イージーモードなんかじゃなかった
異世界転生失敗例。
リーシャは前世日本人だった。年若い時点で病気が発覚し、しかも進行度合いが最早手遅れレベルまでいっていたが故に若くして亡くなった単なる転生者である。
そんなリーシャはなんと神が住む世界に生まれ落ち、そこで女神となった。
神の仕事は多岐にわたるが、その中の一つとして世界を管理するというものがある。
神の数だけ世界が存在し、いかにその世界を発展させるかを競うのだ。
発展させるとなると、やはり知的生命体がいなければ中々世界は発展しない。
だがしかし、神と言われても多くの神は自在にその力を使いこなせるわけでもなかった。
知的生命体として、ヒトを作ろうとしたらうっかり力加減をミスって出来上がったのがゴブリンという魔物であったりだとか。
ちょっと河川を広げようとしただけなのにその瞬間くしゃみしたら勢い余って周辺の大陸が消滅したりだとか。
何をするにしても、力の使い方は細やかにとなれば高確率で失敗する。
神は大抵強大な力を持っているので、力を制御するという事がとても大変だったのである。
リーシャも最初は慣れない事に力を無駄に使ったりして全然思った通りに発展してくれなかったけれど、それでもコツコツとやっていればある程度は慣れてくる。
そうしてある程度順調に発展させてきたが、リーシャの順調さとは裏腹に世界の発展は伸び悩んでいた。
物事は大抵、やり始めた最初あたりは勝手がわからずわたわたしながら進んでいくが、ある程度慣れてくればそこそこ楽しさも見出せるようになってくる。
だがしかし、そんな順調さに事態がついてきてくれるか、となると話は別で。
最初は順調だったダイエットが、ある日を境に何やっても全然減らなくなっちゃった、だとか、最初は楽しかったんだけど終盤に差し掛かってきたあたりでもう新鮮味もないしこのゲームもう飽きちゃった、なんて感じのやつに近い。
終わりが見えてきて、その終わりを見届けるのが何となく寂しいから、というのにも似ているが、世界は別に終焉を迎えようとしているわけではないのでこの例えは違うだろう。
世界を発展させるにしても、神としてのルールがある。
リーシャはルールに反しないよう気を付けながら、今の方法ではこれ以上の発展は見込めないし……となったので新たな手段を試す事にしたのである。
といっても、そのどれもが結果としては残念な事になってしまった。
世界に大きな傷痕を残したとまではいかないが、しかしそれでも今までの順調さと比べるとここしばらくはずっと何の変化もない状態なのだ。
他の神の世界はどうやらそれなりにイイ感じに発展しているらしく、他の神同士のやりとりが聞こえるとどうしてもリーシャは焦ってしまっていた。
自分一人だけが上手くできない、となると周囲から落ちこぼれ扱いをされてしまうかもしれない。
そも、神だなんて言われているがその性格は人間と然程変わらない。つまりは、優秀な相手は褒め称えられるけれど落ちこぼれはそりゃもう馬鹿にされたりクスクス嗤われ下に見られるのである。
神様がいじめなんてするはずない、と思うのは大間違いだ。
そもそも、前世でだって神話あたりでそりゃもう争ってるしやらかしてるエピソードなんてのは国を問わず多数存在していた。厄介なのはただの人間と違って力を持ってる事だろうか。人間がやらかす虐めより内容が予測できなかったりして対処に困る。
リーシャは今、ちょっと馬鹿にされてる程度で済んでいるが、いつまでもこの状況に甘んじていればより悪い方向へエスカレートするのは目に見えていた。
そういった焦りも確かにあったからこそ。
リーシャは、異世界の魂を引っ張って転生者に頑張ってもらおうと考えたのである。
前世の日本のライトノベルでは一つのジャンルと言っても過言ではなかった異世界転生。
転生した事に気付いた人たちは、ある時は己の運命をどうにかしようと悪戦苦闘したり、またある時は生活水準の低さを何とかしようと前世の知識を用いて発展させ悠々自適なスローライフを送りつつハーレム作ったり。
ほのぼの系から手に汗握るタイプのお話まで、そりゃもうたくさんあったのだ。
そういった事に馴染みのある魂をこちらの世界に引っ張り込んで記憶を持たせたまま転生させれば、この発展途上どころか発展してんの? ホントに? と言いたくなる自分の世界にもきっと変化は訪れるはずだ。
リーシャもまた前世でその手の話をいくつか見ていたこともあって、期待値は高かった。
異世界からの魂を自分の世界に引っ張って転生させる事について、特に違反はしていない。
他の神々はその手段を選ばなかった。方法を思いつかなかったのか他に理由があったかは定かではないがリーシャからすれば知ったことではない。
ともかくここらで一発ドカンと変革を迎えなければならないのである。
その変化が、世界を発展させてくれることを信じて。
――結論から言おう。
大失敗だった。
わざわざ前世自分が生きていた世界を探し出して、そこから丁度いい感じに召されたばかりの魂を、また同じ世界で輪廻する前に自らの世界に引き入れたというのに。
全滅した。
皆が一度に死んだわけではない。
転生先はそこそこバラけさせたし、転生者同士で争って殺しあったわけではない。
ほとんどが自滅である。
そんな事ってある? とリーシャは言いたかった。実際呟いた。でももうどうにもならなかったのだ。
まず一人目。
彼は平和で牧歌的な村で生まれ育った。
生まれた時点で前世の記憶を持っていたので、成長したら大変革とまではいかなくても村を発展させてそこから周囲も……と期待していたのだが、彼は早々に死んだのである。
死んだ原因は何か、と聞かれれば水だ。別に溺死はしていない。
村には水を浄化する魔石が埋め込まれた給水塔があって、村の飲料水はそこから賄われていた。
各ご家庭に水道があるわけではないので、必要になったら水を入れる容器を持参し給水塔で水を得る。
一人目の彼は完全に忘却していたのだと思う。
水道水を飲んで安全なのは日本くらいなものであって、海外だと場所によっては飲み水に適さないという常識を。
家庭に水道がなかったからこそ、給水塔に水をもらいに行ったとして、それを不便だと思いはすれどもそこ以外での水はそのまま飲むのに適したものではない、という事を完全に失念していたのであろう。
村を出てすぐのところの山で彼は、湧水を見つけた。
泥が混じってるでもない、綺麗な湧水である。
山の中を移動してそこそこ疲れつつあった彼は、その湧水を見て何の警戒もなく水を手で掬い、飲んでしまった。
水の匂いも特におかしなものではなかったから、完全に油断していたのだろう。
その後彼は腹を壊した。
トイレに籠り胃の中の物を全て出し切ってもなお腹痛は収まらず、最早尻から出るのは液体ばかり。脱水症状を起こし、体内の水分が少なくなってきたことで発熱し、脂汗やらもかいた挙句意識が朦朧とした状態でトイレの中で意識を失いそのまま死んだ。
正直死因としては割とどうかと思う死に方である。
大酒飲みだった戦国武将が厠で死んだ、なんて逸話があった気がするが、正直似たカテゴリなのにこちらの方がしょぼすぎて余計にしょっぱい死に方ですらあった。
いや確かに日本でも湧水が飲めるところはあるけれど。
けど、どこでもどの湧水でも安心安全というわけではない。
場所によっては獣が水飲み場として使う事もあり、その獣が所有する細菌だとか微生物が水の中で繁殖し、結果人間が飲んだらヤバイ、という状況になっているところも普通にあるのだ。
そう、たとえばエキノコックスとか。
顕微鏡でもなければ微生物など人間の肉眼で見えるはずもないので、見た目がいくら綺麗だろうとも安全が確保されていてここは飲んでも大丈夫ですよ、となっているような所以外の湧水や川の水はそもそもいくら綺麗でも飲んだら危ないのである。
海外旅行に行ってうっかり水道の水を飲んでお腹を壊した、なんてエピソードをリーシャは確かに耳にした覚えがあった。前世で。
けどまさか、異世界転生した相手がこんなところでポックリ簡単に逝くとは思っていなかったのである。
いやだって、異世界よ?
生活水準としてレベルは前世の日本より低い異世界よ?
そんなの自分が生活してたら嫌でも理解するしかないし、前世の記憶があるなら余計にこう……えぇ!?
と、最早言葉も出てこないレベルである。
二人目の死因も、なんというかなものであった。
確かにリーシャの世界は生活レベルが低い。前世と比べると戦前か? と言いたくなるくらいに低い。
産業革命だの工業の効率化だの、まずそこまですらいっていないのだ。
まぁそこに至ったら至ったで今度は環境問題が生じるのは明らかなのだが、それでも世界を発展させなければならないのでリーシャはともかく前世の記憶を持つ転生者には頑張ってもらうしかなかったのだ。
二人目の転生者は前世、ちょっといい大学出身者であった。
それもあってそりゃもう期待値も高かった。
だが死んだのだ。
原因は、TKG――そう、卵かけご飯である。
ちょっといい大学に通っていても、しかしこの二人目勉強以外はからきしというタイプであった。
生活能力が極端に低かったのである。
しかも前世と比べて便利な家電はないし、魔石を用いての魔法めいた事は出来ても魔法を使える人間はほんの一握りで二人目は魔法を使えなかった。
だからこそ、幼い頃から面倒だとぼやきながらも二人目は家事をしてきたはずなのに。
それでもやはりどこかだらしないのが抜けきらなかった二人目は、成人して独り立ちした後もその生活はどこかだらしないものだった。
服とか洗濯するにしても、まぁまだそこまで汚れてないから大丈夫っしょ、で同じ服を一週間以上着たままだとか。風呂も毎日入るという習慣がこの世界にまだなかったこともあって、二人目はそういうところにはすんなり順応していたくせに、それでも抗えなかったのが卵かけご飯である。
行商人が売りに出していた米は、二人目が暮らす国では珍しいものだった。
けれども米を見て、二人目は前世の事をより強く思い出して米を買った。
前世の食事が恋しかった結果、米を得た事でその欲望は強くなり、そうして家に帰るなり家に保存されていた食料の中から卵を取り出して――
卵かけご飯を作ったのである。
醤油に関しては前世と同じものではないけれど、似た物があったのでそれで代用はできた。
できたのだけれど……
二人目は忘れていたのだろうか。
そもそも卵を生で食べても大丈夫なのは日本くらいであるという事を。
そうでなくとも二人目が家に確保してあった卵は、鶏ではない。この世界特有の生き物の卵で、それは鶏のものよりも若干大きかった。
卵の表面上の汚れは確かにきれいに拭かれていたけれど、しかし完全にきれいになったか? と問われれば微妙である。
しかもその卵は、既に数日経過していて新鮮かと問われればそれもまた微妙であって。
勿論、焼いて調理をするなら食べる事には何も問題がなかったと言える。
けれど、二人目は前世の食生活を強く渇望していたのだろうか、色んな事がすっぽ抜けたのか、生で食べるにはどうかと思うその卵でもって卵かけご飯を作って食べてしまったのである。
そうだよこれだよこれ、なんて満足そうにしていたけれど、その卵、ちょっと古くなってますよ……?
だが、懐かしき卵かけご飯の魅力によってそんな事すら吹っ飛んでいたのだろう。
完食した二人目は、その後見事に腹痛に見舞われ食中毒からの死亡という流れを決めてみせた。
前世と違ってここは水も食料もそれなりに危ない物がある、という事実を忘却された結果だった。
異世界と思わずともせめて海外くらいの認識でいてくれれば助かる道はあったかもしれないのに。
何かを成す以前に既に二人も転生者が死んだという事実にリーシャだって頭を抱えたくらいだ。
だがしかし、他の転生者に望みを託そうにも他の転生者も死んだのである。
三人目の死因は、二人目同様食品関係と言えばそう。
塩が原因だった。
三人目の前世、死ぬ直前はちょっといいところで会社経営していた社長さんであった。
人を率いる事に長けているとあって、リーダーシップを発揮して革命を起こしてくれないかなぁとリーシャはとても期待していたのだ。
だがしかし、三人目のシャッチョさんは若くして死んだ。会社を設立するとかそういう以前に死んだ。
日本人の食生活は和食中心であれば概ねヘルシーと海外からの評価も高かったが、だがしかし気を付けなければならない部分も勿論存在した。
それが塩分である。
お味噌汁だけならともかく、おかずに焼き魚だった場合、人によっては塩焼きだったり醤油ぶっかけたりして食べる事もあってか、油断してると塩分過多。
若いうちはそれでも運動して優れた代謝でもって汗を流して、水分補給して、となればまぁどうにかなっているけれど、しかし中高年になると中々身体を動かす機会はないのである。
若い頃は身体を動かせとばかりに下働きもあるけれど、年を取って管理職などの役職がついたらデスクワークが主流になったりする。
そうなると、動く機会がないのだ。
動かないから体力が徐々に落ちていって、ちょっと動くだけで息切れしてくるし、代謝も若い頃と違ってがくんと落ちる事で、若い頃より食べてないのに簡単に太る、なんてのもよくある話。
三人目は転生前、健康診断でいくつかの数値が引っかかって再検査した後、塩分を控えろという診断が下された。一度や二度ではない。健康診断のたびにそこだけ再検査されて改めて塩分の取り過ぎですと確定された診断が出るのだ。
一応、健康に気を付けてはいたはずなのに。
妻からも娘からも「お父さんそれ塩分とり過ぎなんじゃない?」と事あるごとに言われていた。
そんな前世の記憶を持って転生した三人目は、幼い頃から健康に気を付けようとして塩分をとらない食生活をしていた。
日本だったら、とらないようにしてもなんだかんだ摂取しちゃうから、それくらいの意識で丁度良かったのかもしれない。
だがしかしここは異世界。
食生活は日本食とは異なっていて、塩分はむしろとる方向性でなければいけなかったのだ。
塩、つまりはナトリウム。そこに含まれるミネラルだとか、リーシャはふわっとしか知らないが、ともあれそれが身体に必要なものであるのはわかっている。
必要だけどとりすぎだから気をつけなくちゃね、というものである事も。
だが三人目はそれを摂取しないようにとしていた。
結果として塩分欠乏症となり、健康被害を起こして死んだ。
そういや前世だと塩断ちなんて言葉もあったっけな……とリーシャが思い出した時には三人目は完全に手遅れだった。
四人目も似たような理由で死んだ。
四人目は少々特殊で、人間ではなく獣人として生まれ落ちた。
前世の記憶を幼少期に思い出して、自分が獣人だという事実に驚きながらも異世界ライフを楽しもうとしていた前向きな人だった。
前世の知識を用いて生活に色々な工夫を凝らしていた四人目に、女神は大分期待していたのだ。
けれども四人目は獣人として生まれてその事実を知っていながら、それでも意識は人間のままだった。
こちらは全く塩分をとらなかったわけじゃないけど、足りなかったのだ。
四人目の子は、牛の獣人だった。
獣人だから、もしかしたら普通の牛とは違うと思っていたのかもしれないけれど、それでも動物の牛と似通った部分はあったのだ。
肉が食べられないわけじゃないけれど、それでもどちらかといえば野菜を好んで食べていた。それくらいなら問題は何もなくてヘルシーな食生活、と思ったかもしれない。
ところが牛に限らないけれど、草食動物の一部は塩をしっかりとらないと発狂する事になったりもする。
これも三人目の塩断ちと近い感じかもしれない。
日本人の感覚で塩は控えるべし、みたいな意識があったが故の、三人目と似たような原因だった。ただ、こっちのほうがより多く塩を摂取しなければならなかっただけで。
普通の人間だった時よりも水を多く飲む事もあったから、やっぱその分塩分も摂取しないといけなかったのだ。夏、熱中症にならないようにと水分だけとってだが塩分の摂取はしなかった、みたいなオチがついてしまった結果だった。
五人目も獣人に転生した。
そして、行商人から買ったお菓子を食べて暴走した後死んだ。
買ったお菓子はチョコレートで、食べたのは馬の獣人だった。
六人目は犬の獣人で、ハンバーグを食べて衰弱した後死んだ。
ハンバーグの中に入っていた玉ねぎが原因だったのは言うまでもない。
七人目は猫の獣人に転生した。
彼女は猫に玉ねぎはアウト、と理解してはいたけれど、しかしそれ以外はさっぱりだったらしい。
旅先でパパイヤとマンゴーといった果物盛り合わせを食べたのち、口腔内が荒れたにも関わらずその後アボカドを使った料理を食べて嘔吐し、更に呼吸困難に陥って死んだ。その料理にナッツも含まれていたから余計に効果は倍増していたのではないかと思われる。
普通の猫ではなく獣人であるが故に、ほんのちょっとくらいならまだ大丈夫だったのだ。精々味見程度にちょっとだけ、くらいなら助かる可能性はあった。
だがしかし、ガッツリ大量に摂取すればその分毒となる成分も多く体内に入るわけで。
他の獣人たちも大抵何らかの食べ物が原因で死んでいたので、リーシャは思わず天を仰いだ。
人間が食べて平気でも動物には与えちゃいけない食べ物は沢山あるし、その逆もまた然り。
頭でわかっていたとして、ではどの食べ物がアウトなのか、までを知らなかった獣人転生した者たちは軒並み全滅したので、リーシャはもう獣人に望みはないなと諦めた。
だがしかし、人間に転生したからといって安心できるわけでもない。
とある転生者は道を歩いていた時に馬車の暴走に巻き込まれて死んだ。
日本のように歩道と車道が分かれていたわけでもないので、ぼーっと空を見上げながら移動していたこの転生者が油断していたと言えばそうだが、周囲であれだけ馬が暴走した! とか早く逃げろ! とか色々声がかかってたのに他人事だったのだから、そりゃ死ぬわとしか言えなかった。
馬は、臆病な生き物である。
賢く人に寄り添える生き物だけれど、臆病さがそれでなくなるわけではない。ちょっとしたことで怯え暴走する事もあるのだ。
そして人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ、という言葉があるように、馬の蹴りは食らえば最悪死ぬ。馬に限った話ではないが、動物の脚力を舐めた場合骨折で済めばいいが最悪死ぬ。
そうでなくともパニクって加減も何もない馬の暴走アタックを自分には関係ないだろうと思っていた時点でそりゃ死にますわなぁ……とリーシャは思うしかなかったのである。
ちなみにこの転生者の前世の死亡原因は、コンビニで立ち読みしてたらそこにアクセルとブレーキ間違えた車が突っ込んできた結果の死である。
資料を確認して「あっ、あぁ~……」とリーシャがなってしまったのは仕方がなかったのかもしれない。
だって車が突っ込んできてるのわかってるのにそれでもまぁ大丈夫だろうなんて思ってそのまま立ち読みを続けていたのだから。いや逃げろよ。最終的に車がきちんと止まったかもしれない可能性があったとしても勢い余って突っ込んでくる可能性もあったんだから回避しろよ。
道を歩いているなら歩行者をわざわざ轢きにこないと思い込んでる節があるようで、その結果がこれと言われればもう納得するしかない。
次の転生者はというとまたもや食べ物関連である。
魚を生で食べた。
ただそれだけだ。
とはいえ、前世で、日本のスーパーで売ってる刺身盛り合わせだとか、鮮魚を購入して捌いて刺身にするだとか、はたまた飲食店でお刺身を提供してもらうだとかであれば何も問題はないように思えるが、何度も言うがここは異世界で、文明レベルは前世の日本と比べると大分劣っているのである。
ぶっちゃけると食品衛生やら品質管理だとかの法がまだきちんと出来上がってすらいない。
大体鳥の卵だって生食はやめておけ状態のところなのだから、リーシャからすれば魚を生で食べるというそれも何故やっちゃったんだ……となってしまうわけで。
そもそも前世でもスーパーでお魚を買う時に一応注意書きがされていたりする。そう、寄生虫に関してである。
生で食べて大丈夫なやつでも場合によっては寄生虫の危険があるが、生で食べる事を推奨しないやつに関してはアニサキスあたりの注意書きが売り場に存在しているはずだ。といってもそう大きく目立つように表示されていないから、見ない人はマジで見ない、といった感じではあるが。
これだって海外で生魚を食べたことで寄生虫に、なんてニュースがあったくらいなのだから、異世界という以上そこら辺もっと気を付けてほしかった。
寄生虫、というそれをそもそもこの転生者の周囲の人間が理解していなかったので、対処法もロクにわからずこの転生者は最終的にご臨終した。
その次に至っては、フグが原因での死亡である。
異世界だろうとなんだろうとフグには毒がある。リーシャが作ったこの世界ではそうだった。他の世界は知らん。
内臓を取り除けば毒に関しては問題ない、という大雑把な知識だけで調理して、結果まんまと失敗した。
前世でフグを調理するのに資格が必要だというのはつまりそういう事なのに……とリーシャは思ったがもう死んでいるので手遅れである。
更には毒キノコを食べて死んだ転生者もいた。
どうして……どうして……最早嘆くのがデフォルトである。
毒抜きをすれば食べられる、とかそういうこっちゃないんだよ。
毒があるっつってんだろ。やめて。マジでやめて。
前世の記憶があるが故に、前世の食生活が恋しくなっちゃったのかもしれないけど、ここは異世界。
確かに前世の日本、というか前世の世界にあったであろう動植物もそれなりに存在しているけれど、全部が全部同じというわけではない。
特にキノコなんて図鑑を見たところで食べられるキノコは極一部、それ以外は毒があると確定しているものと、毒があるかどうか、食べられるかどうかも不明なキノコがたっぷり、といった具合である。
前世ですらそれなのだから、異世界のキノコだっていくら見た目が似ていたとしても、見た目がそっくりな別種である可能性は普通にあるのだ。
生憎リーシャは世界を作った時にそこまでキノコに対して造詣が深いわけでもなかったので、そこら辺は大雑把に作った後キノコの繁殖力に任せる方向性にした。
キノコの毒成分というのは多岐にわたっているからか、前世の世界の科学技術をもってしても未だにわからん、とかいう状態の物も数多くあるというのに、専門家ですらない素人が軽率にうろ覚え知識で手を出した結果がご覧の有様である。
いやまぁ、こちらの世界、毒殺とか割と嫌な感じにポピュラーなので下手をすると前の世界よりキノコに関してはちょっとだけ詳しくなっているかもしれないけれど。だがしかしリーシャには本当にそうなのか判別がつかなかった。
食べ物関連でやたらバタバタ死んでいくが、それ以外の死に方も勿論ある。
風邪を放置して死んだとか。
前世だったら風邪なんて寝てれば治る、で病院にもいかないで実際治した人もいるだろうけれど、しかし何度も言うがここは異世界。
前世と生活水準を比べるとまだまだ下だし、衛生観念だって最近ようやくちょっとだけ向上しつつあるかな……? というような状況なのだ。
ちょっと前までそりゃもう不潔にしてあったせいで繁殖しちゃいけない菌が繁殖して人に感染、なんていう伝染病だって多発していたので、それと比べれば確かに風邪は大したことがない、と思うのかもしれない。
だがしかし、医療技術だって前世の世界より劣るこの世界で。
風邪は万病のもと、とも言われているのにそれを放置しちゃダメでしょう、とリーシャは今更すぎる呟きを零すしかなかった。
前世なら風邪を引いたところで病院に行かなくともドラッグストアで風邪薬を買えば済む話だ。
人によってはセットで葛根湯だとかの漢方や、薬と一緒に飲むのに栄養ドリンクを買ったりもするだろう。
薬を飲んで栄養をとって、温かくして寝てれば確かに症状が重くなる前ならあっさり治るだろう。
けれどもこの世界、総合感冒薬はまだ開発すらされていないし、お薬はとても高価な物なので。
気軽に買おうと思っても買えない人が沢山いる。
なので基本的に人は健康を維持するために身体を鍛えるしかないのである。
薬が買えなくとも風邪を引いたとして、必ずしも死ぬわけではない。
だがしかしこの転生者はあまりにも風邪を甘く見ていたのだ。
薬がない? ま、飯食って寝てればそのうち治るだろ、で普段通りの生活を行うまではまだいいのだが、結果として夜、仲間内での賭博などを酒場でやらかした結果、睡眠不足からくる体力の低下で更に悪化した。馬鹿なの!? とリーシャが叫んだのは言うまでもない。
直接介入したくとも、転生した魂に神様直々に何かをするのは余程の理由がないといけないので、健康にもっと意識を傾けろなんていう忠告をするだけの関わりをすれば、リーシャより上の立場の神様に自分が叱責されるのだ。それは困る。
結果として風邪に抗う体力を自業自得で消耗し続け、しかも弱った体に酒は百薬の長とかのたまってちゃんとしたご飯を用意する体力もなくなったからと安酒飲んで回復を目論もうとしたようだが。
まぁ、死ぬよね。
そのお酒もお貴族様御用達だとかのまともな酒ならまだ助かった可能性はあるけれど、いかんせん庶民が入手できる酒は実のところそこまで出来がよろしくない。
アルコールに関してそもそも飲むのに向いてない、なんてものを混ぜ込んで濃度だけを高くしました、みたいなこれまた前世の世界でも確かにそういう話があったような気がするけどぉ……みたいなのが当たり前のようにまかり通っているのだ。
元気な時なら多少そういった物を摂取してもまぁどうにかなったかもしれないが、弱ってるところにやっちゃうとまさしく弱点にダイレクトアタック。
病気関連で言うのなら、風邪以外でも転生者が死んだ例はあった。
その転生者はある程度健康に気を使うタイプではあったけれど、あくまでもそれは食生活に気を付けるだとか、睡眠をしっかりとる、という範囲での話で。
知り合った女性とちょっといい仲に発展して、まぁそういう行為に及んだわけだ。
結果、性病で死んだ。
同じ人間同士なら、相手が性病に罹ってない、とかであれば問題はなかったかもしれない。
だがしかし、この転生者が知り合った女性は人間以外の種族で、その種族が持つウイルスが転生者に感染したのである。
保菌者でもある種族は、しかし昔からそうなので免疫がある。なので、同じ種族同士での性行為であれば何も問題はなかった。仮に他の種族と、となったとしても、人間以外の種族ならまだ問題はなかったのだ。
ただ、人間だけがその菌に対する免疫がなかったのである。
動物がかかった病気が人間に感染しにくい、という感じだろうか。
前世でも動物同士ならともかく人間には本来感染しないはずのそれが感染した事で爆発的に感染者が増え、死者が大量に……なんて話はあった。
本来ならば感染しないはずのそれが何故、となった時、その菌を持つ動物とよりにもよって性行為をしでかした事でその菌に感染し、しかもその本人はそれを理解しないまま他へ感染させていき……と感染してもすぐに症状が出ないタイプだと気づいたときには既に手遅れなんていう地獄が待っている。
その種族と性行為をした転生者は、そもそもその種族が人間にとって不吉な種族として言われていた事は知っていた。けれども、それでも惚れて、そんな呪いなんてあるはずがない。俺が証明してやる、と大層格好いい事を言って結ばれたのだが。
まぁ、ファンタジー世界あるあるな魔法とかそっち方面だったらまだしも、実際は普通に免疫を持ち得ないウイルスに感染した結果の死である。
免疫を持っていれば、以前にまずその種族と人間がどうして常に結ばれないのか、の原因がその菌であり人が免疫を持たないから、という結論にすら至っていないのだ。
いくら言葉が通じるからといっても、人間とそれ以外の種族は、大まかに人の形をしていてもその中身はかなり異なる。
獣人の一部は人と同じ食事ができないし、また獣人以外の種族とて人とは異なる生活環境に身を置いていた事で、持ち得る菌も免疫も異なっている。
故に異種族と関わるのであれば注意してしすぎる事はないのだが。
何故か転生者はそういった部分がすっぽ抜けているのだ。
多分、前世の知識が原因だとは思うのだが。
前世でリーシャが沢山履修した異世界転生や転移物の作品だと、異種族とも普通に交流できていたし、食べ物に関してだってみんなが同じものを食べていた。
犬や猫の獣人であっても平然とハンバーグを美味しいと食べるしカレーも食べるしチョコも食べる。
そういった作品の大半は、獣人であって動物そのものではないから、という理由がついていた。確かにいちいちこの種族はこれが食べられなくてあっちの種族は~なんて細かな制約がついてしまえば、ふとした日常会の話がひたすら面倒な話になりかねない。
いや、そういう話であっても、主人公がでは皆が同じように食べられるように、とアレルギーの除去食を作るがごとく苦心して、最終的には皆が笑顔でフィナーレ、なんて作品もあるのかもしれないが。
食べ物や病気関連で、転生者たちの認識がやけに甘く、というかぽんこつになって死ぬ例がこの時点で多すぎて、リーシャが引き入れた転生者の魂はこの時点でほとんど死んでしまっていた。
まだ残っていた転生者たちも、やれ己の実力を見誤って魔物と戦って死ぬだとか、自分は大丈夫だと根拠もなく思い込んで事故に遭って死ぬだとか。
酷いのはたまたまエルフに転生した転生者の魔法実験失敗事故だ。
異世界に転生して魔法が使えるとなれば、そりゃもう使うのはリーシャでも気持ちはわかる。
現にそういう作品だって沢山あったから、わかりすぎるくらいにわかるのだ。
だが、この世界の魔法というのは想像したことがポンとできるようなお手軽なものではなく、こういう現象を起こすからその結果こうなる、みたいな割としっかり考えてやらないと軽率に失敗するタイプの魔法なのである。
最初からでっかい魔法を使って、なんて事はしなかった。
最初はあくまでも小さな事から。
だが、そうやって成功を積み重ねた結果、その転生者は失敗する可能性を低く見てしまった。
転生者がその実験をやろうと思ったのは、ある夏の暑い日の事であった。
室内に風を循環させて温度を下げようとしたまではいい。
普通に風を一方通行で発生させるだけなら簡単だったのだが、そうなるとずっと風を起こさないと風が止まれば途端に暑くなるので、それこそ首振り扇風機やらサーキュレーターのような感じで室内で風を循環するような感じにすればもっと快適になると思ったのだろう。
最初は緩やかな風だった。
それが室内でゆぅるりと巡っていくのだ。
ただこの時点では風が弱すぎてぬるま湯通り越してお湯のような熱い風だったので、もう少し勢いをつけて冷たい風を起こそうとしたことで。
室内の物がその勢いで飛ばされる、くらいであれば可愛い方であった。
だがしかし、勢いが強すぎたのだ。
それこそ転生者も想定していなかったくらいに。
確かに冷たい風になった。
だが同時にその勢いは最早生活魔法ではなく攻撃魔法と化して、室内でミキサーみたいに風の刃が循環した結果。
術者である転生者の肉体もずたずたになったのである。
死んですぐに術が止まればまだしも、ややしばらくは発動していたせいで。
後になって他の家の者が様子を見に来た時、室内には血が飛び散り肉片がそこかしこにへばりついているような状況であった。
あまりにも凄惨な死に方をしたため、まさか魔法を失敗した結果の自殺みたいなものではなく、何者かが殺したのではないか、という疑心暗鬼がそのエルフの集落で発生したほどだ。なんて傍迷惑な。
結果として魔法の痕跡を探る術で調べた結果魔法の失敗による自滅と判明したが、それにしたって……というオチである。
エルフに転生した者ですらこれなので、人間でありながら魔法が使えるタイプはもっと失敗率が高かった。
折角魔法が使えるような転生をしても、使い方でことごとく失敗する。
ある者は暑さを解消しようと氷を出そうとして、逆に自分が氷に閉じ込められて凍死したりだとか。
ある者は冬の寒さをどうにかしようと炎の魔法を調整し、ストーブみたいにしようとしたものの失敗して自分が火だるまになったりだとか。
まぁ、そういった失敗がそこそこあった事で魔法に関して使うのであればある程度の資格が必要である、という方向になったのはある意味で発展したと言えるのかもしれないけれど。
そういうこっちゃないんだわ……というのがリーシャの本音である。
もっとこう、前世の知識を使って色んなものを発展させてほしかったのに、何故だかどいつもこいつも死ぬ。
特大の溜息を吐くのも仕方のない事だった。
前世の知識で無双してハーレム展開とかいうのだって、頑張れば可能なはずなのにまず無双する前に自滅する。そこを乗り切れば色んな美女をより取り見取りだというのに、大抵のハーレム願望ありきの転生者が志半ばで死ぬ。
まったりスローライフ系をお望みの転生者も、大体死んだ。
魔法での発展が無理でも科学での発展ならいけるんじゃないか、と望みを持っても困ったことにリーシャが引っ張り込んだ転生者たちの中で科学者だった人がいなかったからか、そっち系での発展もなかった。
仮にあったとして、ダイナマイトのような物を作った時点でうっかり自分も巻き込まれて爆死とか、化学兵器を作ってしまった事で戦争が過激化し世界の滅亡、という可能性がとても高かったのでいなくて正解だったのかもしれないが。
それ以外にも。
魔物と遭遇して死んだ、というのもあるにはあった。これは普通の死に方だとは思うのだが、しかし転生者の死に方は少し違った。
本来ならば魔物と遭遇すれば普通の人は逃げるか戦うかの二択だ。
けれども転生者は。
何故だか危機感ゼロで近づいて、そうして殺されるのである。馬鹿なの!?
この世界のスライムは、まんまるくてぽよんぽよんした見た目をしている。確かにちょっと可愛いかもしれない。だがしかし、その体内は酸性で獲物を取り込んだならそのまま消化していくのである。なので、未消化の獲物が時々スライムの体内で見えているという事もある。
とある転生者は何も食べていない状態のスライムを見つけて、無防備にも近づいてまんまと取り込まれてしまったのである。
普段のスライムの大きさは大体小型犬と同じくらいで人間の大人が抱きかかえるくらいなら丁度いい大きさと言える。
けれども獲物を取り込む時、スライムはぐわっと身体を大きくして自分より大きな獲物だって取り込んでしまうのだ。
結果として転生者はスライムに取り込まれ、体内の酸により生きたまま溶かされ死んだのである。
リーシャだって気持ちはわからないでもなかった。
前世、スライムは国民的人気のモンスターでもあったので。見た目は違えども、そこまでグロテスクな感じじゃなかったら確かにホイホイ近づいたかもしれないのだ。
ただし、何も知らなければ、という前提があるけれど。
この世界に転生した以上、魔物とは見た目がどうであれ危険とされているのでそれをわかっているならまず近づこうとしないのが常識なのである。
知らないのなんてそれこそ、生まれたばかりの赤ん坊くらいだ。
だというのに。
スライム以外の魔物でも死んだ転生者がいた。
これが戦って死んだ、とかであればそれについては転生者じゃなくたって有り得る死に方なのだけれど。
見た目が可愛らしい魔物と遭遇した転生者は何故だかその瞬間危機感と生存本能を投げ捨てるのか、
「きゃぁ可愛い~」
と近づいて殺されたり、
「こいつぁ金持ちに高く売れるんじゃないか? ペットとして」
なんて感じで捕獲しようとして返り討ちにあう。
この世界の生まれである人から見れば、そんな馬鹿な死に方ありますか、と言っただろう。
なんだったらリーシャも言った。
「はぁもうこれ一体どうしろって言うの……」
近々世界がどれくらい発展したかをそれぞれが発表する会があるのだが、リーシャの成果は芳しくない……どころか多くの転生者を引き入れても成果はゼロといっていいくらい何もなかった。
魔法関連で安全性に関する法が決まりつつあるのはいいけれど、その程度を発展として発表するとなるとあまりにもささやかすぎて他の神々からの失笑は確実だろう。
「どうも何も」
「えっ!?」
思わず頭を抱えて嘆き悲しみたい衝動に駆られていたリーシャの背後から突然声がかかって、咄嗟にリーシャは振り返っていた。
そこにいたのは自分よりも遥かに上の立場である神だった。
「リーシャ、お前に関する通報があった」
「えっ!?」
「戦争を起こしたわけでもないのに、寿命や病気、事故以外で命を落とすものがあまりにも多い気がする、と他の神からな」
いやあの、転生者たちのあれは全部事故だと思うんですが……と思ったもののリーシャの口からその言葉は出てこなかった。災害だとかで大勢が死んだ、とかであればまだしも、確かに短期間で多くの命が亡くなり過ぎたのである。
勿論、人が死なない日なんてありはしない。世界のどこかで今日も誰かが死んでいる。
だが、リーシャの世界ではそれが通常の基準値を超えていた、それだけの話だ。
結果として他の世界はどうなってるんだろう、と興味をもった他の神がリーシャの世界を垣間見て、えっ、こんな人がバタバタ死んでくの? と疑念を抱いたのだろう。あまりにも自分の世界と比べて死に過ぎている、と。
「故にこちらで密かに監視していたのだが、確かにその通りであった。
……お前、意図的に己が世界の住人を死に向かわせていないか? そうでなければこのような死に方が増えるとはとてもじゃないが思えない」
監視ついでにその結果をとっくにまとめていたのだろう。
ずい、と出されたレポートを見れば、リーシャが今まで見てきた転生者たちの死亡例がそれはもう細かく記載されていた。
その死に方、死にざま、まさに万博博覧会かと言われる勢い。
そういったケースを集めた博物館でも作ろうとしている、と言えば納得されそうなくらい詳細が綴られていた。実際そんな博物館を作ろうと思って、なんて言えばお叱りは間違いないので決して言うつもりはないが。
「結論として、次の発表会にお前の参加は認められなくなった。
というか、お前に世界を運営するのは不適格だと判断された」
「えっ? そんな」
「死地を脱する、とかで自ら死に向かいかねない行いをする者も中にはいるが、そうではないのに自ら死を選ぶような事をする人間があまりにも多すぎる。このままでは世界は崩壊の一途をたどるのが目に見えている故に、お前は不適格、と上の判断だ。
故に現時点をもってお前の世界は他の神が引き継ぐこととなる」
「えっ、えっ? あの、ちょっと」
「お前には再教育としての勉強会参加と、世界運営をしなくなった事で余った時間は他の労働に回される事となる」
「待って下さい! そんな突然」
「突然? 全くそんな事はない。お前がいたずらに魂を消費させていたのは少し前から知っていた。そしてこの結論に至るまでに使った時間は、まったく突然とは言えない。
発表会を前にせめてどうにか軌道修正するかと思いきやそんな事もなかったしな」
軌道修正しようとしたのに皆が勝手に自滅してくんです、とは言えなかった。
リーシャにとって事実でも、他の神からすればそんなものは単なる言い訳でしかないので。
「自分で自分の命を終わらせるような者を多く内包するなど、愚の骨頂だろうに。今までは他の世界の魂を引き入れる事も新しき風を受け入れるとして大目に見ていたが、これからは規制が厳しくなるだろうな。
お前のせいで」
向けられた眼差しがあまりにも冷ややかだったので、リーシャは反論しようと思った言葉を結局のみ込んで黙るしかなかった。
リーシャは今まで前世の記憶があって転生したならイージーモードでいけるっしょ、と思っていた。
思っていたが、実際は全くそうではなかった。
それどころか。
自分もまた前世の記憶によって気付けなかったのだ。
他の神々の世界は発展のために確かに失敗もするけれど、自分で自分の命を殺すような事を軽率にしていなかったという事を。
リーシャの前世、日本では最も多い死亡原因は自殺であった。
そしてそれが当たり前であったが故に、傍から見れば自分から自分の命を終わらせにいっている者たちというものを、自殺しているという認識すら持たず自滅だとか事故として見なしていた。
本来ならば、生まれた世界で育てられているのなら、それがどういう結果になるか、なんて親から教わったりしているはずなのにそれでも転生者たちは前世の記憶によって異世界での親からの教えを軽んじて、そうして自ら死に向かった。
たとえ親がいなくとも、それでも一人で生きて育ってきたものは転生者の中にはいなかった。
常に、誰か親の代わりで面倒を見てくれる人はいたのだ。
それが兄弟であったり、近所の人であったり、はたまた何らかの先輩と呼べる立場の存在であったり。
だがそれでも、彼らはやらかしたとしか言いようがなくて。
どんどん自らの命を自らの手で終わらせていく者たちが増えていく様を、たまたま見てしまった他の神はてっきりリーシャが自棄を起こしたのだと思った。中々発展しない世界。
それもあって、一度すっぱり真っ新な状態に戻してやり直そうとしているのではないか、と。
だがその手段もまた、余程の事がないと認められないものだ。
では、リーシャは自分の世界をその余程の事態にしようとしている?
そう考えた他の神が上に事情を説明し、相談した結果密かに監視がつけられた。
起死回生の手段だと思ったリーシャとは別に、監視していた神の目からもリーシャの世界は異様な光景であったのだ。
何故こうも自ら死を選ぶ者が多発しているのか。
リーシャがそういう風に人間を誘導しているのではないか。
いや、それ以前に。
リーシャはこの光景を、何も異常だと思っている様子がない。
……彼女は果たして本当に正常なのだろうか。
力を持つが故にそうではない者を見下す神もいたし、リーシャは確かにそれら神々の嘲笑の的だった。
だが、だからといってこんな世界運営をしたところで、嘲笑以前に頭の心配をされるだけだ。
今度は可哀そうなものを見る目を向けられるだけ。
それも、嘲笑がなくなるわけでもないので事態はより悪化するだろう。
そうなった時、実力差があろうとも神々同士の戦いが勃発するのはよろしくない。
一方的な決着がついたとしても、被害がゼロでは終わらないのが神々の戦いである。
故に、リーシャから世界運営の権利を剥奪するという結論が下され、そういった神々と隔離することが決定されたのである。
とはいえ、それはつまり、神として不適格という烙印を押されたのと同義なので。
リーシャが抗議をしようとするのは当然であった。
「既にこれは決定事項だリーシャ。
お前には再教育プログラムが施される。
何、正常に戻ればまたいつか戻れる日もくるだろう」
「いやあの、ホントちょっとまっ……」
リーシャの言葉は最後まで続かなかった。
リーシャに判決を突きつけた神が、彼女を更生施設へと転送したが故に。
ちなみに、更生施設とは言うもののその実態は神として落ちこぼれの烙印を押された者たちが集う、雑用施設である。いつ出られるとも決まっていない長い年月を、延々下働きとして扱き使われる。
人間でいうところの――奴隷落ち、というやつであった。
異世界転生して前世の知識で無双どころか失敗していく奴は間違いなくいる。
作中にないけど多分前世の治安基準で考えて夜に軽率に一人で出歩いて殺されたり奴隷として売られたりした奴も多分いる。
次回短編予告
失恋した女がモダモダする微妙にぐだぐだした話。
自分でも何書いてるのかわかんなくなってきたけど折角なのでお焚き上げ投稿しとこうと思う。