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第七話 解決編

「ハーフフッドには幾つか特徴があります」


 事件の現場である、ディビット氏の工房前へ。

 警邏団の皆さんを含む関係者一同を集めて、私は一席講釈を打つ。

 といっても、誰もが知っている常識の話だ。


「まず第一の特徴は、身長が小さいことでしょうか。この小さいというのは、トールマン視点です」


 背の高い人間(トールマン)などという種族からすれば、おおよその人種は背が低く見える。

 もっとも私の身長みたいに小柄なものもいるので、個体差は大きいと思ってもらっていい。

 さて、話を戻そう。


 ハーフフッドは、平均してトールマンの子どもほどの身長だ。

 手や足のサイズはこれに準じており、だから足の大きさ半分(ハーフフッド)


「種族全体の特徴として、手先が器用で耳がよく、冒険者でいえば斥候職(スカウト)、日常に類するものであれば職人全般に向いているとされています」


 彼ら彼女らが作り上げる手芸品や工芸品は、貴族の間でも大変珍重されている。

 一方、民間でも長持ちする丈夫な品物として重宝されていた。


「身体の小ささを活かして砕掘の仕事をされる方々もいますが……体力的にはさほど秀でてはいません。これは筋力でもそうです。体格相当のものとお考えください」

「では小鳥、靴屋の店主にはディビットを殴打出来なかったと言いたいのか?」


 確かに身長差と腕力を勘案に入れると、直立状態のディビット氏を殴ることは非常に難しいだろう。

 しかし、それは道具を使えば解決する。


「例えば棍棒のような物を持っていれば、頭部にギリギリ届いたはずです」


 だから、この仮定をもってシェレンさんを容疑者から外すことは不可能だ。


「ですが、ハーフフッドには、もっと重要な種族的特徴があります。さきほど、冒険者における斥候職を例に出しました。なぜハーフフッドはスカウトに向いているのでしょうか」


 これに、シェレンさんがおずおずと挙手をして答える。


「思うに、罠を回避出来るからではないでしょうか」

「明瞭な答えですね、正解です。そう、感覚器に優れ小柄な彼らは罠にかかりにくい。その最たる理由は――」


 私は、地面を強く踏みしめ、告げた。


「たとえ重量感知式のトラップを踏んでも、体重が軽すぎて引っかからないからです」



§§



「体重が軽い。クク。なるほど、あれか」


 閣下が何かを思い出したように喉の奥で笑う。

 私は頬が赤くなりそうなのを必死に律して咳払い、説明を続ける。


「この、体重が軽いという事実が何に直結するか、シェレンさんにはお解りですか?」

「……靴は薄手で、底面積が狭いものが好まれる、でしょうか……」


 そう、それがほぼ正解を意味する。


「では、こちらを御覧下さい」


 私が示した先に、一同の視線が集中する。

 それは保全魔術によって形状を(たも)っている、事件当時の足跡。

 ハーフフッドのものと思われる靴跡。

 深く、しっかりと刻まれた痕跡。


「いくら保全魔術がかかっているからといって、ここまでしっかりと残存することは珍しいです。それはなぜか」


 決まっている。


「この足跡は、深く刻まれているのです」

「あっ!」


 声を上げたのはシェレンさん。

 そう、彼女だけは、誰よりも速く理解する。

 これまで多くの靴を作り、お客さんの足に泥が跳ねないよう店の前に飛び石まで作った彼女だから。

 真摯に靴と向き合い、知り尽くしている彼女は思わず明言してしまう。


これは(・・・)ハーフフッドの(・・・・・・・)足跡ではない(・・・・・・)?」

「その通りです」


 理由は単純極まる。

 ハーフフッドは体重が軽いからだ。

 どれほど雨が降って道がぬかるんでいても、ここまでずっぽりと足がはまり込むことはない。

 よほど重い荷物でも持っていたならば別だが、そんな痕跡は残されていない。

 つまり、この靴を履いていた人物は。


「トールマン並みの体重があった。そう、トリックは既に明瞭ですね? 自分の靴の下に、このシェレンさんの靴を押しつけ、紐で巻いて固定したのです」


 それが、靴跡に残る細い線の正体。

 では、なんのためにそんなことをしたのか。

 どうしてシェレンさんの家の前まで足跡を残さなければならなかったのか。


「理由は二つあります。ひとつは、これ以上の痕跡を残さず、飛び石を伝って大通りまで逃げるため」


 そしてもうひとつは。


「シェレンさん、あなたに罪をなすりつけるため。そして、このトリックを実行出来、それを示唆する証言をした人物がひとりだけいます」


 私は、警邏団の面々を。

 否――彼女(・・)を真っ直ぐに見て、告げた。


「あなたが犯人ですね――アンナさん?」

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