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最初の日

〜プロローグ 1 〜

「最初の日」

 おそらく俺は今まで生きてきた世界とは異なる世界、つまり異世界に転移してしまったということになる。

 だがなぜ俺がこんな目に遭っているのか、なぜこんな何もない場所に飛ばされてしまったのか不明だ。

 とりあえず現時点での全所持品を確認することにしよう。

 ズボンのポケットに入れていた家の鍵、着ている服。

 以上だ。


 さあどうしたものか、この世界の一日がどの程度の長さなのか、そもそも俺の常識はどこまで通用するのか、人間はいるのか、考えれば考えるほど疑問と不安が募っていく。

 どうすればいいのかわからないのでとりあえず寝っ転がってみる。

 ……ふむ、どうやら土の匂いは俺の知っている通りのようだ。


「そこのお前! ここで何をしている! さっきのはお前がやったのか!」


 意外にも早く言葉を話すことができるものと遭遇することができたようだ。

 しかも日本語だ。

 ひょっとして俺の考えすぎでやっぱりここは日本の辺境か何かなのだろうか。

 さっき見たドラゴンはサイズがちょっと大きめで、たまたま尾羽が尻尾のように長く太く、鳴き声が大きいだけのただの鳥だったのかもしれない。


 と思いつつ起き上がってみると、西洋甲冑のようなものを全身に装着した兵士二人組が目の前にいた。

 やはり日本ではない、どころか地球上で現在もこんな格好の兵士がいる国がどれほどあるか。

 しかもそんな格好をした人が日本語を話している。

 俺の知っている日本ではあり得ないことだ、おかしい。

 もう楽観視して現実から目を背けるのはよそう。

 さっき見たのはやはりドラゴンで間違いないんだろう。

 というか、”さっきの”ってのは何のことだろうか。


「待ってくれ! 俺は何もしていない! 気づいたらここに立っていて、ここがどこかもわかってないんだ!」


 とりあえず危害を加えるつもりがないこと、そして本当のこと、気になることをまとめて返答してみた。

 二人は顔を見合わせて、


「そんな言葉信じられるわけないだろう! 現場にいるお前が無関係だって話を信じるほうがおかしい」


 二人のうちものすごくゴツイ体格をした男が答えた。

 声からしてさっき出合い頭に怒鳴ってきた方だろう、こわすぎる。

 腰には両刃の直剣を下げている。

 きっと俺のことなど殺そうと思えば一瞬で殺せてしまうのだろう。

 発言には気を付けなければ。


「本当に知らないんだ! ”さっきの”ってのも何のことを言ってるかわからないし、さっきまで全く違う場所にいたのに気づいたらこんな何もない場所にいるし、何が何だかわからないんだよ! 状況説明ぐらいしてくれ!」


 発言に気を付けるどころか逆切れみたいになってしまった、これで怒らせたら腰に下げた直剣で一刀両断かもしれないと思うと、今更冷や汗が出てきた。

 二人はまた顔を見合わせて少したってからまたゴツイ方の兵士が話し始めた。


「なるほど、服装的にもおそらく”イカイテンイヒョウリュウシャ”か、珍しい、初めて見た」


 よかった、怒らせることなく俺が危険な奴ではないことを理解してもらえたようだ。

 どうやらこの世界で俺みたいなやつは他にもいるらしい。

 異界転移漂流者? 俺以外にも日本からこの謎の世界に転移している人がいるなら是非とも助けてもらいたいところだ。

 この甲冑の男は異世界という存在があることを事実として理解しているようだ。

 というかそんなにすんなり俺の存在を受け入れてくれる感じなら最初に怒鳴って圧迫してきたのは何だったんだよ。


「ここはリラン王国という国の辺境だ、俺たちはここから近くの町の警備兵士をしている。数刻前に突如この辺りに青白い光の柱が出現したためその調査のために来たのだが、どうやらお前が境界越えをしたことによるものだったようだな」


 俺の知る限り地球上にリラン王国という国はなかった。

 青白い光の柱…… 俺はそんなものは見ていない。

 状況的に俺がこの世界に転移した時に発生したものなんだろう、原理不明すぎて自分でも意味が分からないが。

 俺には見えなかったということは転移した本人には見えないものだったのだろうか。


「わからないことだらけだろうがとりあえず俺たちの町に来るといい、ここは開けた丘でモンスターは基本出てこないが、逆に接敵してしまったら逃げずに戦うしかないからお前にとっては危険な場所だ。向かいながら答えられる質問には答えよう。俺はヘルハンドという、こいつはアイリだ」


 甲冑をかぶり、一言も喋らないもんだからわからなかったが、アイリという名前からして後ろにいる人は女性のようだ。

 確かにヘルハンドと比べると細身のような気がする。

 というかヘルハンドは間違いなく日本名ではないがアイリは日本人によくいる名前だ。

 日本語で普通に会話している訳だしやはり何かしら日本が関係しているのだろうか。


 「。。。」


 てか今モンスターって言いやがったなこいつ、やっぱりやっぱりさっきのはドラゴンだし、モンスターが当たり前にいる世界なのかよ。

 大丈夫か俺、あっさり殺されたりしないよな。

 

 とりあえず、今の俺には選択肢が一つしかない。


「俺は、神崎だ」


 ともかく行くあても無いのでついていくことにした。

 この感じからして突然殺されるなんてことはなさそうだし。



 町に向かっている間にとにかく気になることをひたすら問い続けた。

 ヘルハンドは俺を見た瞬間有無を言わさずに怒鳴ってきた男とは思えないほど全ての質問を丁寧に答えてくれた。

 アイリはその間、やはり無言だった。


 町までは馬を走らせばすぐ着くようだったが、俺が馬に跨る様子から馬に乗り慣れていないこと、そして俺がすぐにでも色々質問したそうだったことを察してくれたようで、ゆっくり進んでくれた。

 まずここが俺のいた世界とは違う世界なのかどうかを改めて聞いてみた。


 ヘルハンドによると、ここは俺が元いた世界とは全く違う異世界であること、

 おそらく俺と同郷であろう異世界人、この世界では異界転移漂流者と呼ばれる存在が現在も何人かいるとのことだった。

 だがリラン王国にはいないらしい。残念だ。近くに同じ境遇の人がいたらだいぶ気が楽になっただろう。どうにかして他国にいる異世界人とコンタクト取れないか考えたほうがよさそうだ。


 次になぜ日本語が通じるのかを聞いた。

 そもそもこの世界では日本語のことを人魔語と呼んでいるらしい。

 人魔? 魔族的な種族がいるということだろうか。

 ものすごく気になったが、町の門が見えてきたのでまた今度聞くことにした。


 辺境の町というだけあって随分貧相な印象を感じさせる町だった。

 町というよりも村のようなところだった。

 一応、門とそれを守る門番がいたがヘルハンドたちと一緒にいたためか何も聞かれることなく町に入ることができた。

 町に入ってすぐに気づいたが、町の人たちの服装は俺とは全く違った。

 もちろんヘルハンドたちが着ている甲冑とも違う。

 見た感じレザーでできた防具を着ている人たちと、薄汚れた布の服装の人ばかりで俺の様な現代風な服装の人は一人も見当たらなかった。

 門番は俺を不思議に思わなかったのだろうか。異世界人ってのはこの世界において割と普通にいるものってことなのか?


 ヘルハンドに聞いてみた。


「まあ俺はこの町の警備隊長を務めているからな、俺といる時点で特に問題ないと思ったんだろう、それに少し身分が高めの人であればお前の様な服装をしている人もいる」


 何とヘルハンドは結構偉い人だったようだ。

 しかもアイリは副隊長を務めているらしい。

 こんな無言の人がまともに務められているのだろうか。

 この町の人たちの服装とかヘルハンドたちの甲冑からして、身分が高い人は今の俺の現代風の服装じゃなくてもっとギラギラした服装をしていそうだけどな。まあそのうち身分が高そうな人に出くわすこともあるだろうしその時にヘルハンドの感覚がおかしいかどうかは確認できるな。


「俺はこれから町長に今回の報告をしに行かなければならない、今日は俺の家に泊まってもらうからアイリに案内してもらうといい、それじゃあまた後で」


 そう言ってヘルハンドは街の外からすでに見えていた三階建てくらいの建物に向かって颯爽と去っていった。


 俺はこの世界に来て初めて、少しイラっとした。

 ヘルハンドたちと会ってから俺は一度もアイリの声を聞いていない。

 そんな人と強制的に二人きりにするなど人としてやってはならないだろ。

 きっと報告することは重要な仕事なんだろうが俺の身にもなってほしいと思った。


 贅沢を言い過ぎだろうか。言い過ぎだな。この二人がいなけりゃ俺はとっくに魔物に殺されてたって可能性もある。そもそも俺の話を聞かずに問答無用で事件の犯人にされてたってこともあるだろう。

 俺はだいぶラッキーなほうだと思ったほうがいい。

 まだこの世界での自分の立ち位置も全く分からない今はこの二人に頼るしかない。少しでも悪いように思われたらまずいかもしれない。

 とりあえず心を静めて感謝の気持ちを忘れずに行かねば。


 多分俺から話しかけないと何も進まないのだろうと思い、いまだ声を一度も聞いていないアイリに勇気を出して話かけよう。と思ったが、彼女がさっきまでいた方向に顔を向けたときには誰もいなかった。

 アイリは俺に声をかけることも合図をすることもなく歩き始めていた。


 無言で歩む背中に無言でついて行くしかなかった。

 またイラつきかけたが、今度は深呼吸して抑えられた。

 だが話しかける勇気と気力はどこかに行ってしまった。



 大体百メートルぐらい歩いたあたりでヘルハンドの家に着いた。

 この程度の距離なら先に案内してくれてもよくないかヘルハンドよ。


 アイリは慣れた手つきで扉の鍵を開けた。

 家に入るとアイリは頭の甲冑を外した。

 ギラギラ光った鉄の甲冑からサラサラとした長い金髪がスルスルと出てくる。

 アイリは金髪ロングの可愛い女の子だった。

 なぜこんな子が兵士などやっているのだろうかと思うぐらいに整った顔をしている。

 名前は日本人にもたまにいる名前だが、顔は白人に近いような気がする。

 名前からして女性だろうとは思っていたが、まさかこんなにきれいな金髪ロングが出てくるとは思わなかった。

 正直アイリは愛想が悪いのか、俺を嫌っているのか、ただ人見知りなのかわからないが出会って今までの短い時間ですでに苦手に感じていたが、かわいい子ってたまにこうゆう感じの子いるよねって感じだ。


「あなたは多分右側の来客用の部屋を使うといいわよ」


 突然だった。

 今まで一度も声を発していなかったのに突然普通に話すもんだから俺は困惑した。


「え?」


 この子は気を許している人の前でだけしゃべるとか、そもそもしゃべれないキャラのどっちかだと思っていたのに普通にしゃべれるのかよ。さっきまでの態度は何だったんだ。


「アイリは喋るのが苦手なのかと思ってたけど普通に話すんだね、今日一度も話さないから何かあるのかと思ってたよ」


 言った側から今の発言は触れてはいけない地雷をおもいっきり踏み抜いているかもしれないと思い焦った。

 もしかしたら俺には想像もつかない複雑な理由で話をしていなかったとか、気にしていることだったとかだったらまずい。

 しかも突然女の子と話すことになったもんだから明らかにさっきのヘルハンドと話しているときとは言葉づかいも声のトーンも態度も柔らかくなってしまい、自分のことがものすごく恥ずかしくなった。


「別に普段は普通に話すわよ、ただ女の兵士は舐められやすいから兵士でいる間は必要最低限しか話さないようにしているの、女だとわかった瞬間につけ上がってくるバカは意外と多いのよ」


 なるほど、確かにアイリの声は顔に合った可愛らしい声で強さを全く感じられなかった。

 舐められる姿が容易に想像できてしまう。


 俺はアイリの言っていた来客用の部屋に入りベッドに腰を下ろした。

 意外と柔らかいマットレスに驚きつつ、ここ数年感じたことがないほど疲れていることに気づいた。

 今日は今までの俺の人生の中で最も劇的な日であったことは間違いないだろう。


 そういえば俺は元の世界に戻れるのだろうか。

 まあ不安になることは考えても解決しないことだし今は忘れよう。

 とりあえずは一息付けたとはいえこの先の見通しが全く立っていない。

 もしかしたら、普通に帰る方法があるかもしれない。異界転移漂流者、何て名前を普通に使うほど異世界人が多いなら、帰る方法が当たり前にある可能性はありそうだ。

 とりあえず明日その辺の話を聞いてからまた考えよう。



 それにしても気になることが一つある。

 ここはヘルハンドの家らしいがあの二人はどんな関係なんだろうか。

 普通に家の鍵を持っている訳だし、夫婦ないしカップルなんだろうか。

 だとしたら羨ましいぜヘルハンド。

 リビングの方で何かアイリがぶつぶつ言っている、と思ったら少し黄色っぽい光が視界の端で見えた。


 アイリに他にも気になることを聞いておこうと思っていたが思っていた以上に疲れていたようで気づいたらそのまま眠ってしまっていた。

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