閑話 皆人類魔獣化事件 ~犯人視点~
キー! すべて台無し、失敗、おじゃん!
何もかも、一切合切、お姉様の所為ですわ……!
とまあ、怒り心頭ですが……わくし、リーゼ・クレエア、結構頑張ったと思うのですよ。
事前に各地の冒険者達を唆し、開かずの宝箱を見つけさせるためダンジョンの奥地へと向かわせましたの。
ですが、なかには冒険者としての生活よりも他に大事な物を持っている優秀な者も多く――たとえば自分の元を去った女に未練たらたらのスライムテイマーとかですわ――彼らを再びダンジョンへ差し向けるため、お姉様を利用することになりました。
貴族階級で宝箱が珍重されるよう、社交界で身分を隠しつつ風聞をばら撒いたり、万が一にでも宝箱が破壊されそうになれば妨害する――これもお姉様を利用しましたわね――と、本当に忙しい日々を過ごしました。
もう少し日程に余裕があれば、砂漠とかいう僻地の大将を気取っていた禿頭の巨漢を完全籠絡! ……出来たはずなのですが、阻まれました。
ここは素直にあの耄碌ジジイ……いえ、犯罪王の手腕を讃えるべきでしょう。老いてますます盛んとは、さすが古き悪徳の血筋ですわ。
そして今回の魔獣化計画!
わたくし、これにはもう大反対で!
〝結社〟の意向とか知ったことではないのですが、縦社会の辛いところ、上からの命令には逆らえず、実行に移すこととなりました。
いや、マジでヤバすぎる準備だったんですのよ。
王家に取り入るため、好きでもない第三王子に愛想笑いを向け続けること三年強。
とにもかくにもご機嫌を取り、教養があるところを見せつけ、心にもない睦言を紡ぎ続けてようやく手にした婚約者内定。
しかしこれ、前回の大陸動乱で吹き飛んでしまったので、しかたなく王子の身柄を死亡したことにして確保。
仮死状態のぼんくらを、あの手この手を尽くして復活させて、よし叛旗を翻す旗印にするぞ――というところで、〝結社〟によって魔獣化。
それがわたくしの手駒になるわけでも無く、制御権は奪われっぱなし。
正直、泣き崩れそうでしたが、わたくしに涙は似合わない、だって悪の貴族だもん?
ネバーギブアップの精神で、いつ背後から襲ってくるかも解らない魔獣を制御するためのアイテム採取に向かいます。
目をつけたのは伝説上の魔導具、龍血杯のサンプル。
そして、同様の効能を持つ液体。
これ自体は各地に点在しますのでなんとかなりましたが、魔獣を操れる形へ加工するのには骨が折れました。
幸いにも辺境伯領に腕の立つ職人が居りましたので、隣で靴を作りつつ待機。
無事にいまの形である鞭へと仕上がったわけです。
その後は、古の昔に作られた、魔獣化計画の基点となる制御塔を探して東奔西走。
果ては密林から極寒地帯まで探し続け、ようやく見つけたのがほんの数日前。
突貫工事で内部を整備していたところに舞い込んできたのが、お姉様を利用しろという〝結社〟のお達し。
おや、何かお気づきになったような顔をして、どうしましたの?
……はい? わたくしがお膳立てをしたようだと?
あらあら、あらあらあら。
それではまるで、わたくしが!
〝結社〟の計画を挫くため、冒険者を養成し、お姉様へ協力するよう恩を売らせ。
〝宝箱〟を砕きうる戦力を集めるため、王都を含む街々へ超人を配備し。
解毒薬の準備のため、無名都市の抱える権力闘争問題をクリアーにした……そう言っているように聞こえますわね!
しかもそのすべてが、お姉様のためだったなんて――ええ、あり得ませんことよ?
ただ、これだけは言えますの。
〝結社〟は人類を次の階梯へ進めたいと考えております。
そして、自らたちが管理したいと。
それは、いまの王制よりもよほど醜悪な利権構造。
邪悪といってしかるべき謀略。
――そんなもの、クレエアは絶対に許しませんわ。
魔獣化計画は千年以上も昔から連綿と受け継がれてきたもの。
万が一の備え。
〝結社〟はこれにフリーライドしただけ。
私利私欲を満たすために、他者を踏みにじり、尊厳を砕く。
これは人を食い物にする邪悪に他なりません。
ですが、だからこそ〝結社〟は気が付かないのです。
人を食う邪悪がいるように。
邪悪を蝕み滅ぼす漆黒――悪の貴族が、いることを。
お父様もお姉様も無自覚でしたが……いえ、お姉様のことなので無視しているだけなのでしょうが、我らクレエアとはそのための装置。
この世にいかほどの悪徳、暴悪、邪悪が溢れようとも。
必ずそのカウンターは、現れるのです。
……というわけで、納得したらわたくしを解放なさいなオレンジ髪の従僕。
え? なんです? もうひとつだけ質問させろ、ですか。
はぁ……では、どうぞ。
「ラーベお嬢様にとって、おまえはなんですか?」
――これは、愚にもつかない問いかけで、主従揃って本当にみそっかすのボンクラですわね。
決まっているでしょう、わたくしは。
お姉様の敵、それ以上でもそれ以下でもありませんわよ。
ええ、まったくそれこそ――明瞭なことに、ですわ。




