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もう一度、君に会いたい異世界譚  作者: リュウチン
第一章 転生の兆しと貴族の息子編
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第一話「希望への覚悟」

 

 目を開けると、茶髪で若い異国風の女性が俺の顔を覗き込んでいた。

琥珀色の瞳が優しく揺れ、シャワーの後のような清潔な香りが漂ってくる。

そのつややかな肌と色気に、思わず心がざわついた。


彼女の姿に目を奪われていると、不意に体が浮かび上がった。

何が起きたのか分からず、ふわりとした感覚に思わず視界を巡らせる。


目の前には、茶髪の若い男がいた。

俺を抱きかかえ、まじまじとこちらを見下ろしている。


男の顔はどこか頼りなさそうだが、その腕は妙に安定していて、俺の体をしっかり支えていた。


なぜ抱えられている? いや、それ以前にこの妙な視点の低さは何だ?


男はちらりとさっきの女性に視線を送ると、柔らかい声で何かを話し始めた。

「・・ー・・・ーーーー!」

「・ー・・ーーー・・」

何を言っているのだろうか、

(もしかして、日本語じゃないのか?)

意味は分からないが、二人が今とても幸せそうにしているのだけはわかった。


そんなことを考えながら、

俺はふと、自分の体に宿る奇妙な違和感に気付き始めた。


俺の体が妙に小さい――というより軽すぎることに、少しずつ疑念が湧き始める。視線を下げて自分の手を確認しようとするが、腕がほとんど動かない。


「あー、うあー」


俺はとっさに二人にしゃべりかけようとした。

何が起きているのか説明を求めたかった。

だが、口から出てきたのは、うめき声ともあえぎ声とも判別のつかない音だった。

そこでようやく自分の状況に理解がついた。

頭では理解したつもりだったが、その衝撃は想像を超えていた。

軽すぎる体、動かない腕、そしてまともに声も出せない不自由さ。

混乱と動揺が胸をかき乱し、どうにも現実感が追いつかない。


俺は赤ん坊になっていた。


その瞬間、ふと思い出す。

あの時、屋上から飛び降りたこと。


沙里奈の名前を口にして、最後に感じたその絶望感。

だが、どうして今、こんな小さな体で目を覚ましたのか?


――俺は、死んだはずだ。


その事実が、ゆっくりと胸の奥に広がる。

目を閉じ、飛び降りた瞬間の感覚が蘇る。


屋上から見下ろした世界、冷たい風、そしてその後の暗闇。

すべてが終わったと思った。


死ぬはずだった。


あの瞬間、すべてを終わらせるつもりだった。


最後に沙里奈のいる異世界に行けたら――そんなかすかな希望にすがろうとした。


だが、今、目を開けて周りを見回すと、それは本当に、現実なのか?


赤ん坊の体に変わり、目の前には喜びに震える二人の姿があった。

どこか安心しているその表情と、どうしようもなく嬉しそうな顔。

彼らの姿が、今の状況が、

俺が異世界に転生した証拠なのかもしれないと、確信に近づけさせる。


自分の体の軽さ、そしてこの小ささ。


どれもが、あの時飛び降りたはずの俺の体とはまるで違う。

だが、二人の表情には、不思議と温もりがあった。

彼らの喜びが、俺の転生が本物であると感じさせる。


――俺は、転生したのだ。


頭をよぎる疑念と同時に、胸の中で湧き上がる感情。

まるで、再び生きることを許されたような、不安と混乱が入り混じる中、


ふと、沙理奈のことを思い出した。


沙理奈はあの日、確かに死んだ。


その事実は、何度思い返しても揺るがない。


あの瞬間、すべてが終わり、俺はその痛みを抱えたまま生きてきた。

心の奥底に埋め込まれた喪失感は、いくら時間が経っても消えることはなかった。


だが、今こうして目の前に広がる異世界の光景を見つめると、ふと思う。

俺が転生したことで、あの日、最後に願ったことが少しずつ現実になりつつあるのではないかと。


「沙理奈にもう一度会いたい」――あの願いが、もしかしたら、こうして異世界で再び生きる理由に繋がっているのではないのかと。


そう考えると、胸の中にわずかな希望が湧き上がる。


死ぬ間際、俺はただ一つ、沙理奈にもう一度会いたいと願った。


それが叶うなら、たとえどんな姿であれ、どんな形であれ、俺はもう一度その手を取ることができるのだろうか。


この小さな体、動きにくい手足、そして異世界の空気、

すべてが新しく、そしてどこか違和感を感じさせるが、もしかしたら、これが俺に与えられた新たなチャンスなのかもしれない。


沙理奈に再会するために、この転生が、彼女との再会を叶えるための道であるならば、俺はそれに従い、進むべき道を見つけなければならない。


――新しい世界で物心がついた初日。

俺はこの世界で生きる覚悟を決めたのだった。





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