ラブラブなお弁当に出てくるピンクのハートのアレ
「頼む! 俺にベタだけど超可愛いラブラブな弁当を作ってくれ!」
「ヤダ」
いつも騒がしい恋人をばっさり切り捨てれば、彼は「そんなぁ!」と子どものように駄々をこねる。
「男は皆、いかにも『心を込めて作りました』みたいなラブコメあるあるな弁当に憧れるものなんだよ! 小さいけど手間のかかったおかずとか、ピンクのハートが乗ったご飯とかさぁ! 頼む、俺にもああいうめっちゃキュートでラブリーな感じのお弁当作ってくれよぉ!」
「嫌だよ、面倒くさい……っていうかそういう描写、最近じゃ古いでしょ。だいたいピンクのアレ、材料は何なのよ?」
「何、って……」
言い返せば、すぐに彼は口ごもる。何かと彼女である私を気遣ってくれる彼だが、料理には疎いのだ。うーんと唸りながら、色々ピンクのおかずを考える様子を見せる。
「えっと……そうだ! 桜でんぶ! 有名な映画とか漫画飯にも出てくるし、アレだよアレ!」
「アレ、普段はちらし寿司ぐらいでしか使わないし売ってる所もなかなかないでしょ」
「あ、なら……鮭フレーク! おにぎりでもよく使うし、近所のスーパーでも普通に売ってるよね!?」
「メーカーにもよるけど基本ゴロッとしてるし、個人的にはアレはご飯に混ぜ込んでこそ真価を発揮すると思うから……っていうか、そもそもどうやってハートにすればいいの?」
たぶんクッキー型などを使って、そこに詰め込むというのが正解なのだろうが私はあえて意地悪にそう尋ねる。するとふわっとしたイメージしか持っていない彼は案の定、言葉に詰まった。
「それは、その……愛情込めて一生懸命、形作るとか……?」
「……毎日、早起きしてお弁当を作るのだって……『愛』がなきゃやってられないよ」
素直な心情を吐露すれば、途端に照れ臭くなって私は彼から目を逸らしてしまう。
特別、料理が好きなわけではないし朝型人間でもない。それでも毎日、お弁当を作るのは――やっぱり彼が好きだから。シンプルなその事実に、彼も気がついたのか頬を赤く染める。
「まぁ、でも……恋愛ものに出てくるラブラブ弁当っていえば、もう一つ定番があるじゃない?」
◇
「えっと、あの……いってきます!」
どことなくソワソワしながら家を出る彼を、私もちょっと気恥ずかしい態度で「いってらっしゃい」と送り出す。
真っ直ぐに切った海苔を組み合わせ、それが崩れないよう上からラップ。そうして作った文字は、短いけど一番シンプルで大切な彼への気持ち。
『スキ』