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「新たな日、新たな居場所」

馬車は、背の高い木々に囲まれた小道をゆっくりと進んでいた。朝の陽光が葉の隙間から差し込み、木漏れ日が車体を静かに揺らしていた。中は静かで、その沈黙がむしろ心地よかった。


ソウタは窓の外を見つめていた。身体はまだ痛んでいたが、それ以上に頭の中がぐちゃぐちゃだった。昨夜の出来事が、未だに整理できていない。


エドガー・ヴァン・アウレンハルト:眠ってもいいぞ。屋敷まではもう少しかかる。


ソウタ:大丈夫です…ありがとうございます。


それ以上、エドガーは何も言わなかった。腕を組み、眼鏡を鼻に乗せたまま、車窓の外の森を眺めていた。その姿には、長い年月を生きてきた者の静かな風格があった。


やがて馬車が止まった。ソウタは身体を起こし、外を見て目を見開いた。


目の前には、三階建ての巨大な屋敷がそびえ立っていた。淡い石造りの壁が朝日に照らされて輝いており、正面には美しい噴水があり、水が優雅に舞っていた。道の両脇には幾何学的に整えられた生け垣が並び、さらに外縁部にはラベンダーや白、ピンクの花を咲かせた植え込みが彩っていた。


灰色の石階段が屋敷の大きな両開きの扉へと続き、扉には金色の装飾が施されていた。


ソウタ:これ…映画みたいだな。


エドガー・ヴァン・アウレンハルト:見た目よりも古いが、まだまだ頑丈だ。さあ、行こう。

エドガーが先に降り、ソウタもその後を追う。階段を上がると、中から扉が開き、白と黒の制服を着た四人のメイドが並んで一礼した。


エドガー・ヴァン・アウレンハルト:彼女たちは我が家の使用人たちの一部だ。


最初に、髪をきちんとまとめた最も背の高い女性を指差す。


エドガー:彼女はリリエン。屋敷の責任者で、誰よりも優しく、信頼できる存在だ。


次に、鋭い眼差しを持つ金髪の女性に視線を移す。


エドガー:こちらはヴェルカ。厳しく見えるが、仕事は完璧で信頼できる。


そして、短めの黒髪を持つ女性へ。


エドガー:こちらはマイラ。屋敷内の様々な雑務を担当している。観察力があり、君が何を求めているかすぐに気づくだろう。


最後に、小柄で控えめな少女を見て微笑む。


エドガー:そして、あちらが一番新しい使用人、ニヴェル。まだ少し不器用だが、一生懸命頑張っている。


四人は一斉に丁寧なお辞儀をした。ソウタは思わず背筋を伸ばした。


マイラ:こちらへどうぞ。お部屋をご案内します。


ソウタ:あ、ありがとうございます。


広い廊下を抜け、マイラに案内されながら、ソウタは緊張しながら歩く。壁には絵画やタペストリーが飾られ、床の大理石は丁寧に磨かれていた。


大きな木製の扉の前に到着すると、マイラが開ける。


マイラ:こちらが本日からお使いいただくお部屋です。お湯と着替えも用意しております。何かございましたら、ベッド横のベルを鳴らしてください。


ソウタ:はい…ありがとうございます。


マイラは最後に一礼して部屋を後にした。ソウタは部屋を見渡した。広く、豪華で、まるでホテルのスイートルームのようだった。

部屋の隅にある小さな本棚に気づき、本を手に取る。革の表紙の古びた本だったが、中を開くとまったく知らない文字が並んでいた。


ソウタ:なんだこれ…?


別の本も試してみたが同じだった。人々の言葉は理解できるのに、書かれているものはまるで読めない。


ソウタ:…なんで話せるのに、読めないんだよ…


深いため息をつき、本をテーブルに置く。ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。


ソウタ:…やっぱり、俺はこの世界の人間じゃないんだよな…


数時間が過ぎた。扉のノック音に起こされる。


ニヴェル:し、失礼します…昼食の時間です。ご主人様がお待ちです。


ソウタ:…あ、ありがとう。すぐ行くよ。


ニヴェルに導かれ、彼はダイニングルームへと向かう。


そこは広く、豪華な空間だった。ガラス扉付きの棚には宝石や陶磁器が並び、壁際には大きな暖炉。その上には熊の頭部の剥製が飾られていた。天井からは煌びやかなシャンデリアが吊り下げられ、部屋中を暖かな光で照らしていた。


長いテーブルの奥、中央にエドガーが座っており、その隣には緑色の長髪を持つ若い女性が座っていた。彼女は静かに、落ち着いた目でこちらを見ていた。


ニヴェル:お連れしました。


エドガー:ちょうどいい。ソウタ、席に着きなさい。


ソウタ:ありがとうございます…そして、色々とすみません。

ソウタ:あの…隣の方は?


エドガー:ああ、彼女は私の娘、クラリスだ。


クラリス:よろしくお願いします。


ソウタ:こちらこそ…よろしく…


料理が運ばれ、温かい香りが漂う。スープ、焼き肉、温野菜に柔らかいパン。


ソウタ:すごい…


エドガー:食べなさい。話はそれからだ。


しばらく静かに食事を楽しんだ後、エドガーが口を開いた。


エドガー:ソウタ…君は一体どこから来たんだ?


ソウタ:ぶっ…!


水をこぼしながらむせる。


ソウタ:ごほっ、ごほっ…す、すみません!


ニヴェル:だ、大丈夫ですか!?


ソウタ:えっと…まあ…遠い所、です…


エドガーはそれ以上は聞かなかった。


エドガー:そうか、遠くから来たのだな。


彼はワインを口に運び、もう一つの質問を投げかけた。


エドガー:では、昨日のあれ…君はどれほど前から結界を扱えるんだ?


ソウタ:…結界? それが、あの力の名前なんですか?


エドガー:そうだ。精神の力、生命の流れ。それを扱える者は限られている。


ソウタ:すみません…正直、よく分からないんです。目覚めた時の記憶も曖昧で、自分の名前以外は全部…霧の中です。たぶん…記憶喪失なんだと思います。


エドガー:…なるほど。


食事が終わると、リリエンが現れソウタを部屋へ案内した。

リリエン:お疲れでしょう。お休みになりますか?


ソウタ:はい。でも…一つだけ教えてもらってもいいですか?その「結界」って、どういうものなんですか?


リリエンは微笑んで扉を閉め、静かに語り始めた。


リリエン:結界とは…すべての命に流れる霊的な力です。それを感じ取れる者は限られ、それを扱える者はもっと少ない。訓練なくして使うのは危険ですが、あなたは…目覚めてしまったのです。


ソウタ:じゃあ…これからどうなるんですか?


リリエン:学ぶか、飲み込まれるか。そのどちらかです。


ソウタ:……。


リリエン:もしご興味があれば、私が少しずつお教えしますよ。


ソウタ:ありがとう…リリエンさん。


リリエンは温かく微笑み、部屋を後にした。


部屋に戻ったソウタは、ふっと肩の力を抜く。


ソウタ:情報量多すぎる…あと、マナーで胃もたれしそう…


ベッドを見た。


ソウタ:…これ、合法か?ってくらいフカフカなんだが。


そのままベッドにダイブ。


ソウタ:五分だけ…


そのまま、その夜遅くまで爆睡したのだった。


✍️ 作者コメント


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回は戦闘シーンこそありませんでしたが、ソウタにとって新たな環境と人間関係が広がっていく、大事な一歩となる章でした。

そして「結界」という力の存在も、少しずつ明らかになってきましたね。


次回、ソウタはどんな一歩を踏み出すのか──

今後の展開も、ぜひ見守っていただけると嬉しいです!

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