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第1話 転生したぜ

「だっはははは!」


 俺の笑い声。


「グオオオオオ!」


 続けて魔獣の断末魔の叫びが響き渡った。


「ふぅ。いっちょあがり!」


 剣を鞘に戻し、パンパンと手を払いながら砂埃を払う。


 肩の力が抜けたように見えるかもしれないが、そうだ、その通りだ。俺は目の前の魔獣を倒したことで警戒を解いた。戦いは決着したのだ。


「だーっはっはっは!」


 いつものように勝利の笑いも響かせる。


 俺、青山天成あおやまてんせい。今はルリヤという名前らしいが、詳しいことは知らないし、わからない。


 とにかく、そんな俺は、俺としては、悪役っぽくカッコつけて笑っているつもりなのだが、どこまでも響くかわいらしい声のせいで、はしゃいでいるようにしか聞こえない。


 音としては、だーっはっはっは! だが、雰囲気としては、キャッキャって感じだ。


「……」


 こう、冷静に分析すると複雑な気分になる。


 だいぶ慣れてきたとはいえ、まだまだ違和感はある。


 そう、元の俺は青山天成。俺という一人称や名前からしてもわかることだが、俺は前世では男だった。


 だったと言うからには覚えているのかと聞かれそうだが、そうその通り、覚えている。俺は、前世の青山天成だった頃のことをはっきりと覚えている。


 だからこそ、未発達な肉体である幼女の姿をして、山に住まう魔獣や魔物を相手に、勇ましく戦いを繰り広げられるのだ。


 まあ、今の見た目じゃ、それを信じる者はいないだろう。それに、戦いを繰り広げようがなんだろうが、見た目がただの幼女。それも金髪碧眼の美しい幼女。俺も川の水に反射する姿しか見たことはないが、かなりの美人さん。そんな幼女では、どれだけ勇ましいことをしていてもカッコはつかない。


 そもそも、誰かが見ているわけではないのだから、カッコをつけても仕方ないだろと言われればそれまでなのだが……。


 兎にも角にも、俺は元男で、今は幼女になっていて、それでいてここは異世界なのだということだ。


「日本じゃ剣は振れないだろ!」


 とセルフツッコミを入れながら、話を進めていこう。


 そう、そうだ。剣道でもやってなきゃ日本じゃ剣は振れない。


 もっとも、俺は剣道部ではなかったので、どちらにしろ剣は振れないのだが……。それでも、今は剣を振れる。異世界だから。


 これが俗に言う転生特典というものなのだろうが、ありがたい限りである。男でイケメンで、それでいて美少女にモテモテならなお良かったのだが、あまり欲張ったことを言える立場ではない。生きているだけで御の字だろう。


 誰の力も借りずに山の中で生きていけるという状況は、俺がかつて男だった時でも難しいことだと思う。


 その辺の知識は全くと言っていいほど持ち合わせていなかったが、なんかこう、それなりにうまくいっている。これもきっとチートってやつだ。


 突然、日本の見知らぬ山の中に放り込まれた時よりよほどピンチなはずだが、決してそんなピンチがピンチにならないような状況。


 魔獣の相手だって、これまでピンチに追い込まれたことは一度もない。そもそも、一撃で倒せなかった相手は一体もいない。


 ちょっとチートやりすぎだよって感じだが、俺はバトルジャンキーじゃないので、ギリギリの戦いを続けていたら、今のような精神状態は保てなかったことを思うと、これも神様に感謝するところだろう。


 そんなわけで山暮らしでも特段困ってないから、キャッキャウフフと魔獣を狩り、魔物を狩る。一日のほとんどを寝て過ごし、必要になったら飯を食う。その日暮らしのニート幼女みたいな感じだ。


 まあ、成長途中で前より睡眠時間が必要ってことなのかもしれないが、俺はあくまでもう高校生だ。幼児じゃない。と言い聞かせても、肉体が幼いので抵抗もできない。


 そういえば、現状を打破する方法は見つかってない。こんなことを言うと、ピンチに聞こえるかもしれないが、別にピンチでもない。


 かつて、日本で暮らしていた時だって、俺は別に、その現状をどうこう出来るような方法を知らなかった。だから当時となんら変わらない。むしろ、今は自分一人の力で生きていけるからか、快適度は高いとも言える。


 案外サバイバル特性があったのかもしれない。いや、これもまた神様の授けものってところか。俺は枕が変わると眠れないタチだったからな。


 そんじゃ、どうして転生なんかしたのか、高校生が寿命がきたのかって質問が飛んできそうだが、そんなことはない。


 俺が今、こうして幼女ライフを送っていることに対しては、流石に心当たりがある。


 それは、俺がまだ男だった時、いつものように妹の荷物持ちとして買い物に出かけていたある日のこと。


 俺はトラックに轢き殺された。


 いやなに、俺から突っ込んで行ったわけじゃない。歩道を歩いていたところに、トラックが突っ込んできたのだ。だから妹の代わりにぶつかった。それだけだ。


 いや、それだと俺から突っ込んで行ったことになるのか……?


 とにかく。そのままでは轢かれるのは妹だった。だから俺は妹を突き飛ばして、俺がトラックに轢き殺されたんだ。


 兄なら当然のことだろう。


 まあ、そんな当然のことをした代償として、俺は女の子になってしまったというわけだ。


 おそらく輪廻的なアレでは、妹が死ぬはずだったから俺は今女の子なのだろう、と推理している。


 そう考えれば、俺は神に一矢報いたことになるのだろうか。だからなんだって話だが……。それに、兄が妹をかばうことくらい想定しておいてほしいものである。


 まったく、やれやれだぜ。


 それでも、俺が代わりに犠牲になったおかげで、妹をこんな山暮らしさせることなく済んだと考えれば、やはり良かったのだろう。


 どちらにしろ、今となってはそんな経緯どうでもいい。最悪、日本に帰れなくったって俺は構わない。


 ただ、一つだけ気がかりなことがあるとすれば、妹の無事を確認できなかったことだ。


 助かったのかどうか、それだけだ。


 一緒に転生していないところを見れば、きっと大丈夫だったのだろうが、それしか言えない。それくらいのことしかわからない。


 今さらどうして、こんなことを考えているのかわからないが、俺は今日のハントを終え、生活する小屋へと帰っていた。流石にもう笑ってはいない。ずっと笑ってたら、魔物が寄ってきて面倒だ。


 ふと、古屋が見えてきたというところで、うわさが耳に入ってきた。


 この近くで、黒髪の女の子が、ドラゴンと戦っているらしい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文から、主人公は山深くに一人で暮らしてると思ったのですが、どうやって誰から噂を聞いたのですか? いきなり山に幼女としてポップしたのか、生まれ直して赤子から生きてたけど逃げたか捨てられ…
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