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動き出す駒たち

乾いた大地を蹄が打ちつけ、進むたびに土埃が舞い上がる。

三人の騎士が沈黙のまま、かつて村があった場所へと向かっていた。


そこには、もはや灰しか残っていなかった。


空気にはまだ煙が漂い、それと混じるように鼻を突くような強い臭いがあった。

それは鼻の奥に入り込み、まるで喉にカビがこびりつくような悪臭だった。


先頭に立つソーンが馬を止め、顔をしかめた。


ソーン:「ひでぇ臭いだ…腐った肉のようだな。」


鼻から息を吸い込み、目を細める。


ソーン:「煙だけじゃねぇ。この臭い…何日も土の中に埋まってた死体みてぇだ。」


すぐ後ろを進んでいたカエロルも顔をしかめ、嫌悪の表情を浮かべた。


カエロル:「俺もそう思った。まるで『死』がこの場所に根付いてるみてぇだ。」


ハルキは無言で馬から降りた。

そして額に乗せていたゴーグルを下ろし、カチッと音を立てて装着する。

そのレンズは淡く青緑色の光を放ち、周囲を映し出した。


その特別な視界には、過去の痕跡が見えた。

空中を漂う結界の靄、破壊された壁やひび割れた地面に残された霊的残留物――。


ハルキ:「ああ…ここで霊的な活動があったのは間違いない。痕跡は薄いが、はっきりしている。…誰かが『抽出の儀式』を行ったんだ。」


少し歩いて、地面に半ばかすれた魔法陣の跡を見つけ、膝をついて観察する。


ハルキ:「つい最近のものだ。おそらく、ほんの数時間前に行われたばかりだろう。」


カエロル:「…あのカルト教団か?」


ハルキは強くうなずいた。


ハルキ:「間違いない。」


ソーンは拳を握りしめた。

崩れ落ちた家々、壊れた井戸の残骸、土の中に転がる焼け焦げた玩具を見渡す。


ソーン:「…くそったれどもが…」


その時だった。


何かが動いた。


石の間で木材が擦れるような鈍い音、そして誰かのうめき声。


三人は即座に反応した。

ハルキはすでに片手に半分形成された結界印を浮かべ、カエロルは目を細める。

ソーンは肩に力を込めたが、まだ剣には手を伸ばさなかった。


倒壊した家の瓦礫の中、がれきの山がわずかに揺れ、そして…ゆっくりと開いた。


そこから現れたのは――少女だった。


八歳にも満たない小さな体。

全身は灰に覆われ、腕や脚には無数の傷があり、服はボロボロに裂けていた。

顔には土と涙と恐怖がこびりついている。


彼女は黒衣の三人を見て、一瞬で泣き崩れた。


ソーンは一瞬もためらわなかった。

手綱を放り投げ、大地を揺らすような足取りで少女の元へ駆け寄る。


その巨体には似合わぬ慎重さで膝をつき、まるでガラス細工を扱うかのように彼女を抱き上げた。


ソーン:「……しーっ、大丈夫だ……もう終わった。俺たちが来たからな。」


少女は彼の胸の中で震えながら泣き続けた。

ソーンは自らの黒いマントで優しく包み込み、まるで我が子のように抱きしめる。


その光景を見て、カエロルは静かに目を伏せた。


ハルキはゴーグルを外し、低い声で呟く。


ハルキ:「…これは虐殺じゃない。『回収』だった。……この子は、たまたま生き残っただけ。」


カエロル:「それとも……見せしめとして、わざと残したのか?」


ソーンは秋の陽だまりのように温かな手で、少女の髪をそっと撫でる。

その手は岩のように大きく、ごつごつしているのに、どこまでも優しかった。


ソーン(低く、かすれるような声で):「……もう二度と、こんなことはさせねぇ。」


【その夜 ― 廃村の外れ、焚き火のそば】


夜は静かに、そして重く降り、廃墟に影の帳を下ろしていた。

パチパチと木がはぜる音だけが静寂を破り、焚き火の橙色の光が黒衣の騎士たちの顔を照らしていた。


ソーンは地面にあぐらをかき、肩に毛布をかけて座っていた。

その隣には、別の毛布にくるまれた少女が、ゆっくりとパンのかけらをかじっている。もう泣いてはいなかった。呼吸も落ち着き、ときおり静かにすすり泣く程度だった。


ソーンは何も言わず、穏やかな笑みを浮かべながら見守っていた。

彼は、少女が先に口を開くのを待っていた。


少女(ちらりと見上げながら):「……助けに来てくれて、ありがとう。」


ソーン(声を低くして):「礼なんていらないさ、小さな子。心があるなら誰だってそうする。」


少女は目を丸くしてソーンを見つめた。

何か言いたげだったが、喉につかえて言葉にならない。


少女:「……あそこにずっといたら、死んじゃうかと思った……」


ソーンはその大きな手で、優しく彼女の髪をくしゃりと撫でた。


ソーン:「死なせはしない。少なくとも俺がそばにいる限りはな。」


少女は驚いたように彼を見上げた。その言葉はあまりに大きく、信じられないようだった。

ソーンは静かに笑った。


ソーン:「俺さ、昔は子どもって苦手だったんだ。でかくて不器用で…怖がられるばかりでさ。」


少女(首を横に振って):「……怖くないよ。ソーンさんは……いいクマさんみたい。」


ソーンは豪快に笑った。

少し離れたところでカエロルが眉を上げ、ハルキは小さく首を振りながら微笑んだ。


ソーン:「“いいクマさん”か…気に入った。」


少女はそっと彼のそばに寄り添う。

焚き火と彼のぬくもりだけが、この世で唯一の安らぎのように感じられた。


ソーン(焚き火を見つめながら):「明日、お前を近くの村に連れて行く。そこなら安心できるはずだ。いいか?」


少女うなずいて:「……ソーンさんたちは?」


ソーン:「俺たちは、別の道を行かなきゃいけない。でも安心しろ、お前はひとりにはならない。」


少女は彼の腕にもたれ、あくびをひとつ。


ソーン(小さく囁いて):「……安心して眠れ。今夜は、誰にも傷つけさせやしない。」


少女は目を閉じた。

ソーンは石像のように微動だにせず、まるで炎の心を宿した守護者のように、静かに見守り続けた。


【翌朝 ― 新たな村の入口】


朝日を背に、馬たちは石畳を軽やかに歩いていた。

この村は前よりもずっと大きく、赤い瓦屋根が並び、市場の屋台が開き始め、煙突からは煙が立ち上っていた。

森の向こう側で燃え尽きた命などなかったかのように、ここでは人々の日常が静かに続いていた。


カエロル(鼻をつまみながら):

「信じられねぇ……まだあの腐った臭いがする。俺だけか?」


ソーン(鼻で笑いながら):

「そうだなお前だけだ。魂に染み付いたんじゃねぇか? まあ、忘れられる臭いじゃないってのは認める。」


ハルキは集中した様子で、ゴーグルを起動したまま確かな足取りで前を進んでいた。


ソーン:

「まずは第一優先だ。あの子を安全な場所に預けよう。」


彼らは静かな通りを曲がり、手入れの行き届いた素朴な孤児院の前で馬を止めた。

木の扉には手描きの花があり、中からは子供たちの笑い声が微かに聞こえてくる。


ソーンは馬から降り、眠ったままの少女を優しく肩に抱えて、手の甲で扉をノックした。

扉を開けたのは、優しげな顔をした年配の女性だった。

状況を一目で察し、言葉はほとんど必要なかった。


ソーンが簡単に事情を説明すると、女性は頷いて中へ案内してくれた。


玄関先でソーンはそっとしゃがみ、少女を床に寝かせた。

彼女は目を覚まし、混乱した様子で彼を見上げた。


少女:

「……もう、いっちゃうの?」


ソーン(笑顔で):

「ここならちゃんと面倒見てもらえる。

ごはんもあるし、あったかい布団もあるし、遊べる友達もいる。」


少女はうつむいたが、何かを思い立ったように彼に飛びつき、力強く抱きしめた。


少女(小声で):

「ありがとう、クマさん……」


ソーンは喉を鳴らしながら、ごつい手で彼女の頭をぎこちなく撫でた。


ソーン:

「いい子でな。悪さしちゃダメだぞ。」


少女は涙を手の甲で拭いながら頷いた。

ソーンは立ち上がり、最後に彼女に一瞥を送ると、無言で馬にまたがった。


ハルキ(扉の前から):

「霊気はまだ残ってる。痕跡を辿れる。」


ソーン:

「行くぞ。」


【数時間後 ― 村から離れた田舎道】


大地の色が変わり始めていた。

緑が少しずつ色あせ、道の脇には鬱蒼とした森が広がっていく。


ハルキ(ゴーグルを覗きながら):

「痕跡が……森の中にそれている。」


彼は木々の間を指差した。三人は馬を止める。

カエロルは空を見上げて眉をしかめた。


カエロル:

「また森かよ。森に入ってロクなことがあった試しがねぇ。」


ソーンは無言で馬から降りる。


ソーン:

「馬はここに置いていこう。

この先に何かいたら、馬が怯えたり逃げたりするかもしれん。」


馬の手綱をしっかりと結びつけた三人は、静かに木々の中へと足を踏み入れた。


数分が過ぎた。

空気は次第に湿り気を帯び、鳥のさえずりもほとんど聞こえなくなった。

木漏れ日が枝の隙間からわずかに差し込むのみだった。


そのとき、ハルキが立ち止まった。


ハルキ:

「……そこだ。二十メートルほど先。」


茂みの奥に、土と根で半ば覆われた暗い入口がぽっかりと開いていた。

洞窟だった。

岩肌には、無理やり彫られたような古代の紋様が刻まれている。


カエロル:

「地図にこんなのあったか?」


ハルキ:

「ない。」


ソーン(腕を組みながら):

「痕跡は中へ続いてるか?」


ハルキ(頷く):

「強い。しかも、ごく最近のものだ。」


三人は目を見交わす。

言葉はいらなかった。

ここが“次の一手”だと、全員が理解していた。


ソーンは武器を抜いた。

ハルキは彼の瞳術・**神眼しんがん**を起動し、紫の瞳がわずかに輝いた。

カエロルは膝をつき、地面の匂いを嗅ぐと、唸り声を上げた。


カエロル:

「この臭い……ここが一番キツい。」


ソーン(低い声で):

「なら、間違いないな。」


カエロルが一歩前に出る。全身の筋肉が緊張していた。


カエロル:

「今すぐ突っ込もうぜ。中にいるなら、不意打ちで仕留められる。」


しかし、ソーンが無言で腕を伸ばし、彼の進路を塞いだ。

力強く、だが乱暴ではなかった。


ソーン:

「焦るな。中に何人いるかもわからん。

もしまた儀式中だったら、強引に踏み込めば取り返しがつかなくなるかもしれねぇ。」


カエロルは舌打ちして顔をそむけた。


カエロル:

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。」


ソーン:

「待つ。観察する。誰か出てきたら捕える。

そして、夜になったら……奇襲を仕掛ける。」


ハルキ:

「賛成だ。夜なら、俺の術はより環境に溶け込む。」


カエロルは鼻を鳴らしたが、それ以上の反論はしなかった。


【数時間後 ― 深夜】


森は静まり返っていた。

虫の声すら聞こえない。

三人の騎士は枝の高みに身を潜め、闇と葉に紛れて潜伏していた。


その時──

洞窟の奥から、一つの人影がよろめくように姿を現した。


フードを被った男が一人。

背が高く、足取りはだらしない。

ズボンを直しながら奇妙なメロディーを鼻歌で奏で、木陰の開けた場所までやってくると、その場で小便を始めた。


彼は──

頭上の枝がわずかに揺れたことに気づかなかった。

木の上で木々がささやき合う音も、聞こえなかった。


そして──遅すぎた。


バキィン。


複数の枝が一斉に降り下り、彼の両腕と両足を掴み、まるで壊れた操り人形のように空中に吊り上げた。

鼻歌は一転、喉の奥で詰まったような悲鳴へと変わる。


枝に吊るされた男の目の前に、三人の男たちが闇の中から現れた。


カエロル(腕を組みながら):

「へぇ。小便するには、ずいぶんいい場所選んだな。」


男は三人のマントに刺繍されたリュウェンハルト王国の紋章を目にすると、目を大きく見開いた。


──そして笑い出した。


乾いた、鋭い、壊れたような笑い。


フードの男:

「三人!? 三人であれを止められるとでも!?

ハハハ! 無理だ! 無理に決まってる!

中にはもっといる! 数えきれないほどだ!

今夜、お前らの骨は焼かれるぞォ!」


カエロルはため息まじりに一歩前へ出る。

その表情には、あきれと侮蔑が混ざっていた。


カエロル:

「具体的な数を言え。

言わなきゃ、舌を引っこ抜いてやる。」


だが男は答えず、ただ壊れた人形のように枝に揺られながら、狂気じみた笑いを続けた。


フードの男:

「死ぬぞ! 全員死ぬ!

お前らはもう──終わりだァ!

呪われてるんだよォ! 呪われてるんだァ!!」


ハルキが静かに一歩前に出た。

言葉はない。

だがその紫の瞳が、淡く鋭く光を放った。


眉がわずかに動いた、その瞬間。


バチィン!


上空から伸びた太い枝が、まるでムチのような速度で一閃。


男の首を、容赦なく吹き飛ばした。


首のない身体が鈍い音を立てて地面に落ちた。

そして枝たちは、何事もなかったかのように、静かに木へと戻っていった。


カエロル:

「もう少し問い詰めた方がよかったんじゃねぇのか?」


ハルキ(目を向けずに):

「無駄だ。あいつは何も有益なことは言わなかった。

それに、あの霊気の乱れ方……あれは、自らの命を捧げる覚悟を決めた奴のものだった。」


ソーンは黙ったまま、じっと洞窟の入口を見つめていた。


ソーン:

「もう時間がない。

準備しろ──

中に入るぞ。やつらの目的が何か……突き止めるまで、出てこない。」


作者の一言


今回は少しシリアスな回でしたね。

ソーン、カエロル、ハルキの三人がどんな信念を持って動いているのか、少しずつ見えてきたかもしれません。

次回、いよいよ洞窟の中へ…。

そこに待ち受けるのは何か――お楽しみに!✨


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