ていてな。」


プリプリと怒る女性には素直に謝るに限る。

粘ったとて良いことなどない。


「しかし、自分の祖父をランプスと呼ぶなど珍しいな。」


これは粘っている訳ではない。

ただの質問だ。


「爺さんはさ、あの見た目だろ?

私や母さんより若返りやがってよ、お爺ちゃんって呼ぶのは違和感満点なんだよ。


とにかく、私は孫のダンダリアだ。

後で母さんにも会ってやってくれよ。

きっと喜ぶから。」


何故母上に、と疑問に思っているのが顔に出たのか、ダンダリアは話を続ける。


「あんた、ストランドってことはガタンおじ様の息子だろ?

確かに少し似たところがあるね。


うちの母さんはおじ様と仲が良かったからね、あんたを見れば喜ぶだろうってだけだよ。


子供がいるのは知ってたけどねぇ、私と同い年くらいかと思っていたから驚いたよ、まだ小さかったんだね。

そのくらいから聖騎士になろうだなんて偉いじゃないか。


幾つだい?


10歳くらいか?

飴ちゃんでも食べるかい?」


…きい!

10歳だと!

俺は150センチはある!はずだ!


少なくとも確かに15歳としては、ほんの少し、そこはかとなく小さ…大きくは無いが、10歳だと!


「…俺は15歳で、今年成人だ…!飴など、飴など、飴など要らん!」


この女…デリカシーというものが無いのか?

人が気にしている身長問題を一番にイジって来やがった!

誰が子供だ…!

精悍な顔つきを見よ!

見よ!


「あら、すまないね。

私が10歳の頃と同じくらいの大きさなもんで勘違いしたよ。


でもね、大人びたいからと言って成人を名乗るのは良くないよ。

そんなぽよぽよのほっぺたで何を言っているんだい。


成人っていうのはね、お酒が飲んで夜遅くまで遊んでばっかりに見えるかもしれないけど、色々やる事やらなきゃいけないんだよ。


子供は子供らしく、明るく楽しく過ごしな。

あんたにゃあまだ早いよ。」


むきぃ!

まだイジるか?

こっちがどれほど怒りの炎を燃やしているのか察することも出来ないのか?


『落ち着いてフラン!相手は淑女、何か言われて傷ついたとしても、貴族らしく優雅にかわさなきゃ。』


落ち着いているとも。

落ち着いて…!


「うるさいぞデカ女!」


『あぁ!落ち着いてない!』


「デカ女!」


お前なんてデカ女だ。

ダンダリアだって?花から取った華やかな名前しやがって。


「貴様、紳士に言いたい放題言いやがって…!」


「ほう、私が何か失言をしたかい?

なんだいアンタ、背が低いのを気にしているのか。


あはは、まんまるおめめのその顔同様女々しいねぇ。

足りない所は別の長所で感じさせないくらいの男らしい気概は無いのかい?」


「きい!

貴様こそ無駄にデカいじゃないか!


そのせいでランパードの妻と間違えたんだ。

俺は歳より下に見られるが、貴様は逆だろう?

いつから成人だと勘違いされていた?


貴様を見てびっくりして、成人の花贈りを親戚が慌てて用意した姿が見えるぞ?


あらー、ダンダリアちゃんったら、まだそんなに小さかったのねぇ、とな。


身体は大きいのにねぇ、とな!あはは!」


俺など花贈りは届いてないがな!

あの子、そういえばそろそろ成人だな、なんて思われて無いんだろうな!


くそぅ!


「あんたねぇ!言って良いことと悪いことがあるよ!

抜きな!その腰の木刀を!


成人してるって言うなら、私との模擬決闘を受けて立つんだね。


良いのかい?子供の細腕で私の攻撃を受けたら、身体がバランバランになっちまうよ?」


ほう。

面白い。


デカいからと力で優って来たのか、自信満々じゃあないか。

そんな女が言動同様に繊細な技術を持っているとは思えんなぁ。


「ははは、受けて立とう。

俺の領地は山や平原が近くてな、貴様の様な相手は多かったのだ。

イノシシの魔物の様なゴツい相手は慣れている。」


「…デカ女は、まぁ、許すけどね。

ゴツいは、許さないよ。」


空気がピンと張り詰めた。


『めちゃくちゃアホな決闘をしようとしてる…。』



昨夜はガタンの息子と食卓を共にして、中々楽しかったのう。

少しツンケンした所はあるが、手のひらのタコや振る舞いからして、普段の鍛錬は欠かさない真面目な男の子の様じゃ。


今朝もジジイの俺よりも早起きして剣を振りに出て行った。

感心するのう。


顔もガタンに似ずに可愛らしいから、可愛い物と真面目な男が好きなウチの孫娘とウマが合うかもしれんの。


娘はガタンが初恋の様じゃったし、その子供同士が仲良くなるのは中々…ロマンス小説の様でいいじゃないか。


…おや?そういえば昨日のうちに孫娘のダンダリアとフランを会わせておこうと、朝においでと呼び出したのに遅いのう。


ブランチを共にして、親睦を深めようと思っとったのに。


フランもそろそろ汗を流させなくてはな。


ダンダリアは鍛錬で流した汗を気にする性格ではないが、初対面は清潔な方がウケも良かろうて。


…え?


殴り合っとる!

俺のロマンス小説の!主人公とヒロインが殴り合っとる!


「待て待て!待つのじゃ二人とも!

お互い怪しい者では無いぞ!


ダンダリア、其奴はフランじゃ!

ほら、ガタンという男がいたじゃろう?俺の部下で、金の髪の、ほら、赤子の頃に遊んでもらっていた…。」


剣が立つからといって、女の子がいきなり殴りかかるか。

まぁ、俺の身が心配になっての行動なら、咎める気にはならんが…。


「うるさいぞ、ジジイ、それは知っている、すっこんでろ。」


すっこんでろ?

男にも言われない男らしいセリフじゃ!

ダメか…こうなった孫娘はとめられそうにない。


「フラン、その娘はな、俺の孫娘のダンダリアじゃ、ほら、昨夜絵を見せたじゃろ?

その子が大きくなった姿なのじゃ。


怪しいものではないぞ!」


そもそも人の家で女性に殴りかかるか普通。

しかしフランは貴族として育てられたからか、歳の割に冷静で思慮があった。


客人として怪しい者から俺を守ろうとしているのだろうから、咎める気にはならんが…。


「うるさいぞクソジジイ!

お前が子を構わなかったのは昨日知ったからな、代わりに俺が性根を叩き直してやる。

そこで見てろ。」


ダンダリアったら何したの。

何かあったら朝から木剣で殴り合う事になるのじゃ。


…なんじゃ?

フランが妙な構えを見せたな。


「変身ッ!!!」


…?

ん?


…何も起こらん。



ダンダリアと剣を合わせて分かった。

彼女は俺より強い。

技術に大きな差は無いとは思うが、想像した以上にリーチ差と単純な力の差がキツい。


「デカ女にチビが力で押されちゃあ世話ないねぇ!」


礼儀を分からせてやろうと意気込んだのにこれだ。

いや、戦い始めて少し冷静になると、俺も2割くらいは悪いのは分かっている。

そもそも彼女を大分歳上だと勘違いして母親と間違ったのは失礼だった。

もしそれに怒って、ああいう物言いになったのであれば、責任割合は更に俺側へと傾くだろう。


しかし、こうやって剣を合わせ始めたのであれば話は別だ。

負けるにしてもこんな、身体的特性の差で負けるのはダメだ。


…こうなったら…。


タイミングよくダンダリアと距離を空けた俺は、騎士の構えを取る。

息を吸うと更に周りがよく見えて、ランパードがいつの間にか見学しているのに気がついた。


ん?さっき話しかけられたっけか。

まぁいい。

どうせランパードには、神憑ことアンリを身に宿したエクサムモードを見せなくてはならないと思っていたからな。


来い!アンリ!


「変身ッ!!!」


…………………?

あれ?


『こんな喧嘩に僕を巻き込まないでよ。

言う事に一理もないじゃない、どっちも。

勝手な偏見で喧嘩を始めてさぁ、それは流石に弟ラブなお兄ちゃんでも、自分で責任を取りなさいとしか言いようがないよ。』


…確かに!

だが、何かやるぞ!と見せているのに何も起こらないのは恥ずかしいから、せめて何かはして欲しかった所である。

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