玉
……目の前に、玉がある。
キラキラとしてはいないけれど、どこそこ透き通っている。
てのひらに乗るくらいの、中途半端なサイズ。
絶対に自分のものではない、全く見覚えがない物体。
……なんだ?これ。
誰かが置いていった?
……一人暮らしなのに、誰が。
突然現れた?
……そんな馬鹿な。
もしかして、自分の記憶が欠落している?
……そう言えば、少し頭が痛いような気もする。
これは…どうするべきなんだろう。
とりあえず、落ち着いていた方がよさそうではある。
騒ぎ立てたところで、おそらく何一つ問題は解決しないと思われるから。
とはいえ…、落ち着き払ってぼんやりしていてもヤバそうだ。
ふいに爆発したりする可能性がないとは言い切れない。
じたばたしたところで…、なるようにしかならないとは、思う。
自分は…、特殊能力も、専門的な知識も、持ち合わせてはいないのだ。
未知の玉を目の前にしてできることは、ただただ呆然と見続けるか、イタズラに表面をつついてみるとか、逆ギレして叩きつけるぐらいしか、できない。
まあ…いろいろとやろうと思えば、色々とできないこともなさそうではあるけれども。
玉を握ってみるとか。
玉の味をなめて確かめてみるとか。
玉をかじってみるとか。
玉に水をかけるとか。
玉をライターで焙るとか。
玉の表面を包丁でこすってみるとか。
玉に落書きしてみるとか。
玉を写真に撮りまくるとか。
玉の事をSNSでフォロワーさんに聞いてみるとか。
玉について実況してみるとか。
玉に化粧してみるとか。
玉を思いっきり殴ってみるとか。
玉にサンポールぶっかけるとか。
玉を味噌汁の中に入れて煮込んでみるとか。
玉をPOP用サインペンで塗りつぶすとか。
玉の事なんかほっといてお風呂に入ってヨガをして寝るとか。
玉を使って足裏マッサージするとか。
玉の上に乗ってみるとか。
……あとは、そうだな。
ああ、玉に衣をつけて揚げてみるとか?
「いいねえ、それ!!新しい発想、いただきました!!よ~し、さっそくやってみよう!!!」
………。
…………?
あれ?
ええと、今…なにしてたんだっけ。
ああ、……そうだ。
家に帰ってきて、ご飯を食べて。
お風呂に入ろうとしたところで、明日使うPOPを先に書いておこうと思って。
机に向かって、バイト用のペンを引き出しから出そうとして……。
……うん?
目の前に……、玉がある。
なんだ、これ……。