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閑話 消えた龍血杯事件 ~犯人視点~

 やーらーかーしーたー!

 そんな絶叫を飲み込めたのは、あたしことタルバ・ヴァーンの人生でも数少ない幸運だったと思う。


 次期犯罪王の選定祭祀準備というクソ忙しいなか、あたしは部下に宝物庫の管理を任せたわけ。

 もちろん信頼してたからね。

 でも、蓋を開けてみれば龍血杯を壊しちゃってさ、しかもその価値すら知らないときてる。


 正直、頭の中をいろんなことが過ったわけ。

 こいつらキルって隠蔽する?

 もしくは責任を全部部下におっかぶせる?

 或いは勢力闘争で上を追い落とすために使う?

 ……とかね。


 でも、ありえない。

 あたしは犯罪銀行の頭取で、煙龍会の第四席。

 金を貸し付け取り立てはしても、部下に責任をなすりつけ、家族に冤罪をかけるなんて絶対やらない。

 だって紙幣の元になる植物の、その花は白いんだから。

 清廉潔白に生きては来なかったけど、資産財産に関しては誠実でありたい!


 つまり……誤魔化すしか、無いわよねぇ……?


 難しさを理解した上で、それでも挑むのが銀行屋!

 まずは配下から壊れた杯を回収。

 ここで銀行屋(あたし)の勘が告げる、誤解しているならつけ込めばいいと。

 そう、杯を壊した部下は、これが犯罪王の制定に必要な貴重品とまでは知らない。

 だったら、価値がないことにしてやればいい。


 え? 誠実さ?

 ……誠実さで金は稼げねーのよ!

 あと罪も帳消しにできねーの!


 とにもかくにも、杯の再生を試みるけれど上手くいかない。

 やっぱり魔導具ってのは、いっぺん完全に壊れると修復出来ないものなのよね。


 じゃあ、どうしたらいい?

 壊したと正直に報告すれば……間違いなく部下の首が飛ぶ。

 一番丸いのは、そう……盗まれたことにすることだ。


 あたしは大急ぎで杯と同じ色合い、土を使っていると思われる古美術の壺を購入。

 オークションに出品されていたので、金に糸目を付けず是が非でも落札する。

 何か値をつり上げようとしやがったやつにはダブルスコアを突きつけて黙らせた。

 あいつら、この一件が終わったら報復してやるから待ってなさいよね……!


 で、壺の中に杯の破片を仕込み、さらにちょっとしたことで倒れるように細工。

 全体に微細はヒビを入れて、これで砕け散ってくれるはず。

 そうなれば杯と壺の欠片は混ざって、一見して判別がつかなくなる。


 準備が整ったので実行。

 機を見るに敏、電光石火、兵は拙速を尊ぶ、銀行屋の好きな言葉よ覚えておきなさい。


 宝物庫へ連れて行ったのは同じ配下。

 めちゃくちゃ気を遣って行動しているところマジで悪いんだけど、あんたらには泥をかぶってもらうわ。

 ちゃんと最終的な責任は上司のあたしが取るから! 大丈夫だから!


 というわけで、風魔術を起動して壺を倒そうとしたのだけど……うそ、上手くいかない!?

 焦りながら、何度も魔術を起動。でも全部失敗。

 ちょっと泣きそうになったところで、ガシャンという音が響いた。

 ……どうやら、部下達がやらかしたらしい。

 結果オーライだけど、ちょっと今後の身の振り方を考えてもらいましょうね……。

 二度目はさすがに査定に響くものよ……。


 とにもかくにも、これで時間が稼げたわ!

 事実、組織内部では盗難説が有力に。

 この間にあたしがすべきこと。


 それは……陶芸教室へ通うことね!


 だって、修復不可能な龍血杯は、当然市販品なんて無い。

 でも、盗まれたままなら組織は面子を懸けて捜索隊を用意する。そうなったら詰みよ、あたしだけじゃなく部下達まで。

 だったらもう作るしかないじゃない!


 なので、土をこねる。

 ひたすらこねる。

 それは土精との対話。

 心を落ち着ければ、自(おの)ずと土本来の形が見えてくる。

 そう、このように……ってダメじゃん!


 ぜんぜん、ぜんっぜんっ、元の杯と形が違う。なんかふにゃふにゃしてる。

 難しい、思ったよりも陶芸難しい!

 けれど負けないわ、あたしは頭取。

 銀行のトップに出来ないことなんてあっちゃいけないのよ!


 そうして、三日ほど寝ずに頑張った結果、うまいこと完成したわ。

 あれ? ひょっとしてあたし、才能に溢れてる……?

 あたし、万能才女?


 なんて陶然としながら、陶芸にのめり込みすぎておろそかになっていた山のような書類を整理していると、なんか美形偉丈夫と黒い怖い女がやってきたわけ。

 ……一目見て、関わり合いを持っちゃいけないってのが解ったわ。

 だってあれは、なにもかもを明らかに(・・・・)してしまう(・・・・・)。


 事実、あたしの犯行はすぐに看破され、こうやって家族の前で晒しあげを食らったってわけ。

 でも、一つだけ訂正。

 あの娘、邪悪ではなかったわ。

 だって、こちらの思惑も、そして家族達がこっそりあたしのために罪をかぶろうとしていたことも、全部内緒のままにしてくれたんだから。


 案外シャオリィちゃんも、そういうところに惚(ほ)れたのかもね。

 あーでも……これさ、シャオリィちゃんに伝えておいて頂戴な。

 あんた。


 十割勝ち目無いわよってね。


 お願いよ?


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