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カッコいいポーズ


次の朝、痛みで目を覚ました。


身体は痛くない、心の痛みである。


本来なら清々しさを感じるはずの新年の朝に、俺は枕に顔を埋めて大声で叫ぶ。


外に漏れないように。

抑えきれない恥ずかしさを放出するように。

アンリも力なく嘆いていた。

理由は俺と同じだ。


深夜に深夜のテンションで考えたカッコ付け過ぎたポーズとセリフは、朝の冷静な頭にはストレスが大き過ぎた。


それだけの事だ。


「変更は…効かないのか?」


『習熟していくことで、省略は出来ると思うけど…。

完全に無くしたりは…こういうのって出来ると思う?……割り切ろう。』


「……うむ、そうだな……割り切ろう。」


あぁ…。

あぁ!


あぁあ!


昨夜、何故俺はあんな提案をしてしまったのか。

何故俺はあんな提案を受け入れたのか。



「まずはカッコいいポーズからだな。

それに合わせたカッコいいセリフを考えるのが効率的だと考える。

どうだ、アンリ君。」


今思うと、もうこの時からテンションはおかしい。

なんだ、アンリ君って。


『異論なしだよ、フラン君。』


お前も乗るな。


「まず前提として首から下げた石を握る必要がある。

…だが、握る前に天へ手を突き出すのはどうだろうか。」


俺は両足を広げて、バッと手を高く開く。

真面目な顔でだ。


『……恐ろしい。

僕は君が恐ろしいよ、フラン君。

なんだいその才能は。

自分が恥ずかしいよ、僕は石の握り方をカッコよくする事しか頭に無かった…。


確かに力を借りる時に天へと手を伸ばすと、人智を越えた力をその手に集める様に見える。』


恐ろしいのはお前らの思考と嗜好だ。

今ならそう思える。


「ふはは、そうだろう!

そうして、こう、ゆっくり下ろした手を首から下げた石に…。」


『いや、待ってくれ。

果たして首から下げるのが一番カッコいいのだろうか。


丁度よく鎖も切れている事だし…そうだ!

剣の飾り紐に石を付けたらどうだろう。


そうしたら…。』


「……そうか!そうしたならば剣を握ると共にポーズを決める事が出来るのか…!


ふふふ、恐ろしいのは貴様だ、アンリ君。

俺にはエクスの位置を変えるなど考え付かなかった。」


だから恐ろしいのは貴様らの深夜のテンションで考えたセンスだ。

どうすんだよ、剣を弾き飛ばされたり、剣を奪われたりしたら。


『はっ…フラン、僕に今雷が落ちた…!』


「ほう…?聞かせてもらおうか。」


そういうのは、ろくな案じゃないから一度持ち帰るべきだ、馬鹿どもが。


『テーマは貴族さ、フラン。

剣にも作法がある。

騎士の決闘の前に、胸の前で剣を構えて相手に敬意を表するだろう?』


「貴様…。」


天に上げた手を剣に下ろし、勢いよく剣を引き抜くと胸の前で剣を立てた。


「こう、だな?」


『フー!!』


なんだこいつら。

とっとと帰って寝ろ。


「…あとはキーワードか。


ふむ、難しいな。

迂遠な言い方もカッコいいが、無駄な隙を晒す事にもなる。

言いやすく、スパッとカッコいい台詞が望ましいだろうな。」


『これは僕に案がある。』


聞くな聞くな、昨日の俺よ。

本筋はこんな会話だったが、色々試したのをぼんやりした記憶が残っている。

帰ったら朝方だったもの。

何時間やってんだ、こんな恥ずかしい事を。



夜、月の明るい夜、新年の夜。


俺は一人で屋敷を出る。


今までは出てすぐ剣を振り始めていたが、今日からは少し離れた裏の森の中にある泉の辺りで剣を振る様になるだろう。


何故って?

見ていれば分かる。


「はぁ、やるか。初めての…。」


『うん…。僕も責任を持って見守るよ。』


バッと手を挙げ、足を広げる。

その手を徐々に下ろし、腰から下げた剣へ。


勢いよく剣を引き抜き、胸の前で立てる。

ピタッと、騎士がやる様に、優雅に。


「変身!」


『変身!』


剣から下げた飾り紐の先についた、エクスと名付けた石が紋章を浮かび上がらせながら、ぼんやりと光った。


その光から流れ出る粒子が俺を包み、白く灰色な髪を金色に、俺の150センチ程の身長を180センチぐらいに変える。

何故か鳥のクチバシのような仮面のような、帽子のような物も現れて鼻から上の顔を隠す。


俺が元々着ていたわずかな飾りのついたシャツも、ブリンブリンなフリルが胸元に付き、短いマントも下げている。


『…我が名は…。』


「幻想騎士、エク!サム!!」


俺と入れ替わったアンリがそう叫ぶと光は収まり、俺はアンリの中へ。


……。

…………。

………………。


誰か殺してくれ。


なんだこりゃ。


隙だらけだし、足が震えるほど恥ずかしい。

1回手を挙げて剣を抜くために下ろして、また胸の高さまで上げる意味も分からない。


二度手間だ。

せめて剣を抜いてから掲げて、胸まで降ろせ。

そうすれば一往復で済むのに。


っていうか…幻想騎士って…?

騎士とは職業というか、役職だろう?

なにを種族とか生き様みたいに言っているのだ。

自称にも程がある。


『エクサムを名乗るのは分かるが幻想騎士とはなんだ?』


「うっ、あっ、えっ、あっ…なんか…カッコいい二つ名…的な?

ほら、構えのモチーフも騎士だし、僕は身体が無いからそんな感じかなって。」


ほう、なるほどな。

深い意味は無いのか。


『変身って…なんだ?』


「…変身は…変身だよ。

正義の為に戦う姿に変わる掛け声というか…!」


思いつきか。

任せた俺も悪いな。


「なんだよ!昨日はフランもノリノリで考えたじゃないか!」


そうだな。

それはそうなんだ。


『ほう、ならばその悲しい顔はなんだ。

お前は昨日の俺達の話し合いに納得がいっているというのか?』


「…もちろん………。」


『勿論、何だ?

勿論の続きを言ってみろ。』


「…くっ。

もちろん、超…恥ずかしい、です。」


よく言った。

これで俺たちはブラザーだ。


森の木々の隙間から流れる風は、泉の表面を波立てる。

その風はアンリエントの髪をなびかせ、マントをはためかせる。


…マント?


なんじゃこの服装は。


「この服も魔法物質みたいだ。

普通の服よりもかなり丈夫で、鎧と変わらない。

仮面も何故だか視界を邪魔はしないし頭を守れる。


それは助かるけども…。」


アンリが言葉を濁す。


俺とアンリの身長の違いから、普通ならばはち切れてしまうであろう衣服を、エクスが気を遣って作ってくれているのだろうか。


いや、変身した途端に全裸にされるよりかは全然助かるのだが、このマントやフリルや、仮面などの華美な装飾は必要なのか?


派手で目立つ。

目立つのに、仮面。

目立ちたいのか目立ちたく無いのかさっぱりわからない。


『…もしかすると、エクスが俺達の潜在意識から引っ張り出した服装なのかもな。』


昨日の深夜のテンション感がフリルやマントに現れ、心の奥底にある、恥ずかしさを汲み取って仮面を生成した。


そんな感じだろうか。


「…正直…仮面は助かるかもね。

やろうと思えば外せるみたいだし、防具として優秀だし。


…それに僕らの顔は、とても似ているから。

人助けをしたくても顔を見られたくなくて助けられないなんて、そんな場面を作らずに済むのはとても良いと思う。


ナイス、エクス、と素直に言いたいところだけど…。


そうなんだけど…。」


恥ずかしい。


そういえば剣も身長相応に長くなり、飾り紐に付いていたエクスも、柄の中心に嵌め込まれた様に変化している。


宝石の付いた美しい刀身の剣だ。


実用品に装飾など無駄が過ぎる…が、この剣はなんか、素直に格好いい。


『エクスめ…自分だけ丁度いい感じに格好良くなりやがって。』


「僕らのセンスに任せておけなかったんだろうね…。」


それは…そう。



ポーズや掛け声、服装を嘆いていると、光が再度俺たちを包み、元の姿へと戻った。


顔や身体をペタペタと触ってみるが、いつも通りの俺。

アンリにぐるりと確認してもらったが、異変は無さそうだ。


「変身!!」


その後もう一度恥ずかしい思いをしながら変身してみたが、何も起こりはしなかった。


ぽちゃんと泉で小魚かカエルが跳ねた音が、やけに大きく聞こえた。


アンリが決めたルールも守られるらしい。

1日1回3分。

本日は無駄打ち。


「なんか…疲れたな。」


『そうだね…今日は帰ろう。」


俺たちの始めての変身は成功した。

だがそこから何も得るものはなかった。


これから剣の鍛錬の手本を見せてもらう際にも必要なのだろうか…この変身は。

心までも鍛えられそうだ。


あぁ…!

ああぁああ!


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