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エピローグ 名探偵令嬢の指輪交換 (第二部最終話)

 大陸を再び揺るがした大事件は、世の中に変革を余儀なくさせた。

 ダンジョンが魔力を吸収するという性質は、どうやらどの場所であっても多かれ少なかれ備わっていた機能らしい。

 よって、今回のような膨大な魔力リソースを捻出(ねんしゅつ)する方法があるかもしれず、その悪用を取り締まる必要もあった。


 結果としてだが、大陸全土において冒険者の活動はこれまで以上に活性化。

 人員は全くの不足で、恩赦(おんしゃ)という名目を掲げて、魔獣化事件の功労者である囚人達に、冒険者家業へと従事するべしという沙汰(さた)が、パロミデス王直々に下された。

 彼らは今後、ダンジョンの謎を解き明かすため、働いていくことになるだろう。


 無名都市は、大きく荒れ果てたものの健在。

 ゆえに犯罪王という〝機構(システム)〟も未だ健在であり、よの情勢が乱れることに反応して暴れだそうとした犯罪者たち、その多くが手綱を握られることとなった。


 シャオリィ・ヴァーンは決戦後、無言のまま帰途についた。

 いまはまだ告白すべき時ではないと、もっと偉大な男になって夢を叶えてから(さら)いに来ると宣言し。

 その宣言の途中で、エドガーさまに追い返されていた。

 カレンはこれを見て、「ロマンスでございますな」と、のほほんと笑っていた。


 塔から生還した後、私は祝賀という名目の舞踏会へと出席することになった。

 この日のために(あつら)えた(みどり)のドレス、靴、アクセサリーを身に纏い、私は閣下と幾度も踊って。


「誰もがお前に目を奪われる」

「……なぜですか、閣下?」

「美しいからだ。見てくれよりも、芯に宿る魂と誇りが」

「そういうものですか」

「クク、お前ほど褒め甲斐のない妻も珍しかろうよ、ラーベ」


 なんて、よく解らないやりとりをして。

 そんな、非日常的な出来事は、瞬く間に過ぎ去っていく。

 世界は復興し、人々は改善し、謎を探求し、すべてを当たり前のことに変えていって。

 そのなかで私に戻ってきたのは、日常と呼べるもの。


「迷いましたし、悪戦苦闘しましたが……食べて頂けますか?」


 本日私は、屋敷でエドガーさまのため、本格的な料理を作成した。

 彼の好みは結局解らなかったので、まずは自分が好きなもの――たっぷりとお砂糖を使ったアップルパイを作ったのだ。

 見てくれには自信がある、味だってレシピに忠実だ。

 けれど残る、一抹の不安。


 席に着き、じっと切り分けられたパイを見詰める閣下。

 その瞳の色が、いまはなに色をしているか解らない。

 私が不安に耐えきれず声をかけそうになったとき、彼はフォークを手に取って、パイを一口、頬張った。


「……どうでしょうか」

「…………」

「これは、私の好きな味です。色々試行錯誤しましたが、エドガーさまの好みは解りませんでした」


 それは大変忸怩(じくじ)たる思いだが。

 けれど、謎を解き明かす方法は他にもある。

 答え自体を、変えてしまうという荒技が。


「好きに、なって頂けるでしょうか?」


 私が好むものと、同じものを。

 その言葉は飲み込む。

 いくら悪徳の大家の娘とはいえ、そこまで傲慢になることは恥ずかしかったから。

 長い、長い沈黙の時間。

 やがてエドガーさまは、もう一切れパイを切り出し、私の口元へとフォークを伸ばした。


「えっと?」

「食べよ」

「……では」


 パクリ。

 ……うん、我ながらうまく出来ている……と、思う……のだけども……。


「どうだ」

「甘いです」

「そうか。俺も甘いと思う」

「甘すぎますか」

「……悪くはない」


 彼が眼差しを伏して、ゆっくりとあげる。


「……お前の思惑に乗ろう。俺はたったいまから、このパイを好物とすることに決めた」

「まあ!」

「ゆえに、ラーベ」


 彼の眉目秀麗な顔が接近する。

 何かのアクションを起こそうとするよりも早く。

 私の口元に、彼の唇が――触れた。

 (かす)かに、けれど確かに。


「――!」

「パイの皮がついていたのだ、許せ。俺には美しき妻にかかる、全ての困難をはね除ける義務があるのだ」

「とはいえ、これは――健全ではないです!」


 よろしくないし、恥ずかしいし。

 なにより。


「……私たちは、夫婦なのです。求めるのなら、初めからそう仰って下さい」

「ク――クク、くはははははは!」


 閣下が、顔を押さえ、腹を抱えて大笑いされた。

 蛍石の瞳からは、涙さえこぼれている。

 いくらなんでも笑いすぎだ。私はそんなに変なことは言っていないのに。


「もう、何ですか!」

「いや、重ねて許せ。ただ、こう思ったのだ」


 なんです?


「お前はつくづく、俺を退屈させぬ妻だと」


 彼の大きくて無骨な手が伸びる。

 優しく私の手が取られて。

 カツリと触れあったのは指輪。

 閣下が、私を真っ直ぐに見据えたまま告げられた。


「指輪の件、すまなかった。許せとはいわぬ、存分に罵れ」

「私を守るためだったのですから、何も問題ありません」

「ならば誓おう。俺の全てもまた、お前にだけは開陳すると」


 彼の左の薬指にはまっているのは、私と同じ指輪だ。

 望めばいつでも、私は彼の言葉を聞けるだろう。

 けれど……必要ない。

 少なくとも、いまは――


「どうか、この耳で聞かせてください。エドガーさまは、何を望まれるのですが?」

「……謎解きはよいのか? 推理せず、答えを求めると?」

「はい、だって」


 私は、彼の双眸を。

 穏やかさと(はげ)しさ、鉄の意志と慈しみを共に宿す眼差しを受け止めて。

 やわらかく、囁いた。


「とっくに、明瞭なことですから」

「――お前が欲しい。まずは、その唇を」


 私は目を閉じて。

 これ以上無い充足感とともに、その瞬間を受け容れたのだった。


 かくして此度(こたび)も謎は解き明かされる。

 私はこれからも変わらずに生きていくだろう。

 目前に現れる全ての疑問を解決し、あらゆる謎を解き明かす。

 けれど、決して一人では無く。


 ときには閣下と、寄り添って。


 それがきっと、私に許された。

 最大の幸せだと思うから――





第二部 『名探偵令嬢、帰る場所を手に入れる 編』 終






これにて第二部 『名探偵令嬢、帰る場所を手に入れる 編』は完結です。


読み終えて面白かったようでしたら、下にあります評価欄をクリックして★★★★★にしていただけると作者が飛び跳ねて喜びます!


面白くなければ★☆☆☆☆としていただければ、次への糧となるでしょう。


後学のため、感想やレビューなども気軽にしていただけるとうれしいです。

ここが好きとか、ここがもっと見たかったとか、どんどん教えてあげてください!

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