表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/129

閑話 霧のなかの大男事件 ~犯人視点~

 不倫、姦淫、キッチリの欠片もありません! ノーキッチリです!

 自分ことアンナ・カリソンにとって、これはじつに由々しき事態でありました。


 ディビッドとの出会いは、あまり趣味のよいものではありませんでした。

 町を見回る中で、大酒飲みの革職人がいた。

 飲み屋でたびたび飲酒絡みのもめ事を起こし、そのたびに自分が駆け付けるはめになる。

 なんとキッチリしていないやつだろうと自分は思い、治安維持のために禁酒か喧嘩禁止を申しつけるべきかと悩み。

 けれど、そんなことを何度も繰り返す打ち、彼に頼られているように感じ始めたのであります。


 いつしか自分の中で、ディビッドの存在は大きくなっていきました。

 非番の日は、彼の家へと押しかけて食事を作るのであります。

 なにせ仕事を始めると、彼は寝食を忘れがちなので。

 それでいて帳簿などは豆に付けており、予定を忘れることはなく、自分が事前に休みの日を告げていれば退屈だろうからと話をしに来てくれたりもしました。

 もっとも、お酒付きではあったのですが。


 彼はひとりでは生きていけないように思えました。

 端的にいって社会性の欠落した職人だったからです。

 なので、見回りの区域を彼の家周辺に変更してもらい、自分は一心不乱に警邏を行いました。

 少しでも犯罪の芽を摘み、事故を未然に防ぎ、彼が健やかに暮らせるようにと願ったのであります。


 いつしか自分の中で、ディビッドの存在はとても大きくなっていました。


 ――だからこそ、許せなかったのであります。

 靴屋とあんなにも仲むつまじそうに言葉を交わす彼が。


 しばらくは我慢しておりましたが、やがて不安になり、彼の元へ問い詰めに行きました。

 大雨の中、ずぶ濡れの自分にタオルを差し出してくれた彼。

 ああ、いつもの彼だと思ったのも束の間、置いてあるハーフフッド用の靴が目に入った瞬間、自分の理性はぶっ飛んだのであります。


 あんなにもキッチリと修繕が施された靴、他に見たことはなかったので。


 その場にあった鉄底の靴を拾い上げ、温かい飲み物を用逸してくれていた彼の頭を思いっきり一発。

 倒れ伏し、頭部から血を流すディビッド。


 やった、やってしまったと心底震え上がると同時に。

 スカッと爽やかな気持ちにもなりました。

 そう、やってしまったものは致し方ないのであります。

 だらしなさから誅伐(ちゅうばつ)を加えたのですから、今度は自分が〝キッチリ〟しなくてはなりません。


 この状況を最大限利用する。

 それが、犯罪者としてのキッチリ!


 というわけで、罪の全てをあのいけ好かない靴屋におっかぶせようと考えた次第であります。

 決まってしまえば行動あるのみ。

 これまでたくさんの犯罪者を自分は見てきましたから、これをキッチリ真似すれば、割と上手くいくはず。


 そういえば、足跡から逮捕に繋がった犯人がいました。

 つまり、この靴を履いて彼女の店まで足跡を残せば、自動的に冤罪をかけられるのでは?

 しかし、サイズが違う以上、満足に履くこともままなりません。


 そこで自分は閃きました。

 適当に工房の中にあった革紐を持ってきて、ハーフフッドの靴を自分の足に縛り付けます。

 これで、キッチリ!

 完璧な足跡が出来るはず。


 丁度雨も上がっていたので外へ飛び出すと、凄まじい濃霧でした。

 日が差して、霧のなかに自分が浮かび上がってきますが、その光景に気を取られている暇はありません。

 いまは雨の後ということもあり人通りが皆無ですが、もうしばらくすると住民達が一斉に目を覚ますのですから。

 この区画の人々は、本当キッチリしています。


 というわけで、店の前にまで来ました。

 微かに物音がしたような気がしましたが……いまは先を急ぐので無視。

 外付けの靴を外し、本来の靴に戻します。


 ふふふ、自分は大変賢いのでここからの脱出経路もキッチリ考えております。

 そう、靴屋の前から表通りへは飛び石が伸びて――いない!?


 え? あれ? 途中で途切れています。

 どうやら、メインストリートは管轄区画外であったため、直結していると思い込んでいたようなのです。

 ノーキッチリです!

 このままでは、足跡から自分こそが犯人だと特定されかねません。


 窮地、絶対に窮地!

 自分の全能を動員して、何としてもこの急場を凌がなければなりません。

 一瞬が数時間にも思えるほどたっぷり考えて。

 そして自分は思いつきました。


 そうだ、保全魔術を使えばいいと……!


 ……ええ、はい。

 ここまではキッチリ完璧な計画だったのです。

 完全犯罪といってよかったでしょう。

 ですが、自宅で待機していた自分のところへ、あの不吉な黒色はやってきたのです。


 キッチリしすぎていて、逆に怖ろしい彼女は、自分から根掘り葉掘り情報を得ていきました。

 そして、事件の真相が語られたのです。


 ……いま、ですか。

 いまはもちろん、反省しています。

 犯罪に手を染めたことで、きっと頭がおかしくなっていたのでしょう。ずっとパニックだったのであります。他人に濡れ衣を着せようなどと考える人間が、キッチリなどしていたわけもなく。


 ただ、不幸中の幸いもありました。

 ディビッドが無事だったことです。

 彼は自分を許すと言ってくれました。

 そして待っていると。


 今後、自分の処遇がどうなるかは、あの黒い女とその保護者のように見えた偉丈夫にかかっているのでしょう。

 しかし如何なる罰も、キッチリバッチリこなして見せます。

 でなければ。


 ディビッドに、合わせる顔がありませんので!






これにて第十章 霧のなかの大男事件は決着です。

そしていよいよ第二部最後のエピソードへと、物語は向かいます。


読み終えて面白かったようでしたら、下にあります評価欄をクリックして★★★★★にしていただけると作者が飛び上がって喜びます。


面白くなければ★☆☆☆☆としていただければ、その叱咤激励に感謝してむせび泣くことでしょう。


どうぞブクマもしてやって下さい。


後学のため、感想やレビューなども気軽にしていただけるとうれしいです。

ここが好きとか、ここがもっと見たかったとか、その一言が作者のハートに火を灯します。


最終パート、全力至力で臨みますので、何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ