第1話「雑用係、追放される」
「……レイ、お前、今日も遅いな。荷物の整理ぐらい、とっととやれよ」
ギルドの地下訓練場。
薄暗い空間に、乾いた声が響く。
パーティー《暁の剣》の面々は、練習後の整理もせず、椅子にふんぞり返っていた。
その視線の先には、ひとり黙々と荷物を運ぶ少年、レイ・アルステッドの姿があった。
「すまない。あと少しで終わる」
レイは黙々と道具袋を整え、泥のついた剣を拭いていく。
どれも自分の装備ではない。仲間――いや、彼を見下す連中の装備だ。
(戦いに出ることもなく、ただの雑用係……それが、俺の“役割”だ)
本来、魔導士見習いとして参加したパーティーだった。
だが、初期ステータスに“魔力ゼロ”と記されたその日から、周囲の態度は一変した。
戦いには出るな。
魔法も使うな。
掃除でもしてろ――と。
それでも、レイは黙って耐えてきた。
自分には何もないと思い込まされ、努力を嘲られ、それでも仲間でありたいと願っていた。
「はぁ……ほんと、なんでこんな雑魚連れてきたんだか。おかげでパーティーランクも上がらねぇよな」
その日、依頼先からの帰還直後。
ギルドの会議室に呼び出されたレイは、リーダーである剣士カイルから「追放通告」を突きつけられた。
「――レイ・アルステッド。お前は今日限りでパーティーを抜けろ」
「……理由は?」
「理由? はっ、言わせるのかよ。スキルも魔力もないお荷物が、何を聞いてんだ?」
他のメンバーがくすくすと笑う。
あの日助けた仲間たちでさえ、今は彼を“無能”と断じていた。
「お前がいなくなれば、ようやくまともな戦いができる。せいぜい一人で生き延びろよ、雑用係さん」
レイは何も言わなかった。
いや、言えなかったのかもしれない。
ただ静かに、部屋を出てギルドを後にする。
そして――
◇ ◇ ◇
その夜。
レイは一人、王都の外れにある森の中を歩いていた。
月明かりの下。
ふと、彼の指に嵌められていた《銀の封印指輪》が、淡く光を放つ。
「……もう、いいよな。全部、終わったんだから」
そう呟くと同時に、レイは指輪に意識を集中させた。
《封印解除――確認完了。認証:レイ・アルステッド。魔導識別コード照合一致》
――カチン。
乾いた音と共に、指輪が砕ける。
次の瞬間――
彼の全身から、凄まじい魔力の奔流が解き放たれた。
風が唸り、木々がざわめき、空気が震える。
大気がレイの魔力に呼応し、周囲の温度さえ変わっていく。
【ステータス更新】
種族:人間
職業:最終魔導士
属性適性:火・水・風・土・雷・氷・光・闇・時・空
スキル:《大魔典》《無詠唱》《魔力無限》《創造魔法》《古代言語理解》
「……やっぱり。俺は、“魔力ゼロ”じゃなかった」
微笑むレイの背に、八つの魔法陣が浮かぶ。
それは、かつて伝説の中で語られた、“すべての魔を操る者”の証。
封印されていた力。
偽りのステータス。
歪められた評価。
その全てが、今、解き放たれた。
「もう二度と……誰にも、俺を見下させはしない」
彼の瞳が、静かに紅く燃える。
その足取りは、やがて世界を変える“最終魔導士”の伝説へと繋がっていく――。