表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/33

ランパード

春も過ぎ夏が近づき、俺は北へと旅に出た。

仮とはいえ婚約を無かったことにするために聖職者となる。


聖職者と言っても神に仕える僕になる訳では無く、世に対して中立の兵士の様な職業である。


聖騎士。


教会が運営している様に聞こえる名前だが、実際は所属が教会というだけで関係は薄いらしい。


各国が資金を出し合い、揉め事の仲裁や調査を依頼出来る特務機関といった趣が強く、聖騎士という職は有名ではあるが実態は掴み難い。


『なんで国が言う事聞く訳?』


そんなアンリの素朴な疑問に答えるのは簡単だ。


「馬鹿みたいに強い集団だからだ。」


設立は800年ほど前、当時戦国真っ只中の大陸は工夫を凝らして死者を減らす様に争っていたが、それでも庶民の日常がままならない程に疲弊していた。


同盟も締結の帰りに裏切られ、明日の敵が明後日には敵の敵になる。

そんな荒れた時代の中で、どの国にも加担せず浮いていたゼイリという国があった。

加担せずとは言うものの、特産品は傭兵だと呼ばれるぐらいに戦力を出荷していた。

始めは有能な傭兵として雇われていた彼らは、荒々しい戦国時代の果てには、各国で地位を上げていた。


兵士たちが無能な自国の指揮官よりも、有能な傭兵の指揮下に入る事を願ったからだ。

それもまぁ、当然か。命が掛かっているのだから。

自分の物も、家族の物も、国自体の命運も。


そんな有能な彼らが、ある日急に牙を剥いた。


ゼイリ正規兵と名乗り各国を内側から食い破ると、抵抗する軍を次々と薙ぎ倒す。

抵抗は出来なかった。

頼りにしていた剣が、勝手に襲って来るなどと考えている国は少なかったのだ。


立案から戦闘、訓練までもゼイリ兵に頼りきっていた国すらあったと言われている。


このままゼイリが各国を滅ぼし、統一するのかと思われたが、すぐには建て直せない程度のダメージを各国に与えた辺りでピタリと侵攻を辞めた。


困惑する各国へ、ゼイリは突如声明を出す。


「親愛なる隣人、我々は、人を守る。」


暴れ回った傭兵達は、再度各国へ赴いて自分たちの立場を表明した。

戦国の世に飽き飽きしている。

我々は中立を貫くが、戦わない訳ではない。


もしも人の道を外れる理由で攻める国があれば、我々が味方となろう。

もしも貴国が人よりも利を優先するならば、我々が立ちはだかる。


努努忘れえぬように。



俺が頼る事になっているランパードは、元聖騎士団長とはいえ特に貴族という訳ではない。

と言うよりも、ザイリは貴族制を敷いていない国なので貴族という括りがないのだ。


だからと言って敬意を示さない訳ではないのだが、前もって約束していた日に留守なのはどうなのか。


門を叩くと使用人と名乗る、俺より年下の少年が出て来た。

彼が言うには、ランパードは留守なので先にひとりで屋敷へ入り、右手に歩くと客間があるのでそこで待っていて欲しいと言う。


お茶を淹れて来ると言い、彼はその場を離れた。

歩き方や佇まいを見るに彼も相当使えるようだ。


「ふむ。あやつも相当やるな。」


『これは試されているね。』


剣の柄を叩く。

そして、「指をくるくると回す」。


これはこの半年間の間に新たに作った、索敵を頼む合図だ。

俺とアンリが離れ離れになると、エクサムに変身出来ないうリスクはあるが、透明で目に見えないアンリ、しかも達人の調査は得るものが多い。


時間を稼ぐ為に、あえてゆっくりと屋敷の廊下を歩く。

胸を張り、貴族然としていればそう違和感は与えないだろう。

他国に来てまで癖の抜けない馬鹿だと思われる可能性はあるがな。


『隠れて見ている人は居ないかな。

と言うよりも、この屋敷には一人しかいない。

そしてこの先の部屋は客間じゃなくって…なんていうかな。


客間に偽装した道場みたいなものかな?

見た目は広めの良くある客間なんだけど、隠したり治したりされている剣の傷が余りにも多いからね。

そういう室内戦の訓練を想定して作ったのかもしれないね。』


客間へ辿り着き、入り口を背にする様にソファへと座る。

奥が家主と相場が決まっているのもあるし、敢えて入り口に背を向ける事で、俺にも利があるからだ。


俺には後ろを託せるアンリが居るので死角にはならないし、油断して尻尾を出してくれれば御の字だ。

つまり俺はこう考えている。


さっきの少年がランパード氏で、技術か魔法の力で変装しているのだろう、と。


それに俺が持った印象では、彼は相当使える。

剣をだ。


特有の佇まいを感じたのだ。


俺自身は強く無いが、この半年間アンリの中で達人の動きを体験し続けた俺が、相当やるとまで感じたのだから、普通に強い方とかでは無いだろう。


とんでもなく強い。


廊下からガチャガチャとティーセットが触れある音が聞こえて来た。

ドアがノックされ、先ほどの彼が入ってきた。


「失礼致します。」


「ああ。」


俺は振り向きもせずに尊大に応答した。

まだ向こうは俺が勘づいていると気がついて無いだろう。

このまま馬鹿を演じる事にした。


ティーセットの乗ったワゴンの音が左側から聞こえる。


『ワゴンは無人、押しただけ。

右から来るよ。』


アンリもいう右は、右だ。


俺は身体を小さく畳みながら、剣で壁を作る。

そこへ音もなく放たれた模造刀が勢いよく当たった。


「なんじゃい。バレとったのか。」


青年はイタズラがバレた様な顔をしながら、舌を出しておどけていた。


「違和感があり過ぎだ、このクソジジイが。」


見た目の年齢か、その態度のせいか、つい本音が飛び出てしまった。


「そうか?10人来たら10人は一度ぶん殴られておるぞ。

100人来たら1人か2人はおるか、お前みたいな可愛げのないクソガキが。」


あのまま攻撃を受けたとしても、大した怪我は無かっただろう事は分かる。

肩の筋肉の分厚い所を正確に狙って来ていたし、受けた力感は軽かった。


だからといって人を後ろからぶん殴る相手はクソジジイで十分だろう。


「奇襲を防いだだけなのにクソガキ呼ばわりされる筋合いはないぞクソジジイ。」


「ほっほ。牙を剥くなクソガキ。

あれじゃ、ほら、俺らは嫌われるからの、職務上。


分かるじゃろ?俺らの調査も死ねば闇に葬られる。

後ろ暗い奴らの一番簡単な対処法は、聖騎士を殺す事じゃ。


俺らは強すぎるから闇討ちされるんじゃ。

それ以外では勝てないからな。」


ぽんぽんと模造刀を肩叩きがわりにしながら、対面のソファへと座る。

少年の姿のまま老人の言葉でつらつらと喋るランパードには違和感が凄い。


「クソジジイ、元の姿に戻れ。

気色が悪いぞ、若作りは。」


「お?勘で防いだのか。あんまり綺麗に防がれたから、てっきり下調べして来た小賢しいタイプかと思ったが、面白いじゃないか。


そこそこ知られているが、俺はこれが俺じゃ。

歳は68歳。

呪いでこんな姿にされてしもうた。」


へぇー、そんな事もあるのか。

不思議な話だ。

アンリの件があるから、身体の見た目は魂に引っ張られるものだと考えていたが、中身がジジイで見た目は少年なんてあり得るのだな。


「老けないのか?」


「老けるぞ。お?勘違いしとんのか?

俺は8年前に5歳に戻される呪いを受けたのじゃ。

ちなみに語尾にジジイ感を出しておるのは、当時からでは無かったぞ。


見た目と言動が合わな過ぎて気持ち悪いと言われ過ぎたのでな、逆にかけ離れてやろうと思ってこうしたのじゃ。


見た事ないじゃろ?

こんな風に喋るジジイを。

物語じゃあるまいし。」


確かに。

普通に生きてて、もうジジイかと考えて喋りがジジイにはならんか。


『…じゃあさぁ、5歳に戻ったって事はさぁ、58歳のおっさんが、新たに母を得て甘えて過ごしたって事?』


気色の悪いことを考えるな。

他にいくらでも方法はあるだろう。

…あるよな?


あって欲しい。


「なんじゃ?別に不憫に思わんでもいいぞ。

これはこれで楽しいもんじゃ。


このまま再度大きくなって行くのか、それとも元の寿命辺りでポックリ逝くのかは知らんがな。」


病んでいる様子が見えな過ぎるので、そんな心配はしていない。


「別のことを考えていたんだ。」


「なんじゃ?」


逆に楽しみ過ぎて居るんじゃないかと思っていたのだ。

この軽いノリで話すジジイに、疑念が浮かんだのだ。


「……お前、その姿を利用して女風呂へ入ったりはしてないだろうな。」


「馬鹿いえ!元は58歳、今は66歳だぞ?

性欲なんてもんも落ち着いてたっつーの!」


「そうか。」


…よし、信じよう。

信じるが、ジジイ言葉を忘れているぞ。

インフルエンザ→コロナと連鎖してダウンしておりました


何の香りもしない…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ