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操られているという自覚もないままに人を操るのがマーケティングの極意

 「うわ! サーバーダウンしているよ!」

 

 ある日の午後、あなたはソーシャルゲームをやろうと思ってパソコンからアクセスをし大きく落胆した。今日中にレベルを上げ、明日から行われるイベントに備える気になっていたのに、何故かログインすらできなかったからだ。

 コミュニティの方にアクセスをすると、何らかのトラブルらしい旨の書き込みがあった。どうも単純にサーバーが落ちたといった問題ではないらしい。

 「これは時間がかかりそうだな」

 と、あなたは呟いた。

 ただ、その頃には感情の整理ができ、“文句を言っても仕方ない。気長に待とう”という気になっていた。が、その代わり、明日から行われるはずのイベントが延期にならないかとやや不安になっていた。

 そして、

 “そういえば、ここ最近、こんなトラブルが多いな。運営の担当者が変わって、まだ慣れていないとかかな?”

 そんなような事を思う。

 次の日、杞憂だったようで、問題なくイベントは始まっていた。ゲームがプレイできなかった期間の補償も充実している。プレイしていた相当の経験値をくれ、キャラに振り分けられるようにもなっていた。しかも、様々なアイテムやゲーム内通貨までもが配られている。

 「おっほ! トラブった方がむしろラッキーだったじゃん!」

 と、あなたは思った。

 イベントをこなす以外では、ゲーム内通貨は課金しないと得られない。それはつまりはお金を貰っているのとほぼ同義だった。

 気を良くしたあなたは今日から始まるイベントに合わせて新キャラクターが追加されている事に気が付く。女性キャラ。可愛く美しいデザインで能力も高い。あなたはそのキャラクターに惹かれた。ゲーム内通貨を支払うと確率で様々なキャラクターが排出されるくじ引きのようなガチャと呼ばれているコンテンツでゲットできる仕様になっているようだ。

 「やっちゃおうかなぁ ちょうど臨時収入もゲットできた事だし」

 サーバーダウンの損失補填のゲーム内通貨のお陰で、一回くらいはガチャができそうだったのだ。確率は4パーセントで、一度のガチャで10キャラ排出されるから確率的には充分に有り得る。

 欲求に耐え切れず、あなたはガチャを回した。しかし、お目当ての新キャラは排出されない。悔しくなったあなたはもう一度回そうと考える。課金しなくてはならないが、もう手は止まらなかった。

 そして、気が付くとあなたは5千円ほども使ってしまっていたのだった。

 「やっちまったぁぁ!」

 冷静になって後悔をする。お目当ての新キャラはゲットできたが、それに5千円の価値があったかと問われると疑問だった。

 それから気が付いた。

 “あれ? 前もこんな事がなかったっけ?”

 今回ほど大きな金額ではないが、やはりトラブルがあって補償のゲーム内通貨が配られてガチャを回して結局は課金をしてしまっていた気がする。

 ただ、あなたはそれを特に気にしなかった。単なる偶然だと考えたのだ。

 

 「――よお。またトラブルを起こしたって?」

 

 ゲームのプロデューサーにかつての同僚が話しかけた。彼は別の部署にいるが、トラブルの噂は聞こえて来ていたのだ。

 ところがそれにプロデューサーは、

 「ああ、今回も上手くいったよ」

 と何故かそう返すのだった。

 同僚の男は首を傾げる。

 「なんだよそれ? トラブったのだろう?」

 「ああ、トラブルがあったよ。でも、これを見てみろよ。そのお陰でまた稼げた」

 同僚がパソコン画面に目をやると、ゲームの課金額が大幅に伸びていた。それに同僚は驚く。

 「どういう事だ? どうしてトラブルで課金が増えているんだよ?」

 「簡単だよ。それでお詫びとしてガチャが一回くらいは回せるくらいのゲーム内通貨をユーザーに支給したからだ。金を貰ったら、一回くらいはチャレンジしてみようってユーザーは思うだろう? するとユーザーのガチャへのハードルは下がるんだ。一回でもサービスを利用すると、次からは気楽に利用してくれるようになる。女だって一度寝ると次からは割と簡単に寝させてくれるって言うだろう? それと同じだよ」

 同僚は「例えが下品だよ」と注意をしてから疑問を口にした。

 「でも、それ、単にサービスでゲーム内通貨を支給するんじゃダメなのか? わざわざトラブルのお詫びを装う必要はないだろう?」

 プロデューサーは首を横に振り、その疑問に「それじゃ、効果的じゃないんだよ」と返した。

 「そーいう事をすると、ユーザーは“あ、運営は金を儲けようしていやがるな”って警戒をするだろう? 財布の紐がきつくなるんだよ。だから、警戒させないように、“トラブルのお詫び”って形にしたんだ。

 運営がミスってくれたお陰で得をした!

 って思わせられれば、後は楽に金を使ってくれるようになるって寸法だ」

 嬉しそうにしているプロデューサーの前で、またゲームの課金額が上がった。かなりの利益になっているようだ。

 それを見ながら同僚は言った。

 「悪賢いなぁ。俺も気を付けないといけないな」

 プロデューサーは笑ってから言った。

 「ああ、充分に気を付けろよ?

 “操られているという自覚もないままに人を操るのがマーケティングの極意”

 だからな。気が付いた時には、くだらない事に金を遣わせられているかもしれないぜ」

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