揺蕩う
フランと会う前はしばらく何をしてたんだっけ。
僕は真っ白な空間に久しぶりに一人になった。
前もこんな感じで、こういう空間にフランを呼び込んで話をした。
『エクサム…?エクサム!?』
フランが呼んでるから行かなきゃ。
でもどうやって。
あの時だって本当はそんな事は出来ないはずだった。
なのに何故だか一緒にいられた。
多分僕のフランへの愛が熱い愛が、不可能を可能にしたんだろうけどさ。
もしくは…そうだな、フランが僕の空間で魔法を使って飲み込んだから…混線でもしたのかもしれない。
僕の空間は僕で満たされていて、それを魔法て無理矢理液体化して飲み込んだものだから、僕の一部もフランに取り込まれたのかも。
正解は分からないし、再現性もないだろう。
運命のイタズラってやつだね。
僕とフランの魔力はそっくりだからってのもあるか。
しばらくフランと話せた事は嬉しかった。
ちょっとテンションが上がって話しかけ過ぎたかもしれないとも思うけども、仕方がないね。
弟と再会出来たのだから。
あぁ、この石は僕を安定させていく。
散らばった僕をまとめてくれる。
少し思い出した事もある。
フランは信じてくれないが、僕はフランのお兄ちゃんだ。
言い張っている訳でもなく、本当に双子の兄になるはずだった。
母、セリーヌ・ストランドと父、ガタン・ストランドとの間に誕生した子供は、フランセスク・ストランドだけではない。
名前は…そう、フランが付けてくれたエクサムも気に入っているけどね、フランが名付けくれた時、深く奥底に無くしていた、自分の名前を思い出した。
そう自分の名前があるんだ。
僕はアンリエント・ストランド。
自分の名前を思い出した。
たったそれだけで僕は僕を取り戻していくのが分かる。
そうだ、僕らはセリーヌの胎内にフランと二人でいたんだ。
僕は早熟なのか母の胎内に居る頃から自我があり、暖かい水の中で、弟と遊ぶ未来を楽しみにしていたのさ。
お腹の外から、アンリエントか、フランセスクにしようと名前を決める相談も聞いていて、双子ならば両方とも採用されるだろうと思っていたから、その頃からフランの事はフランと呼んでいたんだ。
外の様子を想像して、両親の会話を盗み聞きして、フランに話しかける。
幸せな日々だったよ。
盗み聞きの内容は良いものばかりでは無かったけどね。
領内に盗賊が出たとか、今年は干ばつが酷い可能性があるだとか、金が無いとか。
あとはそうだね、母は身体が弱いのに妊娠してから元気、だとかね。
セリーヌは元々丈夫な方ではなく、双子を妊娠した事で体力的に結構弱っていたみたいなんだけど、ある時から急に改善したんだ。
前に子狼の魔力暴走を見た時に、僕がすんなりと仮説を出せたのは近くで実例を見た事があったからなんだよ。
あの狼と一緒さ、フランも。
今は自分でコントロール出来ている治癒魔法も、あの時は無理だった。
まだ赤子以下の胎児だったから無理もないけどね。
自分の力以上の力を出して、弱る母を癒し続ける。
そうして日々、存在がすり減っていく弟を隣で見るのは辛かった。
だけどある時気がついたんだ。
僕も魔法を使って母か弟を手助け出来たら良いんじゃないかってさ。
幸い僕には才能があったし、魔法の仕組みも双子の弟が体現してくれている。
それに…フランと僕の魔法の質は実に似ていた。
双子なだけあってさ。
僕の魔法は、他人に力を分けるのに適していたんだ。
好都合だったね。
僕はコントロールが出来るようになっていたし、その範疇で弟の手助け出来たなら、二人とも無事に産まれる事が出来るんだから。
その日から、僕は自分の魔法で母と弟を強化する事にした。
まぁ、弱々しい胎児の魔法だから、今となってはどの程度母の助けになれてたかは分からない。
だけどフランは目に見えて元気になっていったんだ。
一安心だと思ったね、あの時は。
だけど一手で好転したものなんて、一手で悪化するもんでさ、ある日母が風邪をひいたんだ。
それだけ。
たったそれだけで、落ち着き始めていたフランの魔法の出力は馬鹿みたいに増した。
ギャンギャンと放出する魔力を見て、マズいと思った僕は力一杯フランへと魔法をかけ続けたんだけど、お兄ちゃん失格さ。
僕よりフランの方が強かったんだ。
魔法がね。
自覚出来る僕のヤバいラインより、少しだけ上回るフランの魔力暴走に対して、何も出来ない。
また弱っていく弟を見るのは、本当に辛かった。
毎日毎日僕もへとへとになるぐらい魔法を使い続けていると、別の問題にも気がついた。
母は風邪を治したはずなのに、とても弱っていたんだ。
そりゃそうだって話で、胎内で必要以上に魔法を出し続けるフランと、それをカバーする為に魔法を使い続けている僕。
その栄養はどこから来ているのかって、母からに決まっているんだから。
母の体調、弟の体質、もしかしたら僕が早熟なのも悪かったのかもしれない。
もうこの時点では気がついていたんだよ。
それらが相まって、フランと僕のどちらか一人しか生き残れないだろうと。
この僕ら二人の世界の全てを使っても、片方しか。
なら、ね。
その選択を出来るのは僕だけだから。
僕は力の全てをフランへと渡して消え去った。
医学的にはもっと色々な働きがあってそうなったのだろうけど、僕の物語はそこで終わったはずだ。
◆
エクサムが消えた。
まさかこのエクスと呼ぶ事にした石は祓いの効果が…?
確かにこれが光ってからエクサムの気配が消えた。
「おい、エクスよ、アイツは悪しきものでは無いぞ?
我が友だ。
な?祓う必要は無いのだ。」
石からの返答はなく、首からぶら下がっているだけ。
光も見間違いだったのかと思うほど、いつもの様にただの綺麗な石。
「なぁ。」
震える手で石を握る。
首にかけた鎖が食い込む痛みも感じていなかった。
「おい。」
ぶつん。
鎖が千切れ、間に挟まっていた飾りの玉石が飛ぶ。
「おい!」
力を込めてエクスを握る。
そうなれば当然、込められる魔力が手に集まる。
意識無意識関係なく、感情のままに。
ジジ。
石からまた光が発せられた。
先ほどよりも穏やかで、何かの紋様が浮かび上がっている。
『フラン、僕の家を壊さないでくれよ。』
「…閉じこもっているからだ、エクサム。」
『それなんだけどね、フラン。
実は本当の名を思い出したんだ。
アンリエント、僕はアンリエント。』
アンリエント。
そうか。
謎のXではなく、アンリエント。
「そうか、アンリ。」
『うん、フラン。』
良かった。
数日前はいかに祓おうか考えていた相手に、こんな気持ちになるなど考えなかったが…とにかく良かった。
『あのね、フラン。
この石の中に入って分かったんだけど、この石は古い杖の先に付いていたみたいで、言ってしまえば兵器の破片みたいな物なんだけど…。
んー、魔法を最適化する機能があるみたい。』
「そうなのか。
兵器、と言われてもよく分からんな。
つまりどういう事だ?
何が起きた?」
『今の僕は意思のある魔法みたいな物だった。
それはなんとなく分かるよね、見えないけど存在する力を誰かが操作しているんだから、魔法と言っていいと思う。
それで、こいつに、エクスに最適化された。
しかも君と僕の希望に沿って。』
希望…?
あぁ、少し分かった。
「お前は俺の負担にならない様に力を貸したい。
俺は、アンリの力を借りたい。
それを叶えられる様になったという事か。」
光った時に願った事をまとめるとそういう事か。
『うん。
不安なく身体を借りたり、力を貸せたりする様になったんだと思う。
…いやぁ、こんな物あるんだったら変な条件の話なんてしなきゃ良かったねぇ。』
…変な条件…?
「あれか?
1日1回3分間…。」
『そ。』
「短いな。」
『充分さ、話すのは今まで通り出来るんだから。』
そうだな。
そう言おうとして辞めた。
頼っている気持ちを知られるのが急に恥ずかしくなったからだ。
こいつが、エクサムが、アンリが、あまりにも兄だ兄だと言うもんだから、刷り込まれていたのかそんな気持ちになっていたのかもしれない。
それは…まぁ、もう構わないが、頼っている気持ちは少し隠しておきたいと思った。
無駄かもしれないが。
「じゃあ、今までとあまり変わらず、いざという時は力を借りれる様になった。
そう言う事だな?」
『うん。改めてよろしく、フランセスク・ストランド。』
「あぁ、アンリエント…あー、家名はあるか?」
『そりゃあね、君の兄なんだから。』
「まだ言うか…。
…はぁ、まぁいい。
俺は次期当主様だからな、誰を家に入れるかも俺次第だ。
改めてよろしく頼む、アンリエント・ストランドよ。」
口に出して、何故だかしっくり来ると感じた。
アンリエント・ストランド。
「なぁ、所で力を借りたい時はどうしたらいいんだ?」
これまで外で独り言を普通に話す音量で喋り出すヤバい人だと思われない様にサインを決めていた。
それはそれで秘密があるみたいでカッコいいと思っていたので、今回もサインを決めるのだろうと考えた。
『兵器だからね、今までと少し違う使い方になるよ。
キーワードが必要で、自分の魔力を込めて石を握る。
その二つがトリガーみたい。』
ほう、キーワード。
それはそれで格好が良いではないか!
どうするか…石を握ってそれを言うと姿が変わると、そういう事ならなんか神秘的な、キーワードを設定したい。
「……カッコいいポーズとかもいるかな?」
『…やるじゃないかフラン!僕もそう思っていたんだよ。
ふふふ、実はキーワードと言っても、ポーズも設定する事が出来てね?ほら、元が武器だから、言葉だけだと誤射の危険があるからだろうけど、つまり必要なんだよ、手振りも。』
なるほどな!
ならば考えなければ。
見るものが目を奪われる、素晴らしいポーズを!
◆
アンリが居なくならなかったことで情緒がおかしくなって忘れていたが、その時は深夜。
年越しの少し前に剣を振りに出て、ラルゴ達を癒し、子狼の件を片付け、狼を埋葬して、少し遠回りをして泉に来たのだから、当然真夜中だ。
いつの間にかのハッピーニューイヤー。
それはまぁ良い。
やるべき事をやって遅くなったのだから、仕方がない。
問題は、深夜に考えてしまった事だ。
カッコいいポーズを、キーワードを。




