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決闘

身内に不幸がありまして、色々バタつくので更新不定期になります。


パッと書いてパッと出しているので、あまりストックが無いのです。



「アンリ…俺はもう我慢ならん、早く…早く見せてくれ。」


『ふふふ、君も中々好きだねぇ、フラン。

いいよ、今日は二人きりみたいだから…。』


変身。


ここ数日、俺の後を巧妙に付けてくるセスのせいで変身できなかった。

毎日ここへやって来て剣の稽古はしていたのだが、アンリが言うにはこちらをじっと見ているセスが何処かに居るらしく、変身するのは避けていたのだ。


見取り稽古はかなりためになる。

早く変身してアンリの剣を見たかったので、大きなストレスだった。


どうやら今夜はセスが見当たらないとの事なので、待ちに待った変身が出来たと言う訳である。


しかしー……。


ざぱり。


変身した途端、辺りに嫌な音が聞こえた。


ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ。


まとわりつく様な水音が、こちらへと近づいてくる。


「……あぁ…。」


怨霊の様な声もする。

怨霊は、右手に剣を持ち、一矢纏わぬ姿だ。

何やってんだよ、騎士様が。


『…セス……だな。

泉から出て来たのか?

俺の見間違いか?


ここ最近の疲れで見える幻覚か何かか?』


アンリは何も答えず、じっとセスを見ている。

まぁ、それはそうだろう。


急に水の中から全裸のおっさんが剣を持って出て来たら、目を離せない。


超怖い。


「貴様、貴様、私のぼっちゃまに何をした!

姿が消え、貴様が現れたのだ!


悪霊が、私のぼっちゃまを乗っ取りおったのか!


……斬る。

斬り殺してやる。」


ひゃあ。


超怖い。


アンリを見ると、小難しい面白くも無い本を読んだあとの様な顔をしている。

仮面をしていても分かる、苦い顔だ。

なんと言っていいか、どう思えば良いのか分からないのだろう。

そりゃそうだろうけども。


『おい、どうするのだ。』


殺す殺すとぶつぶつ言いながら、べちゃべちゃの全裸がペタペタと近づいてくる。

…こいつ…いつから泉の中に居たのだ…。

唇も真紫ではないか。


流石に俺もアンリも泉の中に隠れるなんて想像していなかったな。


あはは。


笑い事ではない。


セスが剣を構える。

いつもの王国剣術の構えだ。


セスは兄のスティと比べられる事がよくある。

スティは王の剣と呼ばれる近衛のトップなので有名人なので、当然と言えば当然なのだが、そんなセスはこう称される事が多い。


力のスティ、技のセス、と。


戦えばスティの方が強いだろう。

だが、基礎的な技術はセスの方が華麗なのだ。


そんなセスの本気の構え。

確かに隙は見当たらない、芯のある姿だ。


全裸だけど。


俺やリアンに見せる姿とは大きく違う。

いや、服装がどうとかではなく、普通に剣士として。


逆にアンリはゆるっと立っているだけで、とてもこれから戦う様には見えない。


ぺたん!という間抜けな足音から想像できる訳がないスピードでセスが迫る。

小手調べとは思えない殺意マシマシの剣は、空気すらも切れそうなキレを持ってアンリの首を狙って振られた。


アンリは剣を潜りながら避け、二人の位置は入れ替わる。


「クソう…ぶらぶらぶらぶらと…!

どうしても目に入って集中出来ない…。

切り落としちゃって良いかな。」


『ダメに決まっているだろ。』


セスが動く度に揺れるものが、アンリの集中を奪う。

尚もセスの攻撃は続き、アンリが軽やかに躱す。


袈裟斬り、ぺちん。

逆袈裟、ぺちん


今の手首の返しなんか参考になりそうだが、俺も集中が出来ない。


横薙ぎのフェイントからの突き、ぺちんぺちん。

斬り下ろし、切り上げ、手首を狙った細かい横薙ぎ、ぺちんぺちんぺちち。


アンリの避ける技術も、セスの剣戟も参考になる。

本当の剣術ファンなら垂涎の動きが散りばめられているだろう。

だが、時折挟まる、あー、えー、セス太鼓が邪魔をする。


なにを見ているのか。

なにを見せられているのか。

そんな気分になってくる。


『やっぱり切っちゃって良いかもしれんな。』


もうリアンとその兄も居るし、後継は必要ないだろう。


「そうしよっかな。」


やめろ馬鹿冗談だ!貴様も男だろう!


その願いも虚しく、避けられ続けた怒りからか鈍った剣先を弾かれて出来た大きな隙に、セスの、えーと、んー…口に出したくないな。


とにかく、セスのセスへアンリの剣が迫る。


ぺちーん!!!


男の情けか、アンリは剣の刃筋を立てずに腹で強く叩いた。

それでもその衝撃は想像に難くない。

セスは驚愕の表情のままゆっくりと崩れ落ち、四つん這いのまま動かなくなった。


決着!である。


…しかし恐ろしい。

全裸で剣を振り回す中年もそうだが、その中年は国でも間違いなく上位の剣士である、セス・ガーランドなのだ。


それをこの様に簡単に咎められる腕前など信じられない。


『とんでもなく強いのだな、アンリ…。』


そんなアンリはエクスが付いた剣を袖でゴシゴシ拭いていた。

分かるぞアンリ。

エクスからは何かしらの意思を感じるからな。

ちょっと使い方がよろしくなかったと、俺も思うもの。


俺なら眠りから覚めたばかりの時に中年の股間に押しつけられたら、この世を呪うもの。


「貴様、我を誰と心得る。」


俺がエクスの心配をしていると、アンリがなんか言い始めた。

さっきまで剣をゴシゴシしていたと思えない威厳の出し方だ。


セスはゼェゼェとした息をしながらも、何とか顔だけアンリを見た。

その目は血走っている。

当然か。

この仕打ちをして来た相手が急に偉そうなんだから腹が立つわな。


『今更偉そうにするのはカッコ悪いぞ、アンリ。』


忠告する俺を無視して、アンリは続ける。


「我は剣神の化身である。

ひたむきに鍛錬をするフランセスクの身を借り顕現し、夜な夜な指導をしておる。」


剣神と聞き、セスは祈りの体勢へと変えようとしたが、無理だったらしく諦めた。


「……け、剣神、さま、で、ございますか。」


「左様。」


セスの目から怒りが消えた。

ガーランド家は剣神の信仰があるし、たった今子供扱いされたばかりなので説得力もあったのだろう。


変身の瞬間も見られているしな。


「…ならば、フランセスク様は、貴方様に選ばれたという事で御座いましょうか…!」


「そうだ。」


おい、迂闊な事言うなよ!

貴様俺が剣神の愛し子だと思われたら面倒が来るぞ!


「ぼっちゃまは恵まれない体躯の中、努力を欠かしませんでした。

もしや剣の才能はないのかと、セスは、疑ったこともあります。

それでも真摯な鍛錬は身を結ぶと考え直しましたが…!

恥ずかしい!自分が恥ずかしい!


剣神様に見初められる程の才をもつぼっちゃまを一度でも疑った自分が恥ずかしい!」


『セス…。』


セスは悪くない。

自分でも、才能がないと思っているのだから。


だから止めろアンリ。

これからの俺の生活が壊れる…!


「我は認めた。フランセスクの努力をな。」


そう言った辺りでアンリの身体がキラキラと光だす。

変身の時間切れの兆候だ。


「ぼばっば!」


…また泣いてる…。


「ぼっばばば、ばびびばびばべべびぶ!」


変身が解け、俺は身体へと帰って来た。

だが、どうしろと言うのだ。


泣きじゃくる全裸のおじさんと二人にされて、俺は何をしたら良いのだ。



本日のセス語講座


「ぼばっば。」


よかった。



「ぼっばばば、ばびびばびばべべびぶ!」


ぼっちゃまは神に愛されている!


近年の受験で頻出しているので、帰ってからもう一度見返すように。

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