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もう一度、君に会いたい異世界譚  作者: リュウチン
第一章 転生の兆しと貴族の息子編
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プロローグ②『もしも異世界で』

ーー沙理奈が死んだ。


その言葉が、どれだけ願っても消えることはなかった。


「ああ、沙理奈…」


その名前を口にするたび、胸が締め付けられ、涙が溢れる。

でも、もう何もできない。

手を伸ばしても、届かない。



ーーただ、空虚な闇に飲み込まれていくだけだった。



あの日、もし沙里奈ともっと話せていたら。

もしあの瞬間、彼女に少しでも心を寄せて向き合っていたら。


そんな「もし」を抱えながら俺は生きている。


だが、どれだけ願っても過去は変わらない。現実は、俺に背を向けたままだ。


彼女が去ったあの日から、俺は毎朝後悔と共に目を覚まし、毎晩それを枕にして眠る。


何度も振り返る――あの時の言葉、あの時の沈黙、そしてあの時の彼女の瞳に映っていたもの。

気づいていたのに、気づかないふりをした。いや、ただ向き合う勇気がなかっただけだ。



沙里奈はいつも笑っていた。

俺にとって、それが彼女の本心だと信じたかった。


彼女が笑うたびに、どこか安心していたのかもしれない。


自分の甘えと怠惰が、彼女を追い詰めていたなんて知らずに――いや、知らないふりをしていたのか。



「どうして、あの時……」



問いは毎日同じ形で、俺の中に降ってくる。


答えは決して変わらないとわかっていても、問い続けるしかない。


俺の中で、沙里奈と過ごした時間は今も燦然と輝きながら、同時に全てを縛る枷となっている。


もう彼女の声を聞くことはない。彼女の隣で歩くこともない。


その事実が俺を前へ進ませない。


時間は進むが、俺の心はあの日のまま凍りついている。



「沙里奈……」



その名前を口にするたびに、俺の胸は罪悪感で締めつけられる。


彼女が求めていたものは何だったのだろうか。俺にできることはあったのだろうか。



そして今日もまた、後悔と向き合う日が始まる。過ぎ去った時間を背負いながら。



「でもそんなのも今日で終わりだな。」



夕暮れの空が茜色に染まる中、俺は誰もいない学校の屋上でひとり呟く、

風が頬を撫で、遠くから微かに聞こえる部活の掛け声がやけに遠く感じる。



沙里奈をイジメていた張本人が言い放った言葉を、俺は今でも忘れられない。


「沙里奈を苦しめたのは、お前だ。見て見ぬふりをしてた、お前が一番悪いんだよ。」


その言葉に教室の空気がピリリと変わった。

周囲の視線が、一斉に俺に向けられる。

驚き、非難、嘲笑、さまざまな感情が交じり合った眼差しに貫かれて、言い返すことさえできなかった。


確かに、俺は何もできなかった。

沙里奈が辛そうにしていることに気づきながら、目を逸らしてしまった。


怖かったからだ。


自分まで標的になるのが。


けれど、彼らの言葉は明らかに違う。

本当に沙里奈を追い詰めたのは、他でもない彼ら自身だったはずだ。


だが、それを言い返す声を持たない俺は、ただ黙るしかなかった。彼らの言葉を否定する資格など、自分にはないように思えたから。


沙里奈が死んだあの日を境に、俺は紗理奈を死に追いやった張本人という噂の中に埋もれていった。


それも仕方のないことなのかもしれない。


周囲が何を言おうと反論する資格なんて、俺にはない。俺自身が一番、分かっていた。沙里奈を守れなかった俺は、噂に囚われるに値する存在だと。



俺は学校で居場所がなくなり家に引き篭もるようになった、そこから一年の時を家で過ごし、


最初のうちは、親だけは俺の気持ちを考えてくれているようだった。

何も言わず、ただ静かに見守ってくれた。

けれど、周りは違った。

友人も、先生も、近所の人たちも。

みんな俺を「沙里奈を見殺しにしたやつ」と決めつけた。


直接言わなくても、その視線や態度が物語っていた。冷たく、鋭く、俺を責める声が聞こえるようだった。



そして、いつしか親も何も言わなくなった。

俺の気持ちを慮るための沈黙ではなく、

ただ呆れ、疲れ果てた無関心のそれに変わっていった。



孤独だけが、確かな現実となって俺を包み込んでいく。


「殺人鬼」「クズ」――家の壁やポストには、そんな辛辣な言葉が無造作に書き殴られていた。


あの噂が広まってからだ。


誰がやったのかなんて、もう気にする気力もなかった。


ただ日々、目にするたびに何かが削られていくような感覚だけが残る。


そんな状況で一年。俺の心はとうに死んでいた。


沙里奈が生きていた頃、こんなことを考えたことなんてなかった。



――俺にとって、沙里奈が心の支えそのものだったんだと。


それに気づくには、あまりにも遅すぎた。


人生の最後に、俺の脳裏に浮かんだのは沙里奈との思い出だった。


小さい頃、


一緒に遊んだ公園の風景。

寄り道した帰り道、

ふざけ合いながら笑った彼女の声。


彼女がいなくなったあの日まで、俺にとって沙里奈はいつもそばにいる存在だった。


だが、俺は彼女を守れなかった。


沙里奈があの時、どんなに苦しんでいたのかを理解しようともせず、手を差し伸べることもしなかった。

その後悔と憎悪は、時間が経つほどに俺自身を蝕み、心を深い闇へと沈めていった。



「もしも、異世界なんてものがあるのなら……沙里奈に、もう一度会いたい。」


その言葉が、俺の唇からこぼれた最後の願いだった。


「ごめん……沙里奈……」


その言葉を最後に、俺は覚悟を決めた。


目を閉じ、深呼吸をひとつして――




――そして、俺は、屋上から身を投げた。



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