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最後の日

〜プロローグ 0 〜

「最後の日」

 いつも通りの1日を過ごしていただけだった。

 大学まで片道1時間ちょっとの道のりをスマホをいじりながら過ごしていた。ただそれだけだった。


 俺は現在21歳の理系専攻の大学生だ。すでに4年の夏が過ぎたが就職先はまだ決まっていない。

 周りの友人たちは夏の間に就職先を決め、内定承諾書を提出したやつしかいない。

 俺だけが置いてけぼりだった。

 就活を始めたのは周りのなかで最も早く、3年の夏前だった。


 理系の中でもそこそこな大学、頑張りさえすれば大手に行くのも難しくない大学。

 数をこなせば必ず俺を買ってくれる人がいると思っていた。


 実際2社目はとんとん拍子で内定(内々定が正しい)が出た。

 だが誰が見てもヤバさを感じる面接、社内の雰囲気。

 入社する気にはならなかった。



 友人たちは揃ってどこかで聞いたことのある大手企業に就職が決まっている。

 俺はもう焦りを通りこして毎日を淡々と過ごすようになっていた。


 中央線上り方面のホームに向かってエスカレーターに乗りながらカレンダーを見る。

「……はぁ」

 明日もどうせ落とされる面接が待っていた。

 考えるだけで気分が悪くなる。

 こればかりは仕方ない。

 とりあえず今日の必修に意識を切り替えなければ。


 ここ最近就活ばかりにリソースを割いていたせいで課題の提出期限に間に合わない、そもそも欠席なんてことばかりでそもそも卒業が怪しくなってきている。

 というか今日の必修は去年落とした単位の再履修科目であり、本気でまずい状況だった。


 先週も欠席してしまっている。

 今日は気合を入れなければ。


 自身の現状に嘆いているうちに気づいたらホームのいつもの立ち位置についていた。

 とりあえずパソコンなどが入ったクソ重たいリュックを肩から下ろし、両足の間に置いた。

 いつもこの時間に登校するときは俺の前に並んでいる人がいるのだが今日はいなかった。


 その人はいつも白と緑のボーダー柄の襟付きTシャツを着ていた。

 大体いつもその服装という訳ではなく、100パーセント同じ服装だった。

 確か去年の夏頃からいた気がする。

 もちろん冬も同じTシャツだった。

 正直寒そうだといつも思っていた。


 まあ毎回絶対にいる方が普通に怖い。

 たまにいない方が安心するというものである。


 そんなことを考えながらスマホで漫画を読んでいた。


 ふと前方から何か音がしたと思い頭を上げた時、普段スマホを落とすことなどないのだが、手からスマホが滑り落ちた。



 ――パキッ――


 瞬きをしつつ視線を落ちていくスマホに向け、再度頭を下に向けようとした。

 その瞬間聞き馴染みのない、大きな氷にヒビが入ったかのような音がした。



 スマホが地面に落ちた音は聞こえなかった。

 スマホを拾うため瞬きで閉じていた瞼を開けたがスマホはなかった。

 というか見慣れた駅のホームの地面ではなく芝の生えた地面が見えた。

 なんだかさっきまでより肌寒い気もする。

 何かが変だった。

 周りが静かだ。

 さっきまで雨が降りそうな天気だったが、目の端から入ってくる明るさからして明らかに快晴になっている。


 俺は顔を上げた瞬間、目に飛び込んできた景色に息を呑んだ。

 景色一面海だった。

 昔、小高い丘の上から撮ったかのような琵琶湖の写真を見ていつか行ってみたいと思っていたが、きっと今見ている景色のほうが壮大で綺麗なのではないかと思った。


 そんなことを考えている場合ではなかった。

 景色に目を奪われていたのも束の間、冷静になってくると頭が異常なほど回転し始めた。

 頭の中で言葉が溢れる。

 何も考えがまとまらなかった。


 ぐだぐだ考えた結果、理系大学生の通常の趣味であるオタク的知識からして、何かしらの転移が発生したと考えた。

「ありえねぇ」

 本当にありえないことだった。

 現代日本で転移だのそれらしいことを本気で話している奴がいたら痛いヤツに見られて終わりだ。

 だが、さっき起きた事を考えていたときに辺り一面を見渡したが、やはり見覚えのある景色ではなかった。

 しかも文明による痕跡すら見当たらなかった。

 昔見た琵琶湖の写真ではすぐ横に田んぼがあり、建物も結構あったような気がする。

 そもそもここは、潮の匂いが何となくするからとりあえず琵琶湖ではないだろう。

 いや琵琶湖は海と繋がっていて潮の匂いがするみたいなことを聞いたことがあるような気もする。

 俺はさっきまで東京のど真ん中に立っていた。だが気づいたら知らない土地に立っていた。

 

 やはり瞬間移動をしているのは間違いない。

 このだだっ広い景色からして日本かどうかも怪しい。

 瞬間移動、転移、どっちかわからないがファンタジーでしか聞かない事が起きてしまっている時点でそもそも自分の知っている世界かどうかも怪しい。



 ――ギュンッ――


 突然どこからともなく現れた赤黒い飛翔体が目の前を空気を切り裂きながら通り過ぎていった。

 その姿はまるで、俺が小学生の時、某筋肉芸人がCMをやっていた一狩りするゲームの毒の尻尾を持ったドラゴンのようだった。


 日本ではない事が確定した。

 というか異世界だった。

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